竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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12、騎士王と雨月の冠

210、英雄諸君は存分に救国の剣を奮うがよい

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 風車がまわる。風に揺れる燈火が夜の濃紺に橙色を光らせていた。
 南方アイザールの首都ウィネスでは隣国から亡命し、アイザール皇女と結ばれたシリル王子が演説をしていた。ルカ皇子とネクシ・エイホの追悼を述べ、過去何度も各国で暴挙に及んだ勇者がファーリズに匿われて健在らしい、今なお放埓に他国に出て英雄斬りをしていると批難し、白竜ティーリーが弟エリック第二王子を溺愛し、自分に死の運命を突きつけたこと、第二王子陣営が第三王子を暗殺した上、その事件は第三王子陣営から仕掛けたのだと主張し、白竜により強引に通してしまったこと、魔王として新生魔王軍とやらで世間を騒がせた事に遺憾の意を表明している。

「白竜ティーリーは現在封印されているようですが、いつ封印を解かれるかわかりません。現在健在と言われる黒竜も討伐しなければ……。エリック第二王子を始めとする王族は処刑し、竜の呪いを継ぐ血統を絶やしましょう。ファーリズという呪われた国は解体するのがこの世界のためです」
 そんな声が囁かれている。
 
(シリル様……平穏を望まれていたのに)
 夜風に鮮やかな赤毛を揺らすシリルの騎士『鮮血』フィニックスは、失態を恥じていた。
(ご友人の死を悼まれていたところに私が『勇者』に敗北を喫したのが、火に油を注いでしまった……)

 剣だ。
 剣があれば、勝てた――、否。

「得物のせいには致すまい。技量が至らなかった……私が未熟だった。それまでのこと」
 友達を名乗る少年からは、怪我を気にする見舞いの手紙が届いていた。
 何通も届くその中には、『勇者』が言ったように「貴方にふさわしい武器を贈りたいので、何処かでお会いできないか」という文言まであったけれど、フィニックスはそれに返事ができないでいた。
(あの時、あの殿下を弑し奉っていれば黒竜の加護はファーリズから失われていた……、シリル殿下の脅威をこの手で排除する事ができていた……)
 ――そんな想いが湧いてくるのだ。
(私には、できたのではないか――例え黒竜が守ろうとしても、それより速く、この剣でその守りを打ち破り、お命を頂く事が、できたのではないか)

「我が友ネクシ――彼のおかげで今の俺はある」
 『成り上がり』グリエルモは髪を結わえていたリボンをそっと手放した。
「ああ、何故逝ってしまったのか。俺は何故彼を守れなかったのか。悲しいではないかネクシ、寂しいではないかネクシ、悔やまれるではないかネクシ。この声すら、もう届かぬではないか……」
 その背を支えるように、彼の妻が寄り添っていた。
 
 風にひらりと飛ぶそれは、一瞬天にのぼるような気配をみせてから呆気なく落ちて、土に伏す。
 誰かの靴に引っ掛けられ、踏まれ、泥だらけになって、元の色すらわからぬようになっていく。
 
 ◇◇◇

 翌日――秘密結社ファーブラの秘密基地こと妖精猫カフェに人が増えていた。憂国の士エーリッヒことエリックが連れてきた新しい仲間だ。
「今日は学院を休んじゃったよ。人が一気に増えたしね」
 ソファで黄色、黄緑、赤とビビッドな色をしたゼリー入りドリンクを揺らして、エリックが笑っている。
「僕は、ミハイと『騎士王』で遊ぶことを通して親しくなれる気がする」
 クレイは満足気な顔でそう言って「坊ちゃん、ああいう遊びはいけません」と説教を垂れ流す呪術師レネンを連れてソファにおさまった。

「レネン、ミハイと僕はちょっと気が合うかもしれぬ」
 クレイは目を伏せて珈琲の入ったマグカップを揺らした。
「すなわち、人生は一度きり。死ぬまでの時間を有効に悔いなく」
『君、さては負債を返済するつもりがないね?』
 アスライトが不穏な声を響かせている。
「そんな事はないよ……? 一気に返済するよ。そうだ。アスライトにも星のリボンをつけてあげる。『アスライトの願いがかないますように』と願うからね」
 
 隅っこにはウェザー商会のルーファスも混ぜられていて、妖精猫カフェの買収証と改築見積書を見比べている。
「地下を作るのに先生の魔術の力もお借りしたいんです」
 ヘレナが頼めば、ヴァルターが頷いてくれた。視線をちらりと向ける先には、薄い本をのんびりと鑑賞するエイヴンがいる。

 エリックを暗殺しようと集っていた夜襲団は、身元を確かめられ、一部は気に入られたようでクレイの『昇格する歩兵プロモーション・ポーン』に勝手に加えられていた。

「さて僕は、憂国の士、エリック第二王子をお諫めする国家の忠臣である。僕は、そなたたちの主である」
 猫カフェのソファで猫を愛でながらクレイが黒竜を見せると、並ぶ暗殺者たちが目を剥いた。
「僕は、叡智を愛する黒竜アスライトの加護を持つ者である。僕は、アーサー王の妹ラーシャの子である」
 傍らでメイドのマナが相変わらずの妖精ガチャを繰り返していた。
「さて、僕には国を救う大義があり、守護竜もいる。名だたる諸氏諸卿、権門勢家アリクトラットは既に僕の支持を誓った」
 ぺらりと広げて見せるのは、家名の並ぶ紙であった。
「そなたたちは、これよりは在野の造反者でも国家への反逆者でもない。そなたたちは、黒竜アスライトの加護を賜りし王族公爵クレイの旗に集いし真なる忠臣の英雄である。救国の英傑である。英雄諸君は、僕がその正当性を保証する故、天下万民に恥じることも迷うことなく、僕の旗元にて存分に救国の剣を奮うがよい」
 
 ――剣を奮う機会があったらね、という言葉をこっそりと胸にしまいこんで。
(僕はこの人材たちをコレクションだけして飼い殺すぞ。争いなんて、望まぬのだ。争おうとする者たちを飼い殺しにして、お爺さまやビディヤに話し合いで解決してもらえれば最上である……、最上……なのだが……)
 
 にゃあ、みゃあと猫たちが和やかな声を添えて、壁際のエリックが「なかなかそれっぽいじゃないか」と労っている。
「エーリッヒは僕の一の騎士である」
「ん?」
 クレイがそう言ってエリックを招いた。
「何?」
「エーリッヒは僕の一の騎士である」
「ああ、うん。俺は騎士です」
 エリックが頷くと、友人からは残念そうな眼が注がれた。
「やる気がないな。もっと格好良い事言ってよ」
「そう言われてもなあ……」

 新生魔王軍の狼男、ファラオは狼尻尾をパタパタさせながらソファの影に隠れていた。
「人が増えている……」
 吸血鬼のミームが寄り添うようにして、賑わう空間を見守っている。ルルムはシンフォニーを抱っこしてすやすや昼寝していた。
 
「あれは、新生魔王軍じゃないのか?」
 気付いた新参者からはそんな声が囁かれるが、彼らが無害だとわかると徐々に放置されるようになっていった。

「私の爆弾もたんと備えておきましょうね」
 そわそわと微笑むダスティンに、入荷したてのエイヴンの好きなジャンルの本を手に取った主ネネツィカは首をかしげた。
「爆弾の出番はあるかしら……あの方々、基本は平和裏に事を収めたいようですから」
「なるほど。ですが、それは難しいでしょう」
「そうかしら」
 ティミオスに視線を向ければ、ティミオスは「わたくしはそういった事には詳しくございません」と微笑んでいる。
「シリル殿下はすでに、反ファーリズを表明なさり、アイザール元首の承認のもとで出兵まで決まりましたよ」
 ダスティンが耳打ちする。
「あら。お早い……」
「楽しそうになさってますが、お二人は結構、焦っていらっしゃると思いますね。エリック殿下はアーサー王とその臣下たちに『何もするな』とまで言われていてほとんど表だって何もできませんし、クレイ殿下は気が弱くてカードを切るのがあまりお上手ではなく、機先を逸しがち――何より、アーサー王と打ち合わせなしの噛み合わないダンスを踊るのでは、足の引っ張り合いにもなりかねません」
 ネネツィカはヘレナと目をあわせた。

「明日、……いいえ、今からでも、こっそりシリル殿下のところに行ってみましょうか?」
「そ、そうね。ユージェニーにも声をかけてみましょう」
 ちらりとティミオスを見れば、「妖精の穴を見つけて参りますね」と微笑んだ。
「最近は、妖精界も荒れがちでございますが。まあ、アイザールに行くくらいすぐでございます」
「お願いするわ」
 頷きつつ、ネネツィカはこっそりと「本当は、妖精の穴は見つけるのではなくティミオスが開けているのではないかしら」と思ったのだった。
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