竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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12、騎士王と雨月の冠

205、冬と春の狭間にファーブラのバカとハサミの相談ノート

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 綿毛みたいなまっしろの髪をふわふわさせて、『冬の』妖精王デミルが飛んでいく。銀色の瞳がまっすぐに見つめるのは、絢爛の花咲く寝台に眠る春妖精。遠い昔、人間相手に恋をしたその妖精は、デミルにとって特別だった。
 
 春は、あたたかかった。
 春は、やさしかった。
 柔らかくて、あどけなくて、そこにいるだけで世界が明るくなる感じがした。
 ずっと傍にいてほしかった。
 人間ではなく、デミルを好きだと言って欲しかった。
 その愛が人間に注がれると、心が寒々とした。
 相手の人間が寿命を迎えて亡くなると、不思議なくらい心がスッとした。
 これからはオイラを見てくれるね、オイラと長い長い時を妖精らしく楽しく生きていくんだよね。
 そう思って、――けれど、その後、彼女は眠ってしまった。
 そして勇者がやってきて、デミルもまた封印された……。
 
「久しぶりに会いに来た、よ! ゆっくり、好い夢をみてね」
 妖精に語り掛ける声は優しい。その妖精はずっと眠っていて、いつ目が覚めるのかわからない。けれど、寂しさはあまりない。心配することもない――「ああ、オイラ呼ばれてる。行かなきゃ。またね」デミルの妖精の耳がふと遠くの声を拾い上げたようにぴくりとして、名残惜しくも別れを告げて去っていく。春妖精の傍らで、彼女に従う古妖精がそれを見送り優美に一礼した。
「デミル~!」
 人間界で、アッシュが呼んでいるのだ。
「このあたりでいいかな!」
 アッシュの傍に通じるように『穴』を開け、デミルが世界を繋げて移動する。
「はーい」
 ひょっこりとすぐ近くに姿を表わせば、アッシュは大袈裟なほど驚いた。
「うわわっ、そこにいたんだ!? ごめんね、いないと思って探してて」
「いなかった! 呼ばれたから来た!」
 眼鏡をかけなおして人間らしく笑えば、アッシュが「あ、やっぱりいなかったんだ」と少し慣れた様子で頷いた。
「『暇つぶしの剣シュヴェール』のみんなでライブダンジョンでボス部屋にいるドラゴン倒そうって盛り上がってるんだ。一緒に行く?」
「ドラゴン! いいね、オイラはドラゴンが嫌いだから、張り切って倒す!」
 ふとデミルは恐ろしいことに気付いてしまった。
 
(アッシュは、人間だから命が短くて、きっとあっという間に死んでしまうんだ)
 それは驚くほど当たり前の事実で、意外なほどにデミルの心を揺らす現実なのだった。

 
 ◇◇◇
 
 
 ネネツィカの執事、ティミオスが慣れた様子で妖精猫カフェを掃除している。筒状にしたカリッとした生地のカンノーロを皿に乗せ、ネネツィカは友人たちのテーブルへと運んだ。
 学院帰りのエリックたち『秘密結社ファーブラ』は妖精猫カフェに集まるのが日常となっていた。
「寄り道は二時間までなんだ。僕、あんまりのんびりダラダラはできないよ……」
「『騎士王』のお迎えはもういらないのではなくて? アスライトに頼めばいいじゃないですか」
 三毛猫を抱っこしながらユージェニーが兄クレイに問えば、兄は煮え切らない様子で首を振った。
「幻想馬車がお好きなんですね」
 ヘレナがにこにこしている。
「うん、うん」
「毎日放課後に寄り道して妖精猫カフェで遊んでるのって呆れられてない?」
 エリックが笑っている。
「どれだけ猫好きなんだって思われてそう」
「思われている。『騎士王』は昨日ほんものの黒猫をペットにくれた」
 偽物ネコのアスライトは知らんぷりで丸くなっている。
「シャトンと名前をつけたよ」

 今度猫を愛でにいくよ、と笑ってから、エリックが声を張る。
「いいかい、このノートにみんなが考える『これを解決しないと』っていう問題を書いたり、『これをしよう』っていうやりたいことを書いたりして、みんなでやるんだ。協力プレイさ!」
 思い思いに飲食しつつテーブルに広げるノートに、ひとりひとりが自由にペンを滑らせて――走り書きが増えていく。

