竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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11、三国同盟と魔王の時代

197、鮮血南下行、夢をみて

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 フィニックスとクレイのエインヘリアからの密やかな逃避行は続いていた。

 緑と土の匂いがする。日が昇り切らぬ世界は風を遊ばせるのも忘れたように停滞した空気を浸していた。
 フィニックスは、野営地の朝に寝ぼけ眼を擦る少年の身支度を手伝い、食事を勧める。
「昨夜もアスライトが夢を見せてくれたよ。ゴーレムが妖精と遊んでた……花火が綺麗だったよ」
 夢心地のままぽつりぽつりと語るクレイは嬉しそうだった。
「それはよろしゅうございました……」
(ゴーレムが妖精と遊んで花火が綺麗とはどのような夢なのか)
 想像もつかぬ光景を語る声に相槌を打てば、きいてくれるのが嬉しくて堪らないといった様子で声が続く。
「僕、アスライトにフィニックスの話をしたよ。シリル殿下が大好きな君の話を」
 はしゃぐように言われて、フィニックスは畏まった。
「私の話を……黒竜に」
 君は、あれを守護竜とはもう呼ばないのだね――少年は揶揄うように言ってから、「アスライトはシリル殿下が犠牲者だと言って憐れんでいた」と本当か嘘かわからない声色で語り、肉という肉を端に寄せて緑葉の野菜だけをちまちまと摘んでいる。
(黒竜はシリル殿下を憐れんでくださっていた……)
 その言葉はフィニックスの耳に快く、騎士はそっと感謝を述べた。
「それは私にとって嬉しいお言葉です――ところで、その肉は葉に挟めてみてはいかがでしょう」
 フィニックスが緑葉に肉を挟めると、一応は食べてくれたが。夢の続きに微睡むように判然としない物言いで。
「僕はそもそも食べるより飲む方が好き……肉よりお菓子が好き……」
 そんな恐ろしいことを言うのだった。

 出立前に荷を纏めていると、クレイは手を伸ばしてフィニックスの白馬を撫でている。
「プシュケーはまつ毛が長いね。人参が好きなんだ。そうだろう?」
 この子がもし怪我をしたら僕は悲しい、怪我をしないでね――そう呟いて、少年の指がやわやわとたてがみを愛でてから人参を口元に寄せた。
「手のひらに乗せてください、指で摘むのではなく」
 甘いものを好むと教えれば、「僕と同じだね」と微笑んで人参が食べられてなくなるのを不思議そうに見ている。

 馬上に少年を抱えて、南路をまた駆ける。
 蹄の音は耳に心地よくリズムを刻み、馬脚は大地を力強く蹴り、道のりに足跡を刻んで――それを少年が虚空に竜の名を刻み、加護を顕現させて気紛れに消していた。
「レネンが探していそうだから。見つかると大変だから」
 そんな風に言う瞳は能を誇るようでもあり、寂しそうでもあった。

 遠景に魔塔と家々の並びを眺めながら、少年の声が『騎士王』を語る。

「彼は、甘いものは好まないと聞いているよ。食事をしてるところは、見たことがない……」

 冒険者が集まるギルドの戸口で子洒落た看板がぷらぷら揺れているを見かければ、「あれは僕のだったのに、あれは僕のお気に入りの意匠だったのに」とおかしな事を呟いて。

「彼は、お金持ちだね。冒険者を集めて傭兵として使ってさ。実力のある冒険者が忠誠を誓って臣下に下れば、絶品武器もホイホイ下賜する」
 ――名剣、妖剣、魔剣、聖剣……どれもとても高価な品で、値がつかないほどの凄い剣まである。それをポンと余り物を処分するみたいにあげてしまうのだ。
 そう言葉を連ねる顔は何かを考えるように虚空を見つめていたので、フィニックスはそっと相槌を添わせた。
「その話は私も聞いておりますよ。耳を疑いましたが」
 少年の声が思い付きに溺れるみたいにふわふわしている。
「商人上がり……」
「彼は騎士です」
 フィニックスはあっさりと否定した。『騎士王』の出自は遍歴の騎士で、その腕は確かなのだと言われている。
「き、……貴族……」
(連想ゲームでしょうか?)
 フィニックスは携行する水筒を差し出して水を勧めた。
「今日も暑いですから、水分を……」
 落とさぬようにと手を添えつつ喉を潤すのを見守れば、お礼の合間にも連想が続いている気配がある。
「多言語使い、母国語、ウェザー商会との因縁……『混沌』……」
 あやしげな口調でふつふつと単語を連ねる様子がどこか不安定で危なっかしい――フィニックスは眉を寄せた。
「もう彼の話はやめましょう……『騎士王』の事は、ご放念くださいまし」
(やはり、洗脳でもされてるのだろうか?)
 ならば、物理的に距離を置き、引き離すのはやはりこの少年の為になるに違いない。行先は、シリル殿下の元にと決めていた。フィニックスもシリル殿下の近くにでも家を構え、この少年と暮らせばよいではないか。シリル殿下同様、アイザールに匿ってもらって。代償に『成り上がり』が仕事を時折頼んでくるかもしれないが、それくらいはこなしてみせようーーグリエルモは食えないが、憎めない愛嬌みや、親しみを感じさせる武人でもあった。

 やがて、馬上に揺られるうちに眠気を催したのか少年がうつらうつらと夢の世界に意識をやれば、馬の速度で過ぎる風景、日差しの明るい昼間の夏世界に吹く涼風がそこだけ夜を感じさせるように静謐で神秘的な温度を肌に伝える。
(今も、アスライトと夢に戯れていらっしゃるのだろうか)
 眠りを妨げぬように気を付けながら、フィニックスは在りし日のシリル王子を想う。
 清廉優美な白竜と親し気に語り合う、誰もが認める未来の国王――そんな彼の傍らには、未来の国主、世界で一番貴き王太子をお守りするのだと言う志に瞳に燃やし、気高く誇らしく見守っていた自分がいたのだった。
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