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11、三国同盟と魔王の時代
186、俺はショタコンじゃない
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乱入者がすっかり場の空気を変えてしまった――エリックはきらきらとした笑顔を湛えたまま、西側の席に着いた。
「ボク、膝に乗る!」
アイザールのミハイ皇子は微動だにせず固まる『騎士王』の膝に乗り、側近が慌てふためく中を拡声魔道具まで手にとって、ご機嫌で「エインヘリアとアイザールはフレンドだよ~! ボクたち仲良し!」と宣言した。
乗っかられてる本人は置き物のように動かずに好き放題されている。
(あれ、鎧の中身別人だったり空っぽだったりしないよね?)
エリックは混沌騎士団が対応に困っているのを面白く拝見してから「俺は巷では『騎士王』のベイビー魔王説も出ているようで」と笑った。
「我が国の陛下を勝手に魔王の父にしないで頂きたい」
側近らしき混沌騎士団の騎士鎧がそう言って、隣にいた道化外交官の女が「ええ、ええ。本日唐突にわたくしがめでたき発表を致しますと、父になるのはヘルマン様でございます」と機嫌良く声を響かせる。
「は?」
沈黙していた『騎士王』が声を発した。中身は入っていたらしい――エリックは友人に手を振った。友人は、それどころではない様子だが。
「ファビアン。お前、まさか……あの状態のヘルマンを襲っ……?」
「合意済みですよう?」
「いやいや、お前が言うとすげえ嘘っぽい……」
滅多に喋らない『騎士王』が配下とことばをかわしているので、広場中が耳を澄ませてやりとりを見守っている。
「『騎士王』! 兜取って~」
ミハイ皇子がいとけなく手を伸ばして鎧兜をぐいぐいしている。『騎士王』は困った様子でその手を押さえた。
「俺の兜は玩具じゃないですよ、おやめください」
「喋った! グリエルモ~、『騎士王』が喋ったよー!」
「おー、よかったなぁ~ミハイ」
グリエルモがネクシの隣に座り、親戚のおじさんめいた親しみの湧く笑顔でミハイを見守っている。
「やはり少年趣味であったか、よしよし」
ウンウンと頷く声に『騎士王』は不満そうな声を響かせた。
「待っ……俺は別に、少年趣味なわけではないですよ」
ミハイが「ちがうの?」と無邪気に首を傾げて、健康的な脚を露出するショートパンツの裾を「ほらほら」と上に引っ張って柔らかな太ももをアピールしている。
「グリエルモおじさんはボクのコレで落ちた!」
「ミハイ、誤解を招く事言うのやめような!」
そんな事実はないぞとグリエルモが光の速さで訂正している。
「おじさんはショタコンじゃない。だが『騎士王』、お前は今ミハイの可愛らしさに参ってるはずだ。俺の目は誤魔化せないぜ」
「こいつらと来たら魔王の父やら少年趣味やら勝手にあれこれレッテル貼り付けやがる」
うんざりと『騎士王』が首を振れば、まともに外交する気もなさそうなファビアンが恍惚とした顔でほおに手を当てている。
「陛下、戦争しましょうか? 戦争しましょ? 交流という名の殺し合い始めちゃいましょう?」
「外交官のセリフじゃねえよ、それ」
ため息をついて、『騎士王』は兜に手を掛けた。かちゃりするりと兜を取って素顔を晒すと、彼に見覚えのある者たちが驚きに眼を見張り名を囁く。
「俺は少年趣味じゃない。何故なら俺も19の少年だから――あれ?」
「その『何故なら』は変だと思うよ。オスカー」
エリックは思わずツッコミを入れたが、ニュクスフォスは真剣にそれを否定した。
「ニュクスフォスと呼んで頂きましょう。俺は以前の名は捨てたので」
「その割に実家に手紙を書いてる……」
「こほん、こほん」
エリックはニコニコとして、卓上に差し出された白い粉砂糖がふりかけられた苺の愛らしいショートケーキをひと口頂いた。
パクっ、これは毒入り――、魔王でなければ血を吐いていたかもしらない。そう思いながら「美味しいね」と味わいながら混乱した様子の交流会を見守った。
「ふっ、『成り上がり』グリエルモ殿、貴方は今この俺の美男子ぶりに参ってますね? 俺の目は誤魔化せませんよ」
「やり返しやがる」
ニカニカと笑みつつ、ニュクスフォスはアイザールに『鮮血』の処遇を問うのであった。
「シリル王子に釣られてそちらに行ったのは分かりますが、その後はどうなりました? アイザールにくだったのですか、それとも決裂したのですか」
紅い瞳が並々ならぬ執着めいたものを窺わせたので、グリエルモは「ほう?」と眼を瞬かせた。
「『騎士王』がそれほど『鮮血』に興味があるとは知らなかったな」
ニュクスフォスは配下に差し出されたグラスを手に頷いた。
「俺は『鮮血』が」
――嫌いなんです、と笑み、グラスの中身を煽ろうとして。
「……好きなので」
言葉を溢して、手をピタリ止める。
「……」
――今、俺は何と言ったのか?
ニュクスフォスは眉を寄せ、もう一度言った。
「俺は『鮮血』が……」
嫌いなのだ。倒したいのだ。勝ちたいのだ。
「……好きなので」
ニュクスフォスは愕然とした。
「俺は『鮮血』が好きだ……?」
言葉が全く逆の単語になって出力されるではないか!?