「婚約、と」
 エリックがさらさらと願望を綴れば、クレイが隣で「一夫多妻制は廃止する」と書き足した。
「それは困る」
「選べないって言うんだろ。僕があみだくじ作ってあげるから」
「あみだくじで伴侶を選べるわけないだろ!」
 未来を巡ってノートに駄文を連ねる二人からノートを取り上げて、ユージェニーが「エリック様の魔王をなおしたい」「ウェザー商会の莫迦道楽貴族が騎士王にごめんなさいする」と書いた。
「私は、シリル王子をなんとかしたいかなって思いますね」
 ヘレナがそっと呟いてノートに手を伸ばす。
「ルカ皇子の死や、フィニックスが怪我をして、それがファーリズのせいだってすごく怒ってるってききました。ほっといたら、アイザールを味方につけて攻めてきそうですもの。……ファーリズがルカ皇子に毒を盛った証拠はないのですし、フィニックスを襲った勇者は……勇者、闇墜ちしてるんですかね」
 そう言って「シリル王子に会う? 勇者ぇ……?」と書いた。
 クレイはアスライトをちらりと見て、「世界をちょっと壊したい」と文字を記した。
「ちょっとってなんだよ」
 すかさずエリックがツッコミをいれてゾッとした顔をする。
「ここに闇墜ちしかけてる人がいますわ」
 ネネツィカがちょっとワクワクした顔で言ってノートに「←闇墜ちしてますわ」と追記した。
「僕は闇墜ちしてないよ!?」

 オーガストとトランはそんな少年少女を見守りつつ、クレイのお付きの呪術師レネンを仲間に入れて魔王軍の愉快な仲間達といっしょに微妙な距離感でお茶を啜っていた。
「オガ男様、ルルムがパフェをあーんしてあげますね」
「あ、どうも」
 ルルムが悪魔の尻尾をふりながらオガ男ことオーガストにくっついている。
「もてますね、オーガスト殿」
「だが男だ」
 狼男のファラオは尻尾をぶんぶん振って吸血鬼のミームに尻尾のブラッシングしてもらっていた。
「動かすな、やりにくいぞ」
「わふ、わふ」
 レネンは主の少年を気にしながらも、魔王軍の中でもとびきり見た目が悪いと評判の『画伯』デザインの魔物、シンフォニーに絡まれていた。
「ジジジジジジ……」
「あの、このシンフォニーさんが何か仰ってますが」
「心で感じてあげてください」
「ええ……」

 平穏のなかに、エリックの真面目な声が響いている。
「俺が気に入らない連中は結構いる……ここんとこはっちゃけてたし。外務卿も『黙ってろ』って言って来たんだ――」
「奇遇だね。僕も外務卿に『外交官を気取ってあれこれしようとしなくていいので、大人しくお飾り大使しててください』と言われたよ」
 クレイがしみじみとした声を添わせた。ほんのりと頬を染めたりして。
「けどさ、僕ほど優秀な外交官はいないよ。僕、この前なんて『騎士王』にシェ……まあいいか」
「言いかけてやめるな。最後まで言おうぜ」
「脱線したらだめだなって思ったんだよ。せっかく真面目な話してたんじゃないか」
 エリックは頷いて、気を取り直したように言葉を続けた。
 
「俺を玉座から遠ざけたくて、シリル兄上を担ぎ上げようって勢力は絶対に国内にも出てくるから、クレイがそれを自分の支持者に引っ張り込むんだ」
 ノートにさらさらと発言をメモするネネツィカは「本当に真面目な話をしている」とちょっとだけ驚いた。
「シリル王子殿下の反乱阻止――懐柔は、一度会っているという彼女らにお願いしてみたらどうかな? ユージェニーも連れてってもらって」
 
「ネネツィカは妖精界につながる『穴』を探したり作ったりできるんだっけ? 俺はデミルを手伝って仲直りするのもいいかな……それで誰かさんがやりやがったティーリーの封印を解いてもらえたら――ティーリーに誰かさんに挑発されても暴走しないように言い聞かせられたら、一気に地位も安定させやすくなるし。あと、俺は尻尾をしまって大人しくしつつ、俺の評価を下げた者たちに見直してもらえるようにしないといけないかな」
 エリックが悩ましく首をかしげていると、『誰かさん』はノートを引っ張ってペンを走らせた。
「エリック、僕は思いついたよ。魔王の力で闇墜ちしたってことにして、エリックをティーリーみたいに封印しよう」
「クレイ?」
「僕は世界を壊してエリックを封印する……」
「クレイ、お前ぜったい闇墜ちしてるだろ! お前のほうこそ俺が封印してやるよ!」
 ギスギスが始まると、ティミオスが壁際で「相変わらずのバカとハサミですね」と呆れたように笑う。

 そんな和やかな相談の中、ネネツィカは「わたくしは、薄い本の同好文化マーケットにいきたいです」と書いたのだった。
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