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11、三国同盟と魔王の時代
192、光華、夜の喧騒に幕引きを
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夜の国際交流会場に爆破音が連鎖する。ふわふわと飛んでいたシャボン玉が幾つも弾けて小さな妖精の群れを成し、夏夜にカラフルな色の花弁を散らしている。オパールめいた遊色の美しい小さな古妖精フェアグリンはそんな妖精たちに煽られて燥ぐように鋭角な軌道で飛び回り、光の花を咲かせていた。
人間たちはそんな妖精たちを見上げて右往左往している。はらはらと降り注ぐ花弁や、星空に刹那弾けて消える泡沫の光華は美しくぴかぴかと高い空で光るだけで、地上の天幕を巻き込む気配はなかった。しかし、音は煩い。
「あれは何をしているんだ? 喧嘩?」
安眠妨害もいいとこじゃないか。
そんな声が幾つもあがっていて、エインヘリア勢、『騎士王』の側近騎士団メンバーの混沌騎士ダニーロとパブロが「よくわからんが、騒ぐなら遠い所でやれー」と叫んだ。
「妖精が暴れてるのは雑魚が悪いよ」
同じく混沌騎士のシュナがきゃらきゃらと笑って一番大きな天幕に入っていく。アイザールのミハイ皇子に頂いたという魅惑的なバフールの香りが漂う天幕の奥で、金刺繍で竜の意匠が凝らされたクッションと妖精意匠の枕の投げ合いが始まる。
「雑魚の妖精うるさいよ、止めろ~」
「おい、シュナをつまみ出せ。俺は寝るんだ」
寝巻姿のニュクスフォスは駄々っ子のようにクッションにしがみついて首を振った。
(昼間も夜もあれだけ面倒な連中に囲まれて神経を削ったのだ。休んでもいいではないか。全く、王様ってのは疲れるしめんどくさいな。配下はこんなノリだし)
「俺は絶対に寝る。付き合ってられん。いいか、絶対だ」
「妖精がうるさくてみんな迷惑してるんだ!」
「俺のせいじゃない。耳栓でもつけて寝ろ」
雑魚呼ばわりされたシュナの主、ニュクスフォスは断固として起床を拒否する構えで頑なに目を瞑る。
青色天幕、クレストフォレス側は遠巻きに空の光華を鑑賞していた。クレストフォレスの『妖精射手』サリオンは「あれらは、盟主様が挨拶代わりにフェアグリンを揶揄うように命じた妖精群のようです。少し魔法をぶつけ合ってじゃれあっているだけで、喧嘩というほどの騒動ではないと思われます……おそらくですが」と若干自信のなさそうな声色で告げた。入眠を阻害されて眠たげなダスティンが丁寧にそれを通訳して、「要するに妖精は空気も読まないし度し難いとうことですね」と毒を吐いていた。
ララカは騒動を他所にすやすやと夢の世界だときいて、ネネツィカは「わたくしも寝てしまおうかしら」と微笑みながら実家の兄の言葉を思い出していた。
「ラーフルトンにはクレストフォレスとの友好の架け橋役を求められている――とても大切な使命だ、ネネツィカ」
兄は、上機嫌だった。
妹を誇るような眼をしていて、ネネツィカはそれが嬉しかった。
「元々、ファーリズで妖精といえば北のラーフルトンだったのだ。それが最近は妖精といえば南のユンク伯爵家となりつつあったが……事業に積極的だった公子も家を出たようだし、これからはラーフルトンが返り咲く。なにせうちの国と来たら、竜の守護動向が最近は本当に不安定だから、これからの時代は妖精との友好関係が物を言うに違いないぞ」
ダスティンがそろそろと何処かに出かけようとしているのに気付いて、ネネツィカは袖を引いて座らせた。
「何処へ行かれるのかしら……」
「あの爆破音に私の自慢の火薬を共演させようかと」
青年は悪びれなかった。
「危険はありません。ただ妖精に命中したら怒るかもしれませんが」
「それを危険と呼ぶのではなくて……?」
ティミオスがくすくすと笑い、「あまり夜更かししては明日に差し障りますし、騒動はほっておかれては」と耳栓を差し出した。
