竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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11、三国同盟と魔王の時代

193、食事処『竜の御伽亭』

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 ダンジョン近くの食事処『竜の御伽亭』の一角に有名クランの幹部たちが集まっているので、店内にいる一般客やフリー冒険者たちはチラチラとそちらを見ていた。

「『暇つぶしの剣シュヴェール』の連中だ」
「アッシュ・フィーリーがいるぜ」

(わあ、噂されてるや……あはは)
 あれこれと噂される事にも、いつの間にかすっかり慣れてしまった。

 幾つもの視線を感じながら、アッシュは焼きたてでじゅうじゅうと音を立てるピザをかちゃりとピザカッターで切り分けた。上端の方から差し入れたカッターの銀刃が容易くチーズと生地に食い込んで、じゅわりと脂が湧く。美味しそうだ。
 耳には他の席からの囁きが絶えず入ってくる。

「すげー強いんだって?」
(いやっ、そんなに強くないですぅ……)
 アッシュは微妙な顔をした。
「この前のライブ観たけど、そうでもなかったような……」
(そうそう。そうでもないんだよ……)
 アッシュはホッと息をついた。

 『暇つぶしの剣シュヴェール』の設立者だからだろうか――『暇つぶしの剣シュヴェール』は学院の寮繋がりで人数が多く、人数が増えるほどアッシュを知らない者が『きっとマスターはとても強いのだな』と勘違いをしやすくなったようだし、所属しているメンバーも自分たちのマスターが侮られるのは嫌らしくて、『俺たちのマスターは強いんだぜ』と言い張るようになり――結果、なんか強い人みたいに思われていく最近なのだ。
(否定していこう。どんどん否定してもらおう。『神はありのままを望まれる』――嘘、大袈裟、紛らわしい、全部ダメ。クランルールにも追加しよう……)

「馬鹿、外部の目がある時は実力の半分も出さないんだよ」
(ええ……なんで……)
 アッシュは心の中で意義を唱えた。
(実力があったらそりゃもう見せびらかすよ。その方が気分良いし。本当に強かったら、デミルにも『頼っていいよ』って言えるんだ。危ない時にも守ってあげてさ……)
 ――創ってもらった魔法剣だって、もっとバリバリに使いこなしてさ。

 ――しかし、現実はそうではないのだ……。
 
――トマトやベーコン、コーンが乗っている焼きたてのピザのワンピースを個人皿に移すと、溶けたチーズが伸びて脂が照明の下でてらてらとして、食欲をそそる燻製味のある良い匂いがした。清めた手で端を掴むと指先が軽く火傷しそうなほど熱い。

「いただきます」
 思い出したように呟いて、先の方をかぷりと頂く。
「あちっ……」
 チーズの脂が焼けて、熱くて美味しい。野菜の瑞々しい苦味と肉の脂が混ざり合っていて、味と匂いが口腔いっぱいに広がっていくにつれて満たされた気持ちになっていく。
 パリッとした歯応えだった生地の内側がふっくらとして、これまた熱い。けど、それがいい。焼きたてのパン生地特有の良い匂いと、素朴なパン生地の味わいが複雑で濃厚な具味と調和して、他の料理なんて要らないよって訴えかけてくるみたいに幸福感で満たしてくれる。

「ん~、美味しいっ」
 これ、弟たちにもお土産に買っていこう。アッシュは束の間、噂のことを忘れて至福の顔をした。

「ピザは好物らしい」
「だな!」
 こそこそとした声がまた聞こえる。
(ピザが好きなら、なんだって言うのさ……)
 アッシュはすっかり馬鹿らしくなった。

「アッシュ、持ち帰りにして寮で食べようか?」
 そっと心配する声をかけてくるのは、クランメンバーのクラウスだ。貴族のお抱えでもある元冒険者のクラウスは、ライブダンジョンに興味があるらしくて主人に許可をもらって余暇の趣味として『暇つぶし』しているらしい。
 クラウスは強いので、そんな彼や妖精のデミルがつるんでるのだから、とアッシュも特別視されがちなのだ――。

 そんな食事処『竜の御伽亭』の端の席に、ひときわ奇妙な集団がいる。

「ミーム様、それは何ですか。俺にもひとくち味見させてくだされっ」
 フサフサの狼尻尾をふりふりして耳をひょこひょこさせるのは、半人半狼といった容貌の狼男のファラオ。おねだりされた退廃的な雰囲気のある貴族風衣装の吸血鬼ミームは味わっていたパフェのクリームをスプーンで軽く掬い上げて、「これが欲しいか? 待て……待て。待ちたまえ……待、」と芸を仕込むみたいに焦らしている。
「もう待てませぬ! わう、わうっ」
「こら駄犬!」

 そんな二人を空気のように無視して安物のマニキュアで爪のおしゃれを楽しんでいるのは、愛らしい男の娘悪魔ルルムちゃん。
「ダンディ様、ボクこの前オガ男様に『今日も頑張ってますね』って褒めてもらったの」
「おお。よかったですなルルム殿ー! 拙者も『いつもお疲れ様です』とお声をいただきましたぞ!」
 騎士鎧に身を包んだスケルトンのダンディ卿は鎖骨をくるくるとまわし、眼窩をちかちか光らせて、歯をカタカタと鳴らして陽気に笑う。

「どう見ても魔物なのだが……」
 近くの席で寛ぐ学院魔術教師兼妖精学校教師のヴァルター・アンドルートはもそもそと杏仁豆腐を口に運ぶ友人歴史教師のエイヴン・フィーリーにこそりと視線を向けた。
「魔物も美味しいごはん好きなんだねえ」
 エイヴンはふわふわとそんな事を言っている。
「エイヴン。貴様以前『妖精は怖い』だの言っていたが魔物は怖くないのだな?」
「ああ、そう――ライブダンジョンでほら。慣れたっていう?」
 最近夜遊びが激しい様子のエイヴンは、へらりと笑って眠たげに欠伸をした。

 人工の照明がそんな空間を暖色に照らしていて、夏の気温がとろりと気怠さと眠気を誘う――そんな平穏な時間が食事処『竜の御伽亭』には流れていた。

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