195 / 260
11、三国同盟と魔王の時代
187、黒天幕に時限式爆弾を仕掛けてはいけませんので
しおりを挟む
青色天幕群を少し外れると、浅い川がある。さらさらと流れる水音は耳に優しくて、水分を含んだ風がそよそよと頬を撫でていくと不思議なほど心がワクワクした。日差しを浴びて、流れる水流れがキラキラしているのがまた美しいのだ。
「お友達の妖精が南のほうに、水のお庭をもっています」
ララカが川の流れを見て海に別荘を持つお友達の話をしてくれたので、ネネツィカはスケッチブックにお友達の絵を描いた。
「サリオン、見てください。イシュメル・ララです」
白紙に描かれていく友達に頬を紅潮させてララカが『妖精射手』サリオンの袖を引く。妖精の青年は穏やかに微笑んで「ファン・フェファー」と言葉を紡いで、ダスティンが「好ましい、と仰せです」と通訳してくれる。
(むむ。今度クレストフォレスの言葉を学んでみようかしら……)
通訳を介しつつサリオンとコミュニケーションを取り、ネネツィカはこっそりと言語学の意欲を高めた。
「わああ、こっちの黒いひとたちは、なんです?」
ララカがスケッチブックの前のほうのページを見て首をかしげる。
「尻尾が生えてたり、角が生えてたり」
「それはわたくしがエリック殿下にお願いされて描いた、新生魔王軍配下の見た目アイディアメモですわ」
「まあ。新生魔王軍配下!」
「むふふ。この吸血鬼ミームと狼男ファラオは恋人同士で、こっちの悪魔ルルムちゃんは純真無垢な男の娘、こっちのスケルトン、ダンディ卿は騎士道を重んじるナイスガイですわ」
文字と絵の配下たちを自慢げに紹介するネネツィカ。ララカが目を丸くしてページを前にめくる。
「この線のぐしゃぐしゃしたのは……」
「それは友人の画伯の芸術作品ですわね……エリック殿下はこれを視た時、絶句していらっしゃいましたわ」
スケッチブックをめくっていくと、ネネツィカの思い出がいっぱい思い出される。
「これは、ウェザー商会のルーファスさんと新しい商品のデザインを話し合ったときの……こっちは、エリック様が画伯に深層心理テストをさせてショックを受けていたときの……」
ページの端っこにちいさな字で『てえてえ』と書かれたのは、ネネツィカによるものだ。
風に乗って、中央の声が届いている。
ティミオスとバーベキューの支度を進めるダスティンはそれが気になる様子だった。
「拡声魔道具の声がここまで届くのね」
中央からの声に少し驚きながら、ネネツィカはふわふわと風に浮遊するシャボン玉に目を細めた。妖精界で見かけたのとよく似ていると思いながら。
「私が風を呼んで、声を運ばせているのです」
ララカがほわほわと微笑んだ。
「ダスティン、何かなさりたい事があったらいつでも仰ってね。例えばお友達と逢引したいとかディドさんとデートしたいとか薄い本になりたいとか、突然脱衣したくなったとか」
わたくし、応援しますわ――そう言って微笑むネネツィカにダスティンは思案気な顔で頷いた。
「ありがとうございます、お嬢様。それにしてもお嬢様は例えが独特でいらっしゃる」
妙な例えばかり――青年はそっとそんな言葉を胸に閉じ込めて淡く笑む。
『なんだこれ妖精の悪戯か? うちの? 他所の? 違うぞ、俺の本意ではないぞ。俺は『鮮血』が好きなのであって、つまり何が言いたいかというと俺は『鮮血』が好きなのだと言いたいのだが『鮮血』が好きだと言わされている』
『騎士王、しつこいぞ! お前の気持ちはわかったって』
『陛下、もう黙ってましょうよ。喋るほど逆効果ですよ』
「『騎士王』は『鮮血』が好き……ふふ」
にんまりとするネネツィカに、ララカが空色の髪を水飛沫に煌めかせて水を跳ねる。
「ここに、お魚がいっぱいです!」
「どれどれ……」
お姉さまな気分で近くに行って覗き込めば、透明な水の中、艶々の黒や灰色の石の上を小さな魚たちが泳いでいる。
『ルカ皇子!? 医師を呼べ、これは毒だ!!』
『この者が毒を……』
風に乗って不穏極まりない声が聞こえて来る。
「揉め事のようですね」
「毒とか言ってますわね」
大丈夫かしら、とネネツィカが眉を寄せると、ダスティンが人差し指を指にあてて「楽しそうですね」と呟いた。
「楽しそうかしら……?」
「故国では、こんな騒動を『祭り』と呼んでおりました。我が国は揉め事が娯楽でして」
「貴方の故国、物騒ね……」
ダスティンは時折故国の話をしてくれる。移動民族が各地で暴れていて、冒険者がその日暮らしをしていて、魔術師たちの魔塔があって、悪戯な古妖精『光の』フェアグリンが妖精たちを管理統制しているという北西のその国は、文化の違いが激しいようだった。
「ところで、私のお嬢様」
「はいはいはいっ、なにかしら。なんでもわたくしに相談してよろしくてよ」
『私のお嬢様』ですって――ダスティンがわたくしに心を開いてくれている感じではなくて?