「準備が好いのね」
「こんなこともあろうかと」
ネネツィカは少し考えてから、ゴレ男くんを召喚した。
夜闇に巨大な岩の人影が蠢くと、交流会場の人々が「あれはなんだ」と騒ぎ始める。
「フッ、これがラーフルトン名物のゴレ男くんですわ」
巨体が膝を折りしゃがむ姿勢で手を差し伸べる。ネネツィカは驚いて目を見開いたまま硬直しているダスティンを引っ張りこんで、一緒にゴレ男くんの手のひらに乗った。
「ゴー、ゴレ男くん。すたんだっぷです」
どや顔で命令すれば、ゴレ男くんが堂々とした巨躯を直立させる。高度があがると傍らの青年が恐怖を覚えたようで、小さく悲鳴をあげて岩の手にしがみついた。
「あーあー、あー、てすと。てすと中です……きこえます? きこえますわね?」
拡声の魔道具代わりに魔法で声を響かせて、ネネツィカは妖精と人に呼びかけた。
「夜間にあまり長く騒がれると、困りますの。今夜の爆破祭りは、そろそろ終わりになさってくださいませ。余り煩くすると、人間たちが眠れないのですわ。わたくしの可愛い従者が終幕を爆発音の共演で彩ると申していますので、皆様はどうぞラストをお楽しみくださいまし」
言葉を終えて、ネネツィカは震えあがっている『可愛い従者』をつっついた。
「ほら、出番よ。あんなにやりたがっていたじゃない。存分におやりなさいな」
ダスティンは驚いた顔をして、「ここで? 危ないですよ」とそろそろと周囲を見た。指の隙間から地上が見えると、「高いですね」とかなり怯えた声で呟く。高い所は苦手なのかもしれない、とネネツィカは心の中の情報メモに書き留めた。
「わたくしが手伝いましょうか? 魔法で?」
「いえ……なんとかします」
命令をしたからか、それとも単にやりたかったからなのかは定かではないが、しばらくすると青天幕群の上空に光の花が打ちあがる。
光の筋を細く描いて、一瞬鮮やかに華麗に咲いて、すぐに消える。
それは眩く、あっけなく、煌びやかな夢のような華だった。
ゴーレムの上から打ちあがったそれは地上や北の妖精たちに被害を齎す事はなく、ただ華やかな空の芸術として人々の目を楽しませ、夜の喧騒に幕を引いたのだった。
人間たちはそんな妖精たちを見上げて右往左往している。はらはらと降り注ぐ花弁や、星空に刹那弾けて消える泡沫の光華は美しくぴかぴかと高い空で光るだけで、地上の天幕を巻き込む気配はなかった。しかし、音は煩い。
「あれは何をしているんだ? 喧嘩?」
安眠妨害もいいとこじゃないか。
そんな声が幾つもあがっていて、エインヘリア勢、『騎士王』の側近騎士団メンバーの混沌騎士ダニーロとパブロが「よくわからんが、騒ぐなら遠い所でやれー」と叫んだ。
「妖精が暴れてるのは雑魚が悪いよ」
同じく混沌騎士のシュナがきゃらきゃらと笑って一番大きな天幕に入っていく。アイザールのミハイ皇子に頂いたという魅惑的なバフールの香りが漂う天幕の奥で、金刺繍で竜の意匠が凝らされたクッションと妖精意匠の枕の投げ合いが始まる。
「雑魚の妖精うるさいよ、止めろ~」
「おい、シュナをつまみ出せ。俺は寝るんだ」
寝巻姿のニュクスフォスは駄々っ子のようにクッションにしがみついて首を振った。
(昼間も夜もあれだけ面倒な連中に囲まれて神経を削ったのだ。休んでもいいではないか。全く、王様ってのは疲れるしめんどくさいな。配下はこんなノリだし)
「俺は絶対に寝る。付き合ってられん。いいか、絶対だ」
「妖精がうるさくてみんな迷惑してるんだ!」
「俺のせいじゃない。耳栓でもつけて寝ろ」
雑魚呼ばわりされたシュナの主、ニュクスフォスは断固として起床を拒否する構えで頑なに目を瞑る。
