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11、三国同盟と魔王の時代
160、エリックとオーガストのいつものアレ
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恋人とデートの約束を取り付けつつ、ファーリズの第二王子エリックは『いつものアレ』に臨んでいた。
「デートの約束ができたのですね、楽しみですね~」
トラン医師と一緒にほのぼのとジャム入り紅茶を楽しんでいた騎士オーガストへとエリックが「とても重要な話がある」と告げれば、慣れた様子でカップを置いて気を引き締めた顔で膝をつく。
様式美と化している――俺たちはずっとこうだな。
エリックはしみじみと自分の騎士を見つめた。
「覚悟致しました、何なりとどうぞ」
「その心意気や、よし!」
トラン医師がちょっと緊張した面持ちで心配そうに壁際に引いて二人を見守る。
「いくぞオーガスト!」
「はっ!」
エリックは肩をそびやかして、ばさりしゅるりと異音を発した。影が歪に伸びて、白の室内に不穏な気配が満ちた。王子の背からは蝙蝠羽めいた黒羽が生え、よく見ると細い尻尾のようなものも揺れている。ぴょこぴょこと場違いに楽しげに。
「エ、エ、……エリック、様……?」
トラン医師が呻き声を溢した。オーガストは声も無い様子で目を限界まで見開いてそれを見ていた。
「それは、……そのお姿は……」
なんて邪悪。
なんて歪。
まるで、まるで――、
「俺はどうも半分くらい魔王の力をゲットしちゃったらしいのだけど、どうしようか? ちなみにもう半分はエインヘリアのネスリンに獲られちゃった。てへぺろ!」
オーガストがくらくらと目眩を覚えて蹲る。エリックはそんな騎士に慌てて羽と尻尾を引っ込めて、「オーガスト! しっかりするんだオーガスト! 今回はちょっと刺激が強すぎたかな?」と謝るのであった。
「新しいジャンルがどんどん増えているのよティミオス、世はまさに群雄割拠ね……」
その頃、ネネツィカは親族会議の席にいた。ラーフルトン一族の会議はアットホームで、お爺さまは緑茶の湯呑みをふうふうしているし、ネネツィカもホットミルクティーのマグでほんのりと手のひらをぬくぬくさせている。
魔物や戦争により、冒険者や戦争傭兵が各地で活躍している。例えばクレストフォレスの『妖精射手』が弓の射程を越えて敵将ヘルマンに踏み込まれて討ち取られそうになったという危機を『騎士王』がドラマチックに救ったとか、返り討ちになりそうなヘルマンをダスティンが仕方なく助けてあげたとか、助けたと思いきや途中で囮にして逃げたとか。
アイザールの『成り上がり』グリエルモが魔物菱めく大海に冒険者たちを率いて出征し、大イカモンスターや幽霊船を退治したとか。そんな中で流れの傭兵『堅牢剣鬼』と『神の子』のロマンスがあったとか。
エインヘリアと三国同盟の前線では『鮮血』がふらりと気まぐれに現れては血の海を築いて去っていき、ヘルマンが3回に2回は死にかけているとか。たまにファビアンがトドメを刺そうとしてるのが目撃されたとか。
謎の塔やダンジョンがいくつも世界中で見つかり、パーティを組んで攻略する冒険譚を吟遊詩人が酒場や街角でよくうたっていて、ハーレムパーティもあるけれど、だいたいは男女バランスの良いメンバーたちが複雑で胸熱な人間模様を展開するものだから、妄想ネタが無限に増えていくのだ。
「供給過多。わたくしたちの飽食時代ですわ」
スコーンをつまみながら、ネネツィカは兄が真面目に語るのを聞いた。
「我々北方領地貴族はエインヘリアに近い土地柄だけに、各家が団結して防衛強化に努めなければならないでしょう」