「俺は『鮮血』が好き……」
「わかった! わかったよ『騎士王』! おじさんわかった。お前が『鮮血』大好きなのはすげえわかった!! もういい……ッ」
延々と繰り返す『騎士王』に驚き呆れて、グリエルモは大きく頷いて「『騎士王』の『鮮血』への偏愛は各国に確かに伝わったぞ! そんなにカミングアウトしなくても、もう十分だ……っ」と止めてくれたのだった。
「ボク、膝に乗る!」
アイザールのミハイ皇子は微動だにせず固まる『騎士王』の膝に乗り、側近が慌てふためく中を拡声魔道具まで手にとって、ご機嫌で「エインヘリアとアイザールはフレンドだよ~! ボクたち仲良し!」と宣言した。
乗っかられてる本人は置き物のように動かずに好き放題されている。
(あれ、鎧の中身別人だったり空っぽだったりしないよね?)
エリックは混沌騎士団が対応に困っているのを面白く拝見してから「俺は巷では『騎士王』のベイビー魔王説も出ているようで」と笑った。
「我が国の陛下を勝手に魔王の父にしないで頂きたい」
側近らしき混沌騎士団の騎士鎧がそう言って、隣にいた道化外交官の女が「ええ、ええ。本日唐突にわたくしがめでたき発表を致しますと、父になるのはヘルマン様でございます」と機嫌良く声を響かせる。
「は?」
沈黙していた『騎士王』が声を発した。中身は入っていたらしい――エリックは友人に手を振った。友人は、それどころではない様子だが。
「ファビアン。お前、まさか……あの状態のヘルマンを襲っ……?」
「合意済みですよう?」
「いやいや、お前が言うとすげえ嘘っぽい……」
滅多に喋らない『騎士王』が配下とことばをかわしているので、広場中が耳を澄ませてやりとりを見守っている。
「『騎士王』! 兜取って~」
ミハイ皇子がいとけなく手を伸ばして鎧兜をぐいぐいしている。『騎士王』は困った様子でその手を押さえた。
「俺の兜は玩具じゃないですよ、おやめください」
「喋った! グリエルモ~、『騎士王』が喋ったよー!」
「おー、よかったなぁ~ミハイ」
グリエルモがネクシの隣に座り、親戚のおじさんめいた親しみの湧く笑顔でミハイを見守っている。
「やはり少年趣味であったか、よしよし」
ウンウンと頷く声に『騎士王』は不満そうな声を響かせた。
「待っ……俺は別に、少年趣味なわけではないですよ」
ミハイが「ちがうの?」と無邪気に首を傾げて、健康的な脚を露出するショートパンツの裾を「ほらほら」と上に引っ張って柔らかな太ももをアピールしている。
「グリエルモおじさんはボクのコレで落ちた!」
「ミハイ、誤解を招く事言うのやめような!」
そんな事実はないぞとグリエルモが光の速さで訂正している。
「おじさんはショタコンじゃない。だが『騎士王』、お前は今ミハイの可愛らしさに参ってるはずだ。俺の目は誤魔化せないぜ」
「こいつらと来たら魔王の父やら少年趣味やら勝手にあれこれレッテル貼り付けやがる」
うんざりと『騎士王』が首を振れば、まともに外交する気もなさそうなファビアンが恍惚とした顔でほおに手を当てている。
「陛下、戦争しましょうか? 戦争しましょ? 交流という名の殺し合い始めちゃいましょう?」
「外交官のセリフじゃねえよ、それ」
ため息をついて、『騎士王』は兜に手を掛けた。かちゃりするりと兜を取って素顔を晒すと、彼に見覚えのある者たちが驚きに眼を見張り名を囁く。
「俺は少年趣味じゃない。何故なら俺も19の少年だから――あれ?」
「その『何故なら』は変だと思うよ。オスカー」
エリックは思わずツッコミを入れたが、ニュクスフォスは真剣にそれを否定した。
「ニュクスフォスと呼んで頂きましょう。俺は以前の名は捨てたので」
「その割に実家に手紙を書いてる……」
「こほん、こほん」
エリックはニコニコとして、卓上に差し出された白い粉砂糖がふりかけられた苺の愛らしいショートケーキをひと口頂いた。
パクっ、これは毒入り――、魔王でなければ血を吐いていたかもしらない。そう思いながら「美味しいね」と味わいながら混乱した様子の交流会を見守った。
「ふっ、『成り上がり』グリエルモ殿、貴方は今この俺の美男子ぶりに参ってますね? 俺の目は誤魔化せませんよ」
「やり返しやがる」
ニカニカと笑みつつ、ニュクスフォスはアイザールに『鮮血』の処遇を問うのであった。
「シリル王子に釣られてそちらに行ったのは分かりますが、その後はどうなりました? アイザールにくだったのですか、それとも決裂したのですか」
紅い瞳が並々ならぬ執着めいたものを窺わせたので、グリエルモは「ほう?」と眼を瞬かせた。
「『騎士王』がそれほど『鮮血』に興味があるとは知らなかったな」
ニュクスフォスは配下に差し出されたグラスを手に頷いた。
「俺は『鮮血』が」
――嫌いなんです、と笑み、グラスの中身を煽ろうとして。
「……好きなので」
言葉を溢して、手をピタリ止める。
「……」
――今、俺は何と言ったのか?
ニュクスフォスは眉を寄せ、もう一度言った。
「俺は『鮮血』が……」
嫌いなのだ。倒したいのだ。勝ちたいのだ。
「……好きなので」
ニュクスフォスは愕然とした。
「俺は『鮮血』が好きだ……?」
言葉が全く逆の単語になって出力されるではないか!?
「俺は『鮮血』が好き……」
「わかった! わかったよ『騎士王』! おじさんわかった。お前が『鮮血』大好きなのはすげえわかった!! もういい……ッ」
延々と繰り返す『騎士王』に驚き呆れて、グリエルモは大きく頷いて「『騎士王』の『鮮血』への偏愛は各国に確かに伝わったぞ! そんなにカミングアウトしなくても、もう十分だ……っ」と止めてくれたのだった。
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