竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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11、三国同盟と魔王の時代

187、黒天幕に時限式爆弾を仕掛けてはいけませんので

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 青色天幕群を少し外れると、浅い川がある。さらさらと流れる水音は耳に優しくて、水分を含んだ風がそよそよと頬を撫でていくと不思議なほど心がワクワクした。日差しを浴びて、流れる水流れがキラキラしているのがまた美しいのだ。
「お友達の妖精が南のほうに、水のお庭をもっています」
 ララカが川の流れを見て海に別荘を持つお友達の話をしてくれたので、ネネツィカはスケッチブックにお友達の絵を描いた。
「サリオン、見てください。イシュメル・ララです」
 白紙に描かれていく友達に頬を紅潮させてララカが『妖精射手』サリオンの袖を引く。妖精の青年は穏やかに微笑んで「ファン・フェファー」と言葉を紡いで、ダスティンが「好ましい、と仰せです」と通訳してくれる。
(むむ。今度クレストフォレスの言葉を学んでみようかしら……)
 通訳を介しつつサリオンとコミュニケーションを取り、ネネツィカはこっそりと言語学の意欲を高めた。
 
「わああ、こっちの黒いひとたちは、なんです?」
 ララカがスケッチブックの前のほうのページを見て首をかしげる。
「尻尾が生えてたり、角が生えてたり」
「それはわたくしがエリック殿下にお願いされて描いた、新生魔王軍配下の見た目アイディアメモですわ」
「まあ。新生魔王軍配下!」
「むふふ。この吸血鬼ミームと狼男ファラオは恋人同士で、こっちの悪魔ルルムちゃんは純真無垢な男の娘、こっちのスケルトン、ダンディ卿は騎士道を重んじるナイスガイですわ」
 文字と絵の配下たちを自慢げに紹介するネネツィカ。ララカが目を丸くしてページを前にめくる。
「この線のぐしゃぐしゃしたのは……」
「それは友人の画伯の芸術作品ですわね……エリック殿下はこれを視た時、絶句していらっしゃいましたわ」
 スケッチブックをめくっていくと、ネネツィカの思い出がいっぱい思い出される。
「これは、ウェザー商会のルーファスさんと新しい商品のデザインを話し合ったときの……こっちは、エリック様が画伯に深層心理テストをさせてショックを受けていたときの……」
 ページの端っこにちいさな字で『てえてえ』と書かれたのは、ネネツィカによるものだ。
 
 風に乗って、中央の声が届いている。
 ティミオスとバーベキューの支度を進めるダスティンはそれが気になる様子だった。

「拡声魔道具の声がここまで届くのね」
 中央からの声に少し驚きながら、ネネツィカはふわふわと風に浮遊するシャボン玉に目を細めた。妖精界で見かけたのとよく似ていると思いながら。
「私が風を呼んで、声を運ばせているのです」
 ララカがほわほわと微笑んだ。
 
「ダスティン、何かなさりたい事があったらいつでも仰ってね。例えばお友達と逢引したいとかディドさんとデートしたいとか薄い本になりたいとか、突然脱衣したくなったとか」
 わたくし、応援しますわ――そう言って微笑むネネツィカにダスティンは思案気な顔で頷いた。
「ありがとうございます、お嬢様。それにしてもお嬢様は例えが独特でいらっしゃる」
 妙な例えばかり――青年はそっとそんな言葉を胸に閉じ込めて淡く笑む。

『なんだこれ妖精の悪戯か? うちの? 他所の? 違うぞ、俺の本意ではないぞ。俺は『鮮血』が好きなのであって、つまり何が言いたいかというと俺は『鮮血』が好きなのだと言いたいのだが『鮮血』が好きだと言わされている』
『騎士王、しつこいぞ! お前の気持ちはわかったって』
『陛下、もう黙ってましょうよ。喋るほど逆効果ですよ』

「『騎士王』は『鮮血』が好き……ふふ」
 にんまりとするネネツィカに、ララカが空色の髪を水飛沫に煌めかせて水を跳ねる。
「ここに、お魚がいっぱいです!」
「どれどれ……」
 お姉さまな気分で近くに行って覗き込めば、透明な水の中、艶々の黒や灰色の石の上を小さな魚たちが泳いでいる。

『ルカ皇子!? 医師を呼べ、これは毒だ!!』
『この者が毒を……』
 風に乗って不穏極まりない声が聞こえて来る。
 
「揉め事のようですね」
「毒とか言ってますわね」
 大丈夫かしら、とネネツィカが眉を寄せると、ダスティンが人差し指を指にあてて「楽しそうですね」と呟いた。
「楽しそうかしら……?」
「故国では、こんな騒動を『祭り』と呼んでおりました。我が国は揉め事が娯楽でして」
「貴方の故国、物騒ね……」
 ダスティンは時折故国の話をしてくれる。移動民族が各地で暴れていて、冒険者がその日暮らしをしていて、魔術師たちの魔塔があって、悪戯な古妖精『光の』フェアグリンが妖精たちを管理統制しているという北西のその国は、文化の違いが激しいようだった。
 
「ところで、私のイリアお嬢様レディ
「はいはいはいっ、なにかしら。なんでもわたくしに相談してよろしくてよ」
 『私のお嬢様』ですって――ダスティンがわたくしに心を開いてくれている感じではなくて?
 ネネツィカは目をキラキラさせた。
 青年はそんな令嬢に、まるでお散歩に行きたいソワソワとした犬のような目を向けて首を傾げておねだりをする。優し気な容貌の青年がそんな顔をすると、ネネツィカはなんでもきいてあげたい気持ちになった。
「今日は天気も良いですし、ちょっとだけ北の黒天幕に時限式爆弾を仕掛けてもよろしいでしょうか?」
「ええ、ええ……えっ」
 ネネツィカはニコニコと許可をしかけてから、慌てて「テロはいけません!」と制止しつつ「でも、正直に何をなさりたいか教えてくれたのは嬉しいわ」と付け足したのだった。

 ララカの魔法の風に乗り、青年の声がきこえてくる。
 『ファーリズ勢が毒を盛ったという証拠はないのではありませんか?』
 ディドさん、とララカが呟いて少し心配そうな眼を見せている。ディドの友人だというダスティンは「ディドはお仕事を頑張っているようですね」とおねだりを引き下げて、おとなしくバーベキュー用の野菜をカットする様子。
 
「お嬢様、首輪と紐でもつけておいたほうがよろしいのでは」
 ティミオスが冗談交じりに微笑むので、ネネツィカはララカと一緒に足を川の流れに浸してひんやりとした涼気を楽しみながら、スケッチブックに首輪つきダスティンを描いたのだった。
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