幸い我が家は中央に後ろ盾もあり、手厚い支援が望めるのです――、ヒューバートは地図を広げた。
執事が紅茶を淹れ直してくれる。
ネネツィカは「わたくしもいざとなれば魔法を使って民を守りますわ」と微笑みながら、敵国の特殊性と自国の特異性を心の中で比較する。
北西諸島と大陸の北西に広がるエインヘリア帝国は、元は遊牧騎馬民族と定住農耕民族とが国土を巡り戦いを繰り返した歴史があり、現在の国家体制は実力主義の帝制。ファーリズと違い血統ではなく強さにより次の皇帝が決まるというのが物騒な話。
「お前が戦いなど気にすることなくドレスや化粧品に頭を悩ませる平穏の中で過ごせるように、兄は努めるよ」
ヒューバートはそう言って、少し痩せた手で妹の頭を優しく撫でてくれた。
部屋に戻るとユージェニーから手紙が届いていた。
剣術大会以来、公爵令息が体調を崩して寝込んでいると噂があったのでお見舞いを送ったのだ。
『仮病よ』
短い返答と共に、手紙には聖女の仕事をする近況と魔王についての情報共有が記されていた。
『魔物も出ているし、魔王が出現したのは間違いないと思うの。その可能性が高いのはあの時黒猫に触れていた彼と彼女なのよ。けれど、今のところエリック様はいつも通りに振る舞っていらして、闇堕ちしている気配がないわ』
ユージェニーは手紙の最後に『ティーリーの封印を解いて、エリック様を守ってもらうのはどうかしら』と書いていた。
ふむふむ、と手紙を置いて首を傾げるネネツィカの元に、ララカからの可愛い絵手紙が新たに届く。
『聖夜、聖歌隊といっしょに歌います。王子さまといっしょに、ききにきてください』
「デートプランを変えた方がよいかしら?」
ネネツィカは早速エリックに手紙を書いて、ティミオスを見上げた。
「贈り物も用意しないといけないわ」
「あちらも、用意していらっしゃるでしょうね」
――大人たちは、聖夜も戦争をするのかしら。
窓の外にちらつく雪は清らかで、カーテンの隙間から覗けば愛らしい冬うさぎたちがひょこりぴょこりと雪の中を跳ねて、のびやかにこの冬を楽しんでいるようだった。
「デートの約束ができたのですね、楽しみですね~」
トラン医師と一緒にほのぼのとジャム入り紅茶を楽しんでいた騎士オーガストへとエリックが「とても重要な話がある」と告げれば、慣れた様子でカップを置いて気を引き締めた顔で膝をつく。
様式美と化している――俺たちはずっとこうだな。
エリックはしみじみと自分の騎士を見つめた。
「覚悟致しました、何なりとどうぞ」
「その心意気や、よし!」
トラン医師がちょっと緊張した面持ちで心配そうに壁際に引いて二人を見守る。
「いくぞオーガスト!」
「はっ!」
エリックは肩をそびやかして、ばさりしゅるりと異音を発した。影が歪に伸びて、白の室内に不穏な気配が満ちた。王子の背からは蝙蝠羽めいた黒羽が生え、よく見ると細い尻尾のようなものも揺れている。ぴょこぴょこと場違いに楽しげに。
「エ、エ、……エリック、様……?」
トラン医師が呻き声を溢した。オーガストは声も無い様子で目を限界まで見開いてそれを見ていた。
「それは、……そのお姿は……」
なんて邪悪。
なんて歪。
まるで、まるで――、
「俺はどうも半分くらい魔王の力をゲットしちゃったらしいのだけど、どうしようか? ちなみにもう半分はエインヘリアのネスリンに獲られちゃった。てへぺろ!」
オーガストがくらくらと目眩を覚えて蹲る。エリックはそんな騎士に慌てて羽と尻尾を引っ込めて、「オーガスト! しっかりするんだオーガスト! 今回はちょっと刺激が強すぎたかな?」と謝るのであった。
「新しいジャンルがどんどん増えているのよティミオス、世はまさに群雄割拠ね……」
