竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

文字の大きさ
211 / 260
12、騎士王と雨月の冠

203、エリックとオーガストのいつものと、秘密結社とやら

しおりを挟む
「よくぞ来た俺の騎士オーガスト! ここが今日から俺たち『秘密結社ファーブラ』の秘密基地であるッ!」
「にゃー」
「みゃお~」
「……」
(また変なことを……)
 エリックの騎士オーガスト・ウィンザーは呼びつけられた妖精猫カフェで猫に囲まれながら格好つける第二王子を無表情に見つめ、カーペットに膝をついた。
(今度はなんです、エリック殿下? 魔王軍の次は秘密結社? ファーブラ?)
 視界の隅には、ソファに寛いでこちらを鑑賞する様子のご友人方や魔王軍配下までいるではないか。
「いつもあんな感じで打ち明けてるのかな」
「大変ですわねえ……」
「僕は彼に『胃薬の騎士』という二つ名をつけてあげたんだよ」
 ご友人方の呑気な囁き声がしっかりばっちり聞こえている。

「……殿下の騎士、オーガストが御前に参上致しました。はい」
 
 ――遊びだ!
 この少年たちは遊んでいる――間違いないだろう。

(まあ、国を巻き込んでギスギスされるよりよっぽどマシですね。お付き合いしますよ……)
 オーガストは色々慣れて諦めた気配を濃く浮かべ、いつものように真面目な顔で王子の演説に耳を傾けたのだった。

◇◇◇

 季節の変わり目――実りの予感を感じさせる香りを運んで、風は涼しく吹いていた。道端では濃い赤紫の花が緑と共に揺れていて、緑の隙間に覗く土は明るく柔らかな彩りを見せている。

 ファーリズの王立学院では、夏休みを終えて、学生たちが学院の日常に戻っていた。繰り返される講義の鐘の狭間に、近いような遠いようなニュースの話がコミュニケーションの種として活躍している。
「シリル王子殿下がアイザールにおられるんだって」
「クレイ様のアスライトが……」
 語り合う話題はやはり交際交流会やアイザール皇子と重臣ネクシの死、黒竜の目撃情報についてが多かった。

「『星のリボン』というのが流行りつつあるらしい。知ってるかい」
 噴水広場のライブダンジョン観戦席を巡る売り子を見て、取り巻きを率いるエリックが友人たちに話題を振った。
「何かお願い事をしながら手首とか髪とかに結ぶんだ。俺がプレゼントするよ」
「これは、わたくしがルーファスさんにご提案した商品ですわ」
「あ、そうなんだ?」
「発案者がわたくしなので、売上の一部が我が伯爵家にも入ってきますの」
 色とりどりのリボンを手に取るネネツィカが思い出すのはアイザールのグリエルモとネクシだった。
「あのお二人はお揃いのリボンを付けていらして……」
 ネクシが亡くなり、グリエルモは悲しんでいるに違いない――そう呟く横顔にエリックは慌てた。
「ようし、なら俺たちもお揃いでつけて『てぇてぇ』するぞ!」
 交換するみたいに互いが選んだリボンを結び合い、お互いの幸せを願い合う。エリックがそう提案すると取り巻きたちは和気藹々とリボンを選び、結び合って楽しんだ。
「クレイもつけてあげるよ。グリエルモとネクシみたいにお揃いで髪に結ぼうじゃないか」
「髪に結べるかな……すぐ取れてしまいそうだよ」
「後ろのほうをちょっと摘まんでぎゅって結べばいけるって」
 結び合いっこする二人を見て、取り巻きたちは「今日はギスギスしなくて平和だな」という顔を並べていた。

「では、私も~」
 リボンをエリックの手首に結ぶユージェニーに、兄クレイが声をかける。
「ユージェニー、あそこの新商品をご覧よ」
「はいはいっ?」
 言われた商品を見てみると、真っ赤な肉がたらたらと紅い汁を垂らして串刺し状で炙り焼かれていた。
「あれって、前教えてくれた『火蜥蜴の炙り焼き』じゃない?」
 説明の札にも、そのような名称が記載されている。
「あら、攻略講座を覚えていてくださったんですねお兄さま。ええ、きっと喜ばれますわ」
 兄は目を輝かせてそれを買っている。
「そういえば、僕この前トロフィーをもらったよ」
 ――そんなことを自慢げに語りながら。
「それはすごいですね。ちなみにトロフィーは一種類じゃなくって色々あるんですよ」
「そうなのか」
 兄が友人を攻略する場合、それは果たして乙女ゲームなのかBLゲームなのか――ユージェニーはそんなことを考えながら、制作会社の社員だった時の気持ちを思い出してニコニコした。自分が携わったものを楽しんでくれるお客様を見た時、こんな気持ちになったのだ。