青色天幕、クレストフォレス側は遠巻きに空の光華を鑑賞していた。クレストフォレスの『妖精射手』サリオンは「あれらは、盟主様が挨拶代わりにフェアグリンを揶揄うように命じた妖精群のようです。少し魔法をぶつけ合ってじゃれあっているだけで、喧嘩というほどの騒動ではないと思われます……おそらくですが」と若干自信のなさそうな声色で告げた。入眠を阻害されて眠たげなダスティンが丁寧にそれを通訳して、「要するに妖精は空気も読まないし度し難いとうことですね」と毒を吐いていた。
ララカは騒動を他所にすやすやと夢の世界だときいて、ネネツィカは「わたくしも寝てしまおうかしら」と微笑みながら実家の兄の言葉を思い出していた。
「ラーフルトンにはクレストフォレスとの友好の架け橋役を求められている――とても大切な使命だ、ネネツィカ」
兄は、上機嫌だった。
妹を誇るような眼をしていて、ネネツィカはそれが嬉しかった。
「元々、ファーリズで妖精といえば北のラーフルトンだったのだ。それが最近は妖精といえば南のユンク伯爵家となりつつあったが……事業に積極的だった公子も家を出たようだし、これからはラーフルトンが返り咲く。なにせうちの国と来たら、竜の守護動向が最近は本当に不安定だから、これからの時代は妖精との友好関係が物を言うに違いないぞ」
ダスティンがそろそろと何処かに出かけようとしているのに気付いて、ネネツィカは袖を引いて座らせた。
「何処へ行かれるのかしら……」
「あの爆破音に私の自慢の火薬を共演させようかと」
青年は悪びれなかった。
「危険はありません。ただ妖精に命中したら怒るかもしれませんが」
「それを危険と呼ぶのではなくて……?」
ティミオスがくすくすと笑い、「あまり夜更かししては明日に差し障りますし、騒動はほっておかれては」と耳栓を差し出した。
「準備が好いのね」
「こんなこともあろうかと」
ネネツィカは少し考えてから、ゴレ男くんを召喚した。
夜闇に巨大な岩の人影が蠢くと、交流会場の人々が「あれはなんだ」と騒ぎ始める。
「フッ、これがラーフルトン名物のゴレ男くんですわ」
巨体が膝を折りしゃがむ姿勢で手を差し伸べる。ネネツィカは驚いて目を見開いたまま硬直しているダスティンを引っ張りこんで、一緒にゴレ男くんの手のひらに乗った。
「ゴー、ゴレ男くん。すたんだっぷです」
どや顔で命令すれば、ゴレ男くんが堂々とした巨躯を直立させる。高度があがると傍らの青年が恐怖を覚えたようで、小さく悲鳴をあげて岩の手にしがみついた。
「あーあー、あー、てすと。てすと中です……きこえます? きこえますわね?」
拡声の魔道具代わりに魔法で声を響かせて、ネネツィカは妖精と人に呼びかけた。
「夜間にあまり長く騒がれると、困りますの。今夜の爆破祭りは、そろそろ終わりになさってくださいませ。余り煩くすると、人間たちが眠れないのですわ。わたくしの可愛い従者が終幕を爆発音の共演で彩ると申していますので、皆様はどうぞラストをお楽しみくださいまし」
言葉を終えて、ネネツィカは震えあがっている『可愛い従者』をつっついた。
「ほら、出番よ。あんなにやりたがっていたじゃない。存分におやりなさいな」
ダスティンは驚いた顔をして、「ここで? 危ないですよ」とそろそろと周囲を見た。指の隙間から地上が見えると、「高いですね」とかなり怯えた声で呟く。高い所は苦手なのかもしれない、とネネツィカは心の中の情報メモに書き留めた。
「わたくしが手伝いましょうか? 魔法で?」
「いえ……なんとかします」
命令をしたからか、それとも単にやりたかったからなのかは定かではないが、しばらくすると青天幕群の上空に光の花が打ちあがる。
光の筋を細く描いて、一瞬鮮やかに華麗に咲いて、すぐに消える。
それは眩く、あっけなく、煌びやかな夢のような華だった。
ゴーレムの上から打ちあがったそれは地上や北の妖精たちに被害を齎す事はなく、ただ華やかな空の芸術として人々の目を楽しませ、夜の喧騒に幕を引いたのだった。
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