その頃、ネネツィカは親族会議の席にいた。ラーフルトン一族の会議はアットホームで、お爺さまは緑茶の湯呑みをふうふうしているし、ネネツィカもホットミルクティーのマグでほんのりと手のひらをぬくぬくさせている。
魔物や戦争により、冒険者や戦争傭兵が各地で活躍している。例えばクレストフォレスの『妖精射手』が弓の射程を越えて敵将ヘルマンに踏み込まれて討ち取られそうになったという危機を『騎士王』がドラマチックに救ったとか、返り討ちになりそうなヘルマンをダスティンが仕方なく助けてあげたとか、助けたと思いきや途中で囮にして逃げたとか。
アイザールの『成り上がり』グリエルモが魔物菱めく大海に冒険者たちを率いて出征し、大イカモンスターや幽霊船を退治したとか。そんな中で流れの傭兵『堅牢剣鬼』と『神の子』のロマンスがあったとか。
エインヘリアと三国同盟の前線では『鮮血』がふらりと気まぐれに現れては血の海を築いて去っていき、ヘルマンが3回に2回は死にかけているとか。たまにファビアンがトドメを刺そうとしてるのが目撃されたとか。
謎の塔やダンジョンがいくつも世界中で見つかり、パーティを組んで攻略する冒険譚を吟遊詩人が酒場や街角でよくうたっていて、ハーレムパーティもあるけれど、だいたいは男女バランスの良いメンバーたちが複雑で胸熱な人間模様を展開するものだから、妄想ネタが無限に増えていくのだ。
「供給過多。わたくしたちの飽食時代ですわ」
スコーンをつまみながら、ネネツィカは兄が真面目に語るのを聞いた。
「我々北方領地貴族はエインヘリアに近い土地柄だけに、各家が団結して防衛強化に努めなければならないでしょう」
幸い我が家は中央に後ろ盾もあり、手厚い支援が望めるのです――、ヒューバートは地図を広げた。
執事が紅茶を淹れ直してくれる。
ネネツィカは「わたくしもいざとなれば魔法を使って民を守りますわ」と微笑みながら、敵国の特殊性と自国の特異性を心の中で比較する。
北西諸島と大陸の北西に広がるエインヘリア帝国は、元は遊牧騎馬民族と定住農耕民族とが国土を巡り戦いを繰り返した歴史があり、現在の国家体制は実力主義の帝制。ファーリズと違い血統ではなく強さにより次の皇帝が決まるというのが物騒な話。
「お前が戦いなど気にすることなくドレスや化粧品に頭を悩ませる平穏の中で過ごせるように、兄は努めるよ」
ヒューバートはそう言って、少し痩せた手で妹の頭を優しく撫でてくれた。
部屋に戻るとユージェニーから手紙が届いていた。
剣術大会以来、公爵令息が体調を崩して寝込んでいると噂があったのでお見舞いを送ったのだ。
『仮病よ』
短い返答と共に、手紙には聖女の仕事をする近況と魔王についての情報共有が記されていた。
『魔物も出ているし、魔王が出現したのは間違いないと思うの。その可能性が高いのはあの時黒猫に触れていた彼と彼女なのよ。けれど、今のところエリック様はいつも通りに振る舞っていらして、闇堕ちしている気配がないわ』
ユージェニーは手紙の最後に『ティーリーの封印を解いて、エリック様を守ってもらうのはどうかしら』と書いていた。
ふむふむ、と手紙を置いて首を傾げるネネツィカの元に、ララカからの可愛い絵手紙が新たに届く。
『聖夜、聖歌隊といっしょに歌います。王子さまといっしょに、ききにきてください』
「デートプランを変えた方がよいかしら?」
ネネツィカは早速エリックに手紙を書いて、ティミオスを見上げた。
「贈り物も用意しないといけないわ」
「あちらも、用意していらっしゃるでしょうね」
――大人たちは、聖夜も戦争をするのかしら。
窓の外にちらつく雪は清らかで、カーテンの隙間から覗けば愛らしい冬うさぎたちがひょこりぴょこりと雪の中を跳ねて、のびやかにこの冬を楽しんでいるようだった。
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