(実況動画とか、SNSの呟きを見て「こんな反応してくれた」って凄く嬉しくなっていた……)
 落ち込むような反応もあって、気に病む社員もいたけれど、それ以上に喜んだり楽しんだりしてくれている反応が強い悦びを感じさせてくれた。
 ユージェニーはそれを思い出していた。
 
(とはいえ――この兄は大丈夫かしら)
「けれどお兄さま、私が言うのもアレですが、これは現実であって単なるゲームと割り切って遊んではいけないのですからね。相手は生身の人間だということは忘れてはいけませんよ」
 そっと囁けば、兄は「わかってるよ?」と首をかしげた。
「僕は友人を喜ばせたり仲良くなるのが楽しい……喜んでもらえると嬉しくなるんだ」
「……そうですか。そういえばお兄さま、手紙にも書きましたが、デミル・マジェスに話をしてほしいのですが――」
 思い出したようにおねだりしてみれば、兄は困った顔をした。
「『妖精王』は最近妖精界がごたごたしてるみたいで、あっちに行ってることが多くて連絡がつかない……」
 
 風に乗り、噂話がまたひとつ耳に拾われる。
「『闇堕ち勇者』ってのがあちこちに出没してるんだって」
「『鮮血』がやられたらしい」
(――なんだって!)
 噂を耳にしたクレイはびっくりして『勇者』に会いに行った。

 『勇者』の髪から微かに漂うのは、酒の残り香だろうか。最近、どうも酒にハマっているという噂がある。
「いやいや、俺はそんな事しないよ。先生ほど無害な生き物はいないよお」
 普段は王立学院で歴史教師を務める『勇者』、エイヴンはへらへらしながらそう言って、講義資料をまとめて「お迎えがきてるんじゃないの? 帰りなよ――先生、ここに混沌騎士が踏み込んでくるのは怖いなあ」と追い払う仕草をした。
『ネヴァーフィールは怪我をしているようだったよ』
 アスライトが静かに声を降らせる中、クレイは秘密基地でのエリックとの会話を思い出しながら迎えの幻想馬車に近付いた。

 珍しく鎧を脱ぎ、まるでこの国に居た時の伯爵公子が戻ってきたみたいな姿で馬車近くのベンチに腰掛け、混沌騎士を警護に立たせてミハイ皇子や弟のエイミル相手になにやら楽し気に話し込んでいる『騎士王』――日差しに白髪が明るい色を魅せていた。ふと紅い瞳がこちらを見る。笑顔が咲いて、親しみの籠る温度を伝える。

 ――エリックと僕はこれからちょっとだけファーリズでゲームをする。
 そこにエインヘリアも介入する恐れがあるから、そのリスクを減らしたい――、
 
(『騎士王』はミハイ皇子と仲が良いんだ。泣きつかれたら、アイザールの味方をされてしまう恐れもある――ああ、ちょっと怖いな……直通の幻想馬車はやっぱり危険だよ)
 ――それは、僕の通学のために用意してくれた奇跡だったけれど。

「クレイ、帰りますよ。良いですよね?」
 『騎士王』は確認するように言って手を引き、馬車に乗せてくれる。
 こくりと頷いて『推定好物』を差し出せば、毒の疑いを全く持たずにぱくりと口に入れて味わって。
「ほう。初めて食べますがこれは美味い!」
 本音なのが伝わる声で言うので、やはり好みの味だったようだ。
 少し馬車を走らせてから妖精界に入った馬車は、一度止まった。混沌騎士が外に出て、最近多いのだという幻想馬車に悪戯しに寄ってくる妖精群とやらを追い払っている。

(妖精の世界も、ずっと平穏ってわけじゃないんだな……)
 アッシュ経由ですこしだけ聞いた話によると、妖精界の一部では妖精たちがここのところ『支配圏を巡っての喧嘩』をしているらしいのだ。
(でもそれで幻想馬車が使いにくくなるなら、追い風ともいえる?)
 天運めいたものを感じて、クレイはそっと息を吐いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。 

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

処理中です...