竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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11、三国同盟と魔王の時代

179、テロリストとレネンの悩み

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 夜空の下、幻想蝶がふわりと舞う。
「う……」
 青年は怪我をしているようだった。足音が複数、鎧の立てる金属音と一緒にこちらに向かってくる。
(もしかして、追われていたり?)
 ネネツィカはあたふたした。なにせ、状況がわからない。
「ティミオス?」
 そっと囁けば、執事は心得顔で青年を抱き上げて「こちらに」と迷う様子もなく見知らぬ土地を歩いていく。
(さすがわたくしのティミオスは頼りになりますわね)
 と、安心して着いて行けば、思った矢先に物々しい鎧姿の男たちが飛び出してきて、周りを取り囲むものだから、ネネツィカは「あっ、前言撤回したほうが?」と目を丸くしたのだが。
「何者だ!」
 誰何する声は警戒の響きが強く、手には武器を握り――ネネツィカはびっくりした。夜目に顔がわかって、相手側の眼が見開かれる。
「ラーフルトンのお嬢さんじゃないですか!」
「『英雄のひよこくらぶ』さんじゃないですの!」
 北の領地で一度ネネツィカが退治した元盗賊団の顔ぶれに声をあげれば、テオドールが「『昇格する歩兵プロモーション・ポーン』です」と訂正してくれた。

「お嬢さんがなぜ、エインヘリアの離宮に? しかもそいつはテロリストじゃありませんか」
 一人が奥へと走って行く。
「ここはエインヘリアの離宮なのです?」
 そしてこの方はテロリストなんですね。ネネツィカはこっそりと冷や汗をかいた。
「ひとまず中へ」
 見慣れた黒ローブ姿が現れて手招きをする。背後から別の足音が迫って来て、『昇格する歩兵』たちが緊張を高めていた。
「『騎士王』の配下が来ますぜ」
「血の痕がありますからなあ」
 レネンが「適当に誤魔化しておきなさい」とふわりと指示を出して、空中に何か綴る仕草を見せた。姿を隠す呪術を使ったのだろうとティミオスが囁いて教えてくれる。
 
「追ってたのは、おそらく『騎士王』の配下の中でも放浪時代からの股肱『混沌騎士団』ですねえ。まあ、あのへんは無体はしないんで大丈夫な連中ですよ」
 レネンが安心させるように優しい声で教えてくれる。
「レネン。お久しぶりですわね」
「ラーフルトンのお嬢様、名前を憶えてくださっていたのですね。光栄です」
 建物はどことなく公爵家に雰囲気が似ていた。
「寝かせられる場所があれば、わたくし、魔法でその方を治療してみますわ」
 そっと告げれば、呪術師は驚いた気配をみせた。
「お嬢様は、怪我を癒す魔法も扱えるんですか。えーと、ちなみにこのお方をお助けなさりたいんですよね、お嬢様は?」
「え、ええ……」
 それはたいしたもの――そう言って広い部屋に案内してくれる。
「ここは部屋数が結構あるんですが、今んとこはうちらしかいないもんで結構空き部屋も多いんですよ」
 レネンはそう言ってダスティンを寝かせるティミオスを見守り、「今のところ坊ちゃんには報告していませんが、これは内緒のほうがいいですかねえ」と首をひねった。
 
「クレイはお休み中かしら?」
「いえ、起きてはいらっしゃいますがね。坊ちゃんは最近『親エインヘリア』なんですよ。『騎士王』に懐いてしまわれて……」
 レネンはこそこそと告げる。
「この外交官……ヘス卿は先代皇帝の腹心で、執拗に『騎士王』に復讐しようとテロを仕掛けてましたから、これがうちで倒れてるなんてわかったら坊ちゃんは『騎士王』に突き出してしまいそうですよ」
「それは……」
 ネネツィカはちょっと悩んだ。

 エリックの暗殺未遂で、命を狙われる恐ろしさは重々承知している。
 けれど、目の前で深い傷を負ってぐったりとして、何もしないでいれば死んでしまう彼を――助けようと思えば助けられそうなのに、処刑台に差し出すというのが、どうにも寝覚めが悪いように思われるのだ。
「わたくし、あまりこの方を知りませんけれど、偶然目の前で倒れていたのです……」
 おろおろと言えば、レネンは頷いた。
「なぜ偶然お城の近くにいらしたのかは、気にしてはいけないのでしょうねえ」
「そ、そうですわね。説明せよと仰られても、実はわたくしもよくわかりませんが」
 
 そろそろと手をかざし、魔法を使う。
 青年の傷がすこしずつ癒えていく――、
「治ったら、そちらの方はお嬢様が引き取ってくださるんですよねえ? ここに置いとくわけにはいきませんよ……」
 レネンが恐る恐る問いかける。

「レネンは何をしているの」
 部屋の外の通路に、呪術師の主である少年が名を呼びながら近づいてくる気配がする。レネンはびくりとして、部屋の外にすっ飛んでいった。

「どうして呼んでも来ないの。外で騒ぎがあったようだから、心配したんだよ」
 少年の声が遠くきこえる。

「ねえ、陛下が僕にこれをくださったんだよ。夜にうるさくしたから、そのお詫びなんだって」
 懐いているという言葉に納得のはしゃぐような声が続いていた。
「僕は思うのだけど、実はあの方、僕のお父様か何かだったりして――すっごく、優しいのだもの」

 レネンの声がおろおろと響いていた。
「坊ちゃん、何を仰るんです。坊ちゃんはアクセル様とラーシャ様の御子ですよ!」
「うん、……でも、もし仮に僕がお母さまの子どもだと仮定してもさ、歌劇にもあるじゃないか。遍歴の騎士が姫とちょっといい感じになるシーン。あれでさ……」
「坊ちゃん、それ以上の妄言はなりませんよ!」
「義務で作った子どもよりも身分違いの一夜の授かり子のほうが浪漫があるよね。僕、今度『お父さま』って呼んでみようかな?」
「坊ちゃん……!!」

(なにやら、揉めているのね……)
 この状況でこのテロリストさんが目覚めてしまったら凄く面倒じゃないかしら? ネネツィカはハラハラした。

「お嬢様、エインヘリアの妖精が魔法の気配に気付いたようです。途中ですが、応急処置はできたようですので退散しましょうか」
 ティミオスがいつの間にか部屋の隅にできた穴を示す。
「お前――さすがに今度じっくり、色々説明してもらうわね」
 ネネツィカは半眼になりながら、ティミオスがダスティンを抱き上げるのを待って穴に飛び込んだ。そしてまた、淑女らしからぬみっともない悲鳴をあげるのだった。
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