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12、騎士王と雨月の冠
229、チェックとチェックメイト、築城、竜殺し
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戦争には関わらず、人の思惑の交差を見守るような東方クレストフォレス。
『勇者』ネヴァーフィールは、そこにいた。
「レイスト・リア……」
『勇者』ネヴァーフィールは水瓶に映る南西の前線にそわそわと声を紡ぐ。
「この身に刻まれた本質が、魂が俺を落ち着かなくさせるんだ。それを消すか、俺を前線に行かせるか、どちらかを頼むよ」
ああ、友人の魔術師ヴァルターが何故か前線で杖を振るっているではないか。
「お前、お前……何やってんだ。『俺が傍にいないのに』なんでそんな危ないところにいるんだ」
敵の射手が友に狙いを定めているではないか。
「お前……っ、避けろ! 馬鹿……!」
思わず声がこぼれる。ああ、聞こえやしないってのに!
放たれし矢が蒼天に鏃を光らせ、その身に迫る。幾筋も、何本も。
「っ、だめだ!」
水瓶に手を伸ばそうとして、妖精の杖にそれを邪魔される。視線の先の遠い戦地の光景が、スローモーションのように流れる――、ネヴァーフィールが最悪の想定に身を固くした、その時。
「あ……っ?」
映像がパッと華やかで幻想的な光に染まり、矢が弾かれた。映像のヴァルターが大きく目を見張る。ふわふわと漂う妖精たちがそこにいた。
「妖精学校の生徒たちか……何故ここに?」
奔放で悪戯好きな妖精たち、ヴァルターが日々人との友好を説く生徒たちがそこにいた。先生を助けに来たのだと、そう羽を震わせ、光を巻いて、煌然と。
「は……っ、」
ネヴァーフィールは脱力したように息を吐き、目を閉じた。
「よ……、よかった」
よかった。
よかった!
あの友人が目の前で傷付かなくてよかった……!!
そう安堵すると同時に、どうしようもなく暗い感情が胸に躍る。
――何もできなかった……。
『勇者』は熱に浮かされたように目を開けた。
「俺は『勇者』だ。特別なんだ。ヒーローなんだ。ここぞという場面で絶対俺が活躍するんだ、それが約束されたのが俺なんだ……」
そうではないか。
ずっと、そうだったじゃないか。
なのに、今俺は――その舞台にのぼることもかなわず、見ているだけ?
メインキャラクターディレクターの荒木 椋が、シナリオディレクターの吉田 博宙が、神々が、嘗てはネヴァーフィールを主人公だと定めていたのに。ネヴァーフィールを中心に世界は廻っていたと言っても過言ではないのに。それなのに。
「っ!? これは……? 敵に囲まれて……っ! 殿下、お下がりください。いつの間に、こんなに……っ」
映像の中、『鮮血』の二つ名を持つ騎士フィニックスがふらふらしている。血走った目で何かに取り憑かれたように周囲に何かを口走り、剣を暴れさせている。
「殿下、どちらに行かれましたか!? 私がお助け申し上げます、殿下!!」
「フィニックス、何をしている!? フィニックス、落ち着きなさい、私だ! 私はここにいるではないか!」
凍てる白銀の髪を汗に濡らして、騎士の主人であるシリルが声をかけてその正気を取り戻そうと肩を押さえ込もうとし――暴虐の白刃が翻る。切っ先があっさりと防備を破り、その下の肉を裂く。骨を断つ。驚愕の表情が苦痛に歪む。シリルがよろめき、傷をおさえて倒れ込む。
「あ――」
己が刃に倒れる主君を目の当たりにして、赤毛の青年がハッと荒ぶる動きを静止した。正気にかえった翠の瞳が恐ろしい光景に見開かれる。
「――わ、私は今何を……シリル様!!」
青年の悲痛な声が、覆らぬ現実に震えた。
「私が……、今。私は今、なんという事を。これは――こんな!!」
「あ……」
映像が変わる。
勇者の剣を手足の如く扱いこなし、勇気の象徴であるかのようにきらきらと仲間を鼓舞する仮面の騎士少年――エーリッヒこと、エリックの姿が水瓶にゆらゆらと揺れる――否、水瓶の水面は揺らぎひとつなく平らかで、映像は乱れていない。
「レイスト・リア。俺、前線に行かなきゃ。俺が行かないと……俺がハッピーエンドをもぎ取らないと……」
揺れているのは、ネヴァーフィールだ。
その少年のような老人のような目だ。
長き時に摩耗した、その心だ。
「『勇者』はあそこにいるではありませんか」
レイスト・リアが静かな声で胸を突く。玲瓏とした声で、それを突き付ける。
「貴方の凶刃からこの身を守った人の英雄も、とうに亡くなり、人々の物語にて語り継がれています。……ネヴァーフィール、貴方とて、もう過去の存在ではありませんか? それで良いのではありませんか?」
映像の戦場が時を倍速にでもしたように昼と夜を繰り返して、時間感覚が怪しくなる。
青の後に黒に近い藍色が過ぎて、水色の後に紫紺が。水縹の後に金青。
空とは青々とした彩ばかりかと思いきや、思い出したように一瞬のドラマチックな夕焼け夕日、朝焼けが挟まれて、自然はネヴァーフィールにその美しさと多様な彩をたっぷりとアピールするのだった。
冬に向かう世界の、寒々とした空の下。
「ようやくフィニックスが言うこときいたか」
アイザールの旗元にて、グリエルモが汗を拭っている。太陽は中天に輝き、世界は日の光に明るく照らされて――ふとそこに影が差し、幾人もが空を見上げて何事かを口にする。
前線の空にそれが現れて、地上で膠着していた人間たちが天を仰ぐ。
負傷し、横たわっていた者も。今わの際で喘鳴に弱弱しい命の燈火を思わせていた者も。
剣を手入れしていた者も。スープを作っていた者も。今後の方針について話し合っていた者も。家族からの手紙に涙ぐんでいた者も。
空に座すそれは、竜だった。
ファーリズを守護する事で知られる、神の如きちからを持つ守護竜だった。
歴史上に何度も名を刻みし白き竜ティーリーではなかった。
それは、滅多に人の世に関わらぬ、厭世の気を濃く漂わせる黒竜アスライトだった。
空より、少年の声が降り注ぐ。
その時、その言葉はアイザール語で紡がれたのだと後世の歴史書には記されている。
「創造神――メインプログラマー、畑 秀の加護ぞある。ここに権限を持つ管理者、黒竜アスライトがいる」
黒竜の背より声を響かせるのは、ファーリズの王甥であった。
「指し手――今は亡きルカ皇子に、僕はチェックを申し上げる。大陸史は本日、これよりの終戦を一行にて語るであろう。『黒竜の加護が国境を守る』……ただ一言、そのように」
その言葉に応えるように、アイザールとファーリズの国境に突如として物理的な壁めいた長城がせり上がる。
「この長城を越えるには、相手国を害そうという心、侵略の意思を捨てねばならぬ。アスライトはそう設定をした」
神の如き声が、そう宣言した。
(なんだこれは。まさにチートではないか)
小賢しく、小生意気で、高慢な声だ――グリエルモは、そう思った。
ファーリズの王甥はグリエルモの名を呼び、おっとりと声を紡いでいる。詩吟でもするように、この場を支配するのは自分だとでもいうように。
飢えたこともないであろう、剣を握ったことすらなさそうな、戦場に近付くことさえ嫌がりそうな、そんな少年の姿がちらりと見えた。
生まれながらに人の上に立つ身分として躾され、そのように振る舞えと仕込まれたであろう特有の温度で、言葉が降ってくる。響いている。
「ああ、『成り上がり』グリエルモ。僕には貴方の哀しみがわかります。僕は、友人を亡くす哀しみを知る――僕は貴方に真実をお伝えしたい。そして、欲するものも差し上げたい。南海の妖精と絆を結ぶつてを、僕は用意しています。暴力とは、やはり最終手段であるべきもの――亡き指し手の棋譜などお捨てになって、友となりましょう」
黒竜が高度を下げて降りてくる。
グリエルモは友好的に手を振った。親戚の子にそうするかのように、親し気に。
「おお、クレイ殿下。ようこそようこそ、この前線へ! グリエルモはここにいるぞ」
「……グリエルモ殿」
表情が見える距離にて、王甥は友好的に微笑んだ。
「ようこそ――俺の間合いへ」
グリエルモは軽やかに気負わぬ風で地を蹴った。
抜く剣は嘗て南のアイザール地方を根城にしていた古妖精を討伐したいわくつき、強靭にして鋭利、人外相手を想定に創られし神々の遊び心の産物、遺物――銘は、『妖精狩り』。
(今日よりは『竜殺し』と名を変えようか)
意気揚々と振るわれるその刃は、陽光を反射してぎらりとした。
「そして俺も申そうか! ファーリズの『ラーシャの御子』とやら――俺はチェックメイトと申し上げる!」
その切っ先は達人の技量にて、竜鱗を削る。
恐るべき膂力と『妖精狩り』の鋭き刃が鱗を突破し、その下の筋肉を断つ。血飛沫をあげ、尋常ならざる竜の悲鳴をあげ、その翼を蹴って空中にて全身まるごと方向転換するようにくるりと廻るグリエルモが落下する竜の背に奔らせる刃が風を巻き直線軌道をひた走る。
――白竜の封印にまつわる噂通り、やはり竜とは斬れる生き物である!
「黒竜と『ラーシャの御子』の御命、このグリエルモが頂く!」
グリエルモは勝利を確信し、無防備な王甥に殺意を奔らせた。
刃が届く――手応えと共に、新たな人の血潮が空中に飛び散った。
「おっと!?」
手応えに喜びかけたグリエルモが、思い違いに舌打ちをする。
虚空から滑り出たように竜の背に跳び乗った黒ローブの呪術師が寸前で剣の切っ先に身を晒し、王甥を庇い守っていた。
耳を劈く痛々しい悲鳴をあげたまま、黒竜がその姿を背の人物ごと消して掻き消える。
――時を同じくして、ファーリズの王立学院には次々と他国からの兵が姿を現していた。
『勇者』ネヴァーフィールは、そこにいた。
「レイスト・リア……」
『勇者』ネヴァーフィールは水瓶に映る南西の前線にそわそわと声を紡ぐ。
「この身に刻まれた本質が、魂が俺を落ち着かなくさせるんだ。それを消すか、俺を前線に行かせるか、どちらかを頼むよ」
ああ、友人の魔術師ヴァルターが何故か前線で杖を振るっているではないか。
「お前、お前……何やってんだ。『俺が傍にいないのに』なんでそんな危ないところにいるんだ」
敵の射手が友に狙いを定めているではないか。
「お前……っ、避けろ! 馬鹿……!」
思わず声がこぼれる。ああ、聞こえやしないってのに!
放たれし矢が蒼天に鏃を光らせ、その身に迫る。幾筋も、何本も。
「っ、だめだ!」
水瓶に手を伸ばそうとして、妖精の杖にそれを邪魔される。視線の先の遠い戦地の光景が、スローモーションのように流れる――、ネヴァーフィールが最悪の想定に身を固くした、その時。
「あ……っ?」
映像がパッと華やかで幻想的な光に染まり、矢が弾かれた。映像のヴァルターが大きく目を見張る。ふわふわと漂う妖精たちがそこにいた。
「妖精学校の生徒たちか……何故ここに?」
奔放で悪戯好きな妖精たち、ヴァルターが日々人との友好を説く生徒たちがそこにいた。先生を助けに来たのだと、そう羽を震わせ、光を巻いて、煌然と。
「は……っ、」
ネヴァーフィールは脱力したように息を吐き、目を閉じた。
「よ……、よかった」
よかった。
よかった!
あの友人が目の前で傷付かなくてよかった……!!
そう安堵すると同時に、どうしようもなく暗い感情が胸に躍る。
――何もできなかった……。
『勇者』は熱に浮かされたように目を開けた。
「俺は『勇者』だ。特別なんだ。ヒーローなんだ。ここぞという場面で絶対俺が活躍するんだ、それが約束されたのが俺なんだ……」
そうではないか。
ずっと、そうだったじゃないか。
なのに、今俺は――その舞台にのぼることもかなわず、見ているだけ?
メインキャラクターディレクターの荒木 椋が、シナリオディレクターの吉田 博宙が、神々が、嘗てはネヴァーフィールを主人公だと定めていたのに。ネヴァーフィールを中心に世界は廻っていたと言っても過言ではないのに。それなのに。
「っ!? これは……? 敵に囲まれて……っ! 殿下、お下がりください。いつの間に、こんなに……っ」
映像の中、『鮮血』の二つ名を持つ騎士フィニックスがふらふらしている。血走った目で何かに取り憑かれたように周囲に何かを口走り、剣を暴れさせている。
「殿下、どちらに行かれましたか!? 私がお助け申し上げます、殿下!!」
「フィニックス、何をしている!? フィニックス、落ち着きなさい、私だ! 私はここにいるではないか!」
凍てる白銀の髪を汗に濡らして、騎士の主人であるシリルが声をかけてその正気を取り戻そうと肩を押さえ込もうとし――暴虐の白刃が翻る。切っ先があっさりと防備を破り、その下の肉を裂く。骨を断つ。驚愕の表情が苦痛に歪む。シリルがよろめき、傷をおさえて倒れ込む。
「あ――」
己が刃に倒れる主君を目の当たりにして、赤毛の青年がハッと荒ぶる動きを静止した。正気にかえった翠の瞳が恐ろしい光景に見開かれる。
「――わ、私は今何を……シリル様!!」
青年の悲痛な声が、覆らぬ現実に震えた。
「私が……、今。私は今、なんという事を。これは――こんな!!」
「あ……」
映像が変わる。
勇者の剣を手足の如く扱いこなし、勇気の象徴であるかのようにきらきらと仲間を鼓舞する仮面の騎士少年――エーリッヒこと、エリックの姿が水瓶にゆらゆらと揺れる――否、水瓶の水面は揺らぎひとつなく平らかで、映像は乱れていない。
「レイスト・リア。俺、前線に行かなきゃ。俺が行かないと……俺がハッピーエンドをもぎ取らないと……」
揺れているのは、ネヴァーフィールだ。
その少年のような老人のような目だ。
長き時に摩耗した、その心だ。
「『勇者』はあそこにいるではありませんか」
レイスト・リアが静かな声で胸を突く。玲瓏とした声で、それを突き付ける。
「貴方の凶刃からこの身を守った人の英雄も、とうに亡くなり、人々の物語にて語り継がれています。……ネヴァーフィール、貴方とて、もう過去の存在ではありませんか? それで良いのではありませんか?」
映像の戦場が時を倍速にでもしたように昼と夜を繰り返して、時間感覚が怪しくなる。
青の後に黒に近い藍色が過ぎて、水色の後に紫紺が。水縹の後に金青。
空とは青々とした彩ばかりかと思いきや、思い出したように一瞬のドラマチックな夕焼け夕日、朝焼けが挟まれて、自然はネヴァーフィールにその美しさと多様な彩をたっぷりとアピールするのだった。
冬に向かう世界の、寒々とした空の下。
「ようやくフィニックスが言うこときいたか」
アイザールの旗元にて、グリエルモが汗を拭っている。太陽は中天に輝き、世界は日の光に明るく照らされて――ふとそこに影が差し、幾人もが空を見上げて何事かを口にする。
前線の空にそれが現れて、地上で膠着していた人間たちが天を仰ぐ。
負傷し、横たわっていた者も。今わの際で喘鳴に弱弱しい命の燈火を思わせていた者も。
剣を手入れしていた者も。スープを作っていた者も。今後の方針について話し合っていた者も。家族からの手紙に涙ぐんでいた者も。
空に座すそれは、竜だった。
ファーリズを守護する事で知られる、神の如きちからを持つ守護竜だった。
歴史上に何度も名を刻みし白き竜ティーリーではなかった。
それは、滅多に人の世に関わらぬ、厭世の気を濃く漂わせる黒竜アスライトだった。
空より、少年の声が降り注ぐ。
その時、その言葉はアイザール語で紡がれたのだと後世の歴史書には記されている。
「創造神――メインプログラマー、畑 秀の加護ぞある。ここに権限を持つ管理者、黒竜アスライトがいる」
黒竜の背より声を響かせるのは、ファーリズの王甥であった。
「指し手――今は亡きルカ皇子に、僕はチェックを申し上げる。大陸史は本日、これよりの終戦を一行にて語るであろう。『黒竜の加護が国境を守る』……ただ一言、そのように」
その言葉に応えるように、アイザールとファーリズの国境に突如として物理的な壁めいた長城がせり上がる。
「この長城を越えるには、相手国を害そうという心、侵略の意思を捨てねばならぬ。アスライトはそう設定をした」
神の如き声が、そう宣言した。
(なんだこれは。まさにチートではないか)
小賢しく、小生意気で、高慢な声だ――グリエルモは、そう思った。
ファーリズの王甥はグリエルモの名を呼び、おっとりと声を紡いでいる。詩吟でもするように、この場を支配するのは自分だとでもいうように。
飢えたこともないであろう、剣を握ったことすらなさそうな、戦場に近付くことさえ嫌がりそうな、そんな少年の姿がちらりと見えた。
生まれながらに人の上に立つ身分として躾され、そのように振る舞えと仕込まれたであろう特有の温度で、言葉が降ってくる。響いている。
「ああ、『成り上がり』グリエルモ。僕には貴方の哀しみがわかります。僕は、友人を亡くす哀しみを知る――僕は貴方に真実をお伝えしたい。そして、欲するものも差し上げたい。南海の妖精と絆を結ぶつてを、僕は用意しています。暴力とは、やはり最終手段であるべきもの――亡き指し手の棋譜などお捨てになって、友となりましょう」
黒竜が高度を下げて降りてくる。
グリエルモは友好的に手を振った。親戚の子にそうするかのように、親し気に。
「おお、クレイ殿下。ようこそようこそ、この前線へ! グリエルモはここにいるぞ」
「……グリエルモ殿」
表情が見える距離にて、王甥は友好的に微笑んだ。
「ようこそ――俺の間合いへ」
グリエルモは軽やかに気負わぬ風で地を蹴った。
抜く剣は嘗て南のアイザール地方を根城にしていた古妖精を討伐したいわくつき、強靭にして鋭利、人外相手を想定に創られし神々の遊び心の産物、遺物――銘は、『妖精狩り』。
(今日よりは『竜殺し』と名を変えようか)
意気揚々と振るわれるその刃は、陽光を反射してぎらりとした。