ネネツィカは目をキラキラさせた。
青年はそんな令嬢に、まるでお散歩に行きたいソワソワとした犬のような目を向けて首を傾げておねだりをする。優し気な容貌の青年がそんな顔をすると、ネネツィカはなんでもきいてあげたい気持ちになった。
「今日は天気も良いですし、ちょっとだけ北の黒天幕に時限式爆弾を仕掛けてもよろしいでしょうか?」
「ええ、ええ……えっ」
ネネツィカはニコニコと許可をしかけてから、慌てて「テロはいけません!」と制止しつつ「でも、正直に何をなさりたいか教えてくれたのは嬉しいわ」と付け足したのだった。
ララカの魔法の風に乗り、青年の声がきこえてくる。
『ファーリズ勢が毒を盛ったという証拠はないのではありませんか?』
ディドさん、とララカが呟いて少し心配そうな眼を見せている。ディドの友人だというダスティンは「ディドはお仕事を頑張っているようですね」とおねだりを引き下げて、おとなしくバーベキュー用の野菜をカットする様子。
「お嬢様、首輪と紐でもつけておいたほうがよろしいのでは」
ティミオスが冗談交じりに微笑むので、ネネツィカはララカと一緒に足を川の流れに浸してひんやりとした涼気を楽しみながら、スケッチブックに首輪つきダスティンを描いたのだった。
「お友達の妖精が南のほうに、水のお庭をもっています」
ララカが川の流れを見て海に別荘を持つお友達の話をしてくれたので、ネネツィカはスケッチブックにお友達の絵を描いた。
「サリオン、見てください。イシュメル・ララです」
白紙に描かれていく友達に頬を紅潮させてララカが『妖精射手』サリオンの袖を引く。妖精の青年は穏やかに微笑んで「ファン・フェファー」と言葉を紡いで、ダスティンが「好ましい、と仰せです」と通訳してくれる。
(むむ。今度クレストフォレスの言葉を学んでみようかしら……)
通訳を介しつつサリオンとコミュニケーションを取り、ネネツィカはこっそりと言語学の意欲を高めた。
「わああ、こっちの黒いひとたちは、なんです?」
ララカがスケッチブックの前のほうのページを見て首をかしげる。
「尻尾が生えてたり、角が生えてたり」
「それはわたくしがエリック殿下にお願いされて描いた、新生魔王軍配下の見た目アイディアメモですわ」
「まあ。新生魔王軍配下!」
「むふふ。この吸血鬼ミームと狼男ファラオは恋人同士で、こっちの悪魔ルルムちゃんは純真無垢な男の娘、こっちのスケルトン、ダンディ卿は騎士道を重んじるナイスガイですわ」
文字と絵の配下たちを自慢げに紹介するネネツィカ。ララカが目を丸くしてページを前にめくる。
「この線のぐしゃぐしゃしたのは……」
「それは友人の画伯の芸術作品ですわね……エリック殿下はこれを視た時、絶句していらっしゃいましたわ」
スケッチブックをめくっていくと、ネネツィカの思い出がいっぱい思い出される。
「これは、ウェザー商会のルーファスさんと新しい商品のデザインを話し合ったときの……こっちは、エリック様が画伯に深層心理テストをさせてショックを受けていたときの……」
ページの端っこにちいさな字で『てえてえ』と書かれたのは、ネネツィカによるものだ。
風に乗って、中央の声が届いている。
ティミオスとバーベキューの支度を進めるダスティンはそれが気になる様子だった。
「拡声魔道具の声がここまで届くのね」
中央からの声に少し驚きながら、ネネツィカはふわふわと風に浮遊するシャボン玉に目を細めた。妖精界で見かけたのとよく似ていると思いながら。
「私が風を呼んで、声を運ばせているのです」
ララカがほわほわと微笑んだ。
「ダスティン、何かなさりたい事があったらいつでも仰ってね。例えばお友達と逢引したいとかディドさんとデートしたいとか薄い本になりたいとか、突然脱衣したくなったとか」
わたくし、応援しますわ――そう言って微笑むネネツィカにダスティンは思案気な顔で頷いた。
「ありがとうございます、お嬢様。それにしてもお嬢様は例えが独特でいらっしゃる」
妙な例えばかり――青年はそっとそんな言葉を胸に閉じ込めて淡く笑む。
『なんだこれ妖精の悪戯か? うちの? 他所の? 違うぞ、俺の本意ではないぞ。俺は『鮮血』が好きなのであって、つまり何が言いたいかというと俺は『鮮血』が好きなのだと言いたいのだが『鮮血』が好きだと言わされている』
『騎士王、しつこいぞ! お前の気持ちはわかったって』
『陛下、もう黙ってましょうよ。喋るほど逆効果ですよ』
「『騎士王』は『鮮血』が好き……ふふ」
にんまりとするネネツィカに、ララカが空色の髪を水飛沫に煌めかせて水を跳ねる。
「ここに、お魚がいっぱいです!」
「どれどれ……」
お姉さまな気分で近くに行って覗き込めば、透明な水の中、艶々の黒や灰色の石の上を小さな魚たちが泳いでいる。
『ルカ皇子!? 医師を呼べ、これは毒だ!!』
『この者が毒を……』
風に乗って不穏極まりない声が聞こえて来る。
「揉め事のようですね」
「毒とか言ってますわね」
大丈夫かしら、とネネツィカが眉を寄せると、ダスティンが人差し指を指にあてて「楽しそうですね」と呟いた。
「楽しそうかしら……?」
「故国では、こんな騒動を『祭り』と呼んでおりました。我が国は揉め事が娯楽でして」
「貴方の故国、物騒ね……」
ダスティンは時折故国の話をしてくれる。移動民族が各地で暴れていて、冒険者がその日暮らしをしていて、魔術師たちの魔塔があって、悪戯な古妖精『光の』フェアグリンが妖精たちを管理統制しているという北西のその国は、文化の違いが激しいようだった。
「ところで、私のお嬢様」
「はいはいはいっ、なにかしら。なんでもわたくしに相談してよろしくてよ」
『私のお嬢様』ですって――ダスティンがわたくしに心を開いてくれている感じではなくて?
ネネツィカは目をキラキラさせた。
青年はそんな令嬢に、まるでお散歩に行きたいソワソワとした犬のような目を向けて首を傾げておねだりをする。優し気な容貌の青年がそんな顔をすると、ネネツィカはなんでもきいてあげたい気持ちになった。
「今日は天気も良いですし、ちょっとだけ北の黒天幕に時限式爆弾を仕掛けてもよろしいでしょうか?」
「ええ、ええ……えっ」
ネネツィカはニコニコと許可をしかけてから、慌てて「テロはいけません!」と制止しつつ「でも、正直に何をなさりたいか教えてくれたのは嬉しいわ」と付け足したのだった。
ララカの魔法の風に乗り、青年の声がきこえてくる。
『ファーリズ勢が毒を盛ったという証拠はないのではありませんか?』
ディドさん、とララカが呟いて少し心配そうな眼を見せている。ディドの友人だというダスティンは「ディドはお仕事を頑張っているようですね」とおねだりを引き下げて、おとなしくバーベキュー用の野菜をカットする様子。
「お嬢様、首輪と紐でもつけておいたほうがよろしいのでは」
ティミオスが冗談交じりに微笑むので、ネネツィカはララカと一緒に足を川の流れに浸してひんやりとした涼気を楽しみながら、スケッチブックに首輪つきダスティンを描いたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。
篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました
水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。
世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。
「見つけた、俺の運命」
敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。
冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。
食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。
その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。
敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。
世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる