竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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10、守護竜不在の学院編

158、其は覆らぬ白の臣にて

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『それでは、優勝者にトロフィーを……』
 アナウンスが響いていた。
 
「私が、貴方を……!」
 黒猫にユージェニーが手を伸ばし、指先が触れようとした瞬間、肩が掴まれて後ろに引かれる。ぎくりと少女が見れば、勇者が其処に居た。

「やあ聖女君。邪魔しちゃったかな……」
「先生!」
 ネヴァーフィールは、大人びた表情で頷いた。
「君は知っているだろう。俺は、エンディングを熱望している闇墜ち勇者のネヴァーだよ」
 そう言って、微笑んだ。
「少しだけ遅くなったけど、俺がそれを拾う。だから、君はもういいんだ」

 ――俺は、世界が嫌いなんだ。

 そんな在りし日の熱を思い出すようにしながら、ネヴァーフィールは手を伸ばした。黒猫は大人しく待っている。逃げる様子もなく「待っていた」と言わんばかりにネヴァーフィールを見つめて。

(ああ、長かった。俺の『ゲーム』……ここまで長かった)
 この後は魔王になって、たぶん死ねるようになる。だから、世界に悪影響を及ぼす前に自殺してしまおう。そう考えを巡らせた時、後ろから友人の声がきこえた。
「エイヴン!」
 一瞬で『エイヴン』の気分に引き戻された青年は、ぎょっとした。
(ヴァルター!! なんで追いかけてくるのかねえ!?)
「おお、おう。きいてくれヴァルター、今トイレが混んでるんだ。いや、違う! この猫が俺のトイレだ!!」
 もう何を言ってるかわからない。そんな必死なエイヴンであった。
(とりあえず拾っちまえ!)
 あとは知らねえ、と猫を抱き上げようとしたその時、サッと隣を過ぎる影があった。二つ。
 
「……フィーリー先生」
 その視界に割り込んで躊躇いなく黒猫にタッチした者は、疾風めいて素早くて、爽やかだった。
「フィーリー先生、俺にはわかります。フィーリー先生は、『拾いたくない』って気持ちでいる」
 一人はこの国の第二王子、エリック。

 そして同時に触れたのは、エインヘリアの女帝ネスリンだった。
「随分人気じゃないか」
 この黒猫が何なのかは知らぬが? そう笑む瞳が、間近にエリックを捉えた。
「王子、これを余に譲れ」
 狂暴で傲慢な笑みだった。
 エリックはひたりと真摯な色の瞳でそれを見つめ返し、きらきらと堂々と、凛とした声で拒絶した。
「嫌です。あいにくですがこの猫は、俺のもの。――お譲りいたしかねます!」
 二人の間で黒猫が禍々しい光を膨れさせ、触れた指先から力がそれぞれに流れ込む。同時に、天から無機質な声が響き渡った。地面から天に向けて、長い長い神々の名前が虚空に浮かび上がって、ずらりずらりと流れてのぼっていく。
「スタッフロール……、え、エンディング……?」
 ユージェニーが呻いた。

 ――黒猫の周囲にいる者にのみ、そのスタッフロールは見えていて、世界の声システム・アナウンスは聞こえていた。

『エンディング後のそれぞれのキャラクターは、どんな未来を望むか。――望みは何か?』
 声は、ひとりひとりの攻略キャラクターに届いていた。どんな作用かはわからないが、声を聞いた全員がそれを自然に受け止めて、あるがまま応えるのだと感じていた。

 エリックは、女帝と力を奪い合うようにしながら叫んだ。
「俺は、――『理想の俺になる』!!」

 デミルは不思議そうに、面白そうにしながら笑った。
「オイラは、アッシュといっぱい遊びた~い!」

 エイヴンは、ヴァルターを視た。生徒たちを視た。
「俺は……俺は、俺の周りにいるみんなが幸せだといいと思う。そんな未来がいい。そんな中、俺もいられたらどんなに幸せだろう」
 ――ぽつりと迷子のように希望を吐く。
 ヴァルターはそんなエイヴンに舌打ちをして、「願いを当然の現実にしてやりたいのだと言うのに、相談も何もしない……」とため息をついた。

 アルマはその時、グリエルモの視線を感じていた。ゆえに、「私は今のまま、マッキントンの平凡なお嬢様でいたい」と願った。
 
 オスカーは女帝と力を分かち合うように何かを吸収して気配を強めていく『友人』と自分の間に視えない壁のようなものを感じながら、呟いた。
「俺が望むのは――」


 そんな攻略キャラクターたちに、会場の観客は気付いていない。ただ、ステージを夢中で見つめていた。
 ステージでは、優勝したフィニックス・キーリングが『主』を見つめていた。

 『鮮血』が皆の前で主人だと偽る公爵令息、或いはルーツ不明の少年は、祖父の教えを思い出していた。

 コルトリッセンの名は、由緒正しき忠臣の名。
 元は王族だった初代は、臣下にくだる時に時の王が名をくださったのを大切に名乗って、その家を絶やすまい、名を穢すまいと誓った。
 絶える名家の多い中、脈々と血は継がれて子孫は徹底して王室への忠誠心を叩き込まれた。
 王国一の忠臣、血統優れし名門にて、誇り高き公爵家はいついかなる時も王家の懐刀であれかし、其は覆らぬ白の臣にて、如何なる昏迷の時代であろうとも、どんなに王位が近かろうとも、ゆめゆめ野心に溺れて王家をないがしろにすることなかれ――、

 
 ――『我らは誇り高き臣である。覆らぬ白の臣であれノーブレス・オブ・リージュ』。

 フィニックスが優しくあたたかな、飼い主によく懐いた猛獣みたいな眼で少年を見て、手に持っていたそれを両手で掲げた。
 ――日差しに煌めく、何かの象徴めいた赤い宝石のちいさな王冠を。

 自分をシリルに重ねているのだろうか?

 彼の在学中にもこのように騎士として優勝していたはずだから。
 彼の主に、こんな風に忠誠を誓ったのだと市井の逸話にあったのだから。

「殿下……」
 そんな風に呼ぶ声が、歓声の中で高揚を誘うのが危険だった。

(ああ、フィニックス。僕を追い詰めるのは、……貴方だったんだ?)
 己が何者かもわからぬまま此処に立つ少年は、どうしようもなく息を吐いた。

 衆目がある。公のステージで。
 この英雄からそれを受け取れば、誤解を招くのは間違いなかった。遠慮するべき局面で、そうすべきだと思われた。拒めば、きっと褒めてもらえる。慎み深い、弁えている、決して思い上がる事なく、忠誠心が高い――、

(僕が、お母さまのほんとうの子どもだったら。胸を張ってそう言えたら、伸ばせなかった手が伸ばせるのに。ほしかったものも欲しいと言えるのに。僕と一緒にいてよって、そう言えるのに)
 何度そう思っただろう。どれほど悔しかっただろう?
(死にたくないって言えるのに。――僕を殺さないでって言えるのに!)

「お受け取り下さい」
 フィニックスが懇願するようにそれを掲げた。ああ、こんなの逆らえるわけがない――罪深さを感じながら、処刑台に一歩近づくような心地で少年は頭を下げた。

 どうして、『鮮血』はこんな事をするのだろう。
 単純に、懐かしい感傷に浸ってまた同じことをしたいと思ったのか。
 それとも、この国に内乱を誘おうというのか。
 ――やっぱり、恨まれているのだろうか。
 
 『鮮血』が少年の頭にちいさな王冠を被せると、会場が大きく華やかに歓声をあげた。
 それはまるで一枚の絵画のように美しい、騎士と主君のエンディングだった。
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