竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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12、騎士王と雨月の冠

228、伯はその身を持って故国を守る盾となるように!

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 クレストフォレスでは、盟主であるレイスト・リアが白花纏う樹杖を手に、青硝子にエナメル彩と金の草花装飾の麗しい水瓶を覗き込んでいた。

 鏡のごとく澄む水面には、アイザール首都ウィネスの風景が映っている。

 反戦のプラカードを持った女性が連行されるのを背景に、元首ホアン・コラレスが幼い姉弟から花を受け取っている。拡声の魔道具が声を響かせていた。
「世論は操作されていて、真実と違う事がさも真実のように伝えられているんだ。噂されていることは、デマばかりだから信じてはいけないよ」
 優しい大人の目がそう言って、思いやり深く微笑んだ。
 10にも満たぬと思しき姉は大人びた表情で「おとうさんは、正義のためにたたかって、りっぱになくなりました。わたしは、お国のために命を賭けた父をほこりにおもっています」とおかあさんに書いてもらって何度も家で練習した文言を読む。
 姉と手をつないでいた弟は、その手をきゅっと握り唇を噛んだ。
「ぼくは、ほこりよりも家族みんながいっしょのほうがいい」
 ちいさく呟く声が拡声魔道具に拾われると、大人たちが駆け寄って魔道具を遠ざけた。
「おとうさんをかえして! かえしてよ!」
 姉が慌てた顔をして、厳しい顔をして自分たちを囲む大人たちから守るように弟を抱きしめた。抱きしめられた弟は「泣くもんか」というように真っ赤な眼で大人たちを反抗的に睨んでいた。
 
「……どちらもどちらでは?」
 レイスト・リアは冷めた顔をして『勇者』を振り返った。
「我々は、このような争いに関わりません」
「だよねえ。君たちはそうだよねえ。どろどろしてる人間たちの争いとか、きらいだもんねえ。バカらしいと思ってるよねえ」
 『勇者』ネヴァーフィールがウンウンと頷いている。
 白花纏う樹杖の先をその胸に向け、レイスト・リアが探るような眼を見せた。
「さて、闇墜ちでしたか……その概念は、正確には分かりませんが」
「いやいや、俺は無害な光の戦士だよ。光の勇者さんだよ」

 水瓶にはファーリズの風景も映っていた。
 レイスト・リアの目を意識しながら、ネヴァーフィールは見知った顔に瞬きをする。
 
 貴族たちが地図を広げた大テーブルを囲んで和やかに談笑している。
「集めた馬で競馬をするの? 面白い。僕も賭けてみたい。僕も馬が欲しい。僕は馬を好む……僕に馬をちょうだい。名前ももう考えてある。プネウマと」
 ハートモア侯爵と共に椅子で寛ぐ王甥クレイが膝に黒竜を遊ばせて、その背を撫でている。
「学院の友人、ミハイ皇子は帰国せず寮暮らしを続けているようなので、僕は心配です。学院もお休みになりますし……物騒な世の中ですもの、侯爵邸で保護してはいかが」
 そう話すクレイ本人も拠点は遠き北西の異国である。加護でひょっこりと顔を出しては帰っていくこの王甥はつい先日まで予告なく音信不通になっていたので、派閥貴族たちはたいそう心配していたものだった。
「クレイ様も、エインヘリアにおられては何時その身を害されるかわかったものではありません」
「ありがとう……僕が思うに、危険はあまりないようだけど」
 どこかおぼつかない瞳を見せて、少年はゆるゆると首を振った。
「僕の事より、他の事を優先してほしい」

「ユンク伯爵はそろそろ掲げる旗を変える頃合いと噂を耳にしましたが、果たしてどのような旗を掲げられるのでしょうね?」
 ルフォーク伯爵が南領の伯爵へと笑顔で話しかけ、エクノ男爵がワインを差し出して会話に加わっている。
「ユンク伯爵は講和を導く外交札として南領の一部をアイザールに差し上げたいと申し出ていらっしゃるとか」
 
 居心地の悪そうな顔色をするユンク伯爵を手招きして、王甥は首を振った。
「卿ら、ユンク伯爵をいじめてはならぬ。伯は兵力を北のリーン砦にと準備なされているのだ」
「北?」
 王甥は痛ましさに尊崇と信頼を織り交ぜたような眼差しでユンク伯爵を見つめた。
「伯のご子息、エインヘリア皇帝が北西より機を狙っている。伯は愛息の野心に誰より早く気付いてこれを牽制し、故国に牙剥くのをやめよと兼ねてより説得してくださっていたのだ。おかげで皇帝は余計な対外支援も控えるようになり、北西の巣でおとなしく内政に意識を注いでいるではないか」
 そうだったのか、と囁きが溢れて音の層がざわざわと成る。
(そうだったのか――いやいや、違うぞ。でも、そう言ってもらえると助かるなっ? 好いフォローですぞ、王甥殿下!)
 ユンク伯自身も全く同じ気分であった。アイザールに肩入れはしていたし、どうやら皇帝になったらしき愛息と連絡も取り合っていたが、伯は特に牽制も説得もしていない。どちらかといえば、『何かやりたいならパパは内容次第では手伝ってやるぞ、いっそファーリズも獲ってしまうか息子よ、いっちゃうか? 夢はでっかく大陸統一か? パパにもちょっと美味い汁吸わせてくれたりするのか? いやいや、もちろん冗談だぞ!』ぐらいのふざけ切った温度感でせっせと父子揃ってアイザール支援をしていた。リーン砦への準備に至っては何それ状態、全くの寝耳に水である。
 ちなみに息子からの返答といえば『いやいや、大陸統一なんて興味はないぞ! でもファーリズぐらいなら獲っちゃってもいいかな、もちろん冗談だが! ところで俺の恋人が可愛い』といったノリで、手紙が公となれば問題になること間違いない代物であった。

「しかし、伯のご子息はやんちゃで火遊びが大好きなご様子……、たいそう女好きでも有名で。下手に最上の位に成り上がり、なまじ明晰にして機敏でおられるゆえ、油断がならぬ。そこで伯はその身を持って故国を守る盾とならんと決意なされた……父として愛息に祖国攻めの汚名は決して負わせまいと」
 王甥はじゃっかん私怨めいたものを漂わせながら嘆かわしいとばかりに言葉を紡いだ。
(まるで自分ではない誰か他人の話を聞いているようだ……っ、ところで女好きは関係ないのでは? 殿下?)
 抑揚豊かに切々と語る王甥の言葉に、ユンク伯は返す言葉を失って微妙な笑顔をキープした。
(だが、アイザールと通じ合い、故国に敵を引き入れようとした罪も、息子にちょっと過激な冗句を送ったのも見逃してくれそうではないか。王甥殿下は庇ってくださるのだ)
 この王甥は学院入学より息子オスカーと親しき仲にて、ユンク伯に厚意を向けてくれるのだ。やはり良好な関係は作っておくものである――ユンク伯はしめしめと笑んだ。

「夫人までもを伴い、領地は代官に任せてユンク家はリーン砦に拠点を移すと。南下するなら先に家族を悉く殺してから行けと叫ぶ心積りだとおっしゃる。愛息が祖国に叛く汚名着るときは責任持つは父であり母である、一族連座にて罪を被ると。……ああ、なんと見事な愛国心、なんと哀しき父であろう……」
(おお、殿下、物騒なことを仰る。責任やら連座やら……うちの子は家を出てもはや我が家と関係ありませんと今から主張したら許してくれるだろうか? だめそうだな?)
 はらはらとするユンク伯の視線の先で、陶酔するように語る王甥はいとけなくその手を伸ばしてユンク伯の頬に当てた。
「ええと……我が家まるごと、リーン砦に?」
 問えば、うんうんと頷く王甥の顔が悲しげだった。
「ああ、なんてお覚悟でしょう。なんという頑なな決意。僕にはこの立派な方をお止めできません……どうか、ご無事で。あなた方一家の国家への献身と忠誠ぶりは、後世まで語り継がれる事でしょう」

(まるで死ぬのが決まったように仰るではないかぁ……!)
 ユンク伯は額に汗を滲ませた。
「いえいえ~殿下、そのような事態にはなりませんとも。エインヘリアが兵を向けるなんてあり得ませんから」
「うん、うん。ご家族が盾となり、食い止めるのだもの。頼もしいね……皆、この伯の献身を見よ、……ここに救国の盾ぞある! 熱き愛国の血や勇ましき鼓動を刻み、篤き父の情ぞ我らが頼もしき盾とならん」
 
 周囲を見れば、何故か派閥貴族たちはこぞって手を叩き「皆で送り出そう」などほざいている。中には絶対面白がってるだろうとしか思えない者まで。
「スバラシイ」
「ユンク伯は、やってくれると思っていました」
「その貴き犠牲に乾杯……!」
 全く趣味の悪い、ふざけたショーとしかユンク伯には思えなかった。
 
 王甥はそんなユンク伯を心配するように見つめて、おっとりと言葉を締めくくった。
「冬は寒いから、寒くなる前に戦争が終わると好いね。ユンク夫人は南の出身なので、僕は特に心配をしています。――そうそう、僕は、終戦の暁には、ユンク伯の領をアイザールにあげるのではなく、アイザールの土地をユンク伯に賜れば良いと思うの。たいへんなお仕事をするのだもの。スローライフに適した長閑な土地がよいね……派閥の皆の連名にてビディヤを通し、アーサー王に上奏して貰おう」

 確かなことは、ひとつ。
 一家はリーン砦に行く――それはもはや決定事項のようだった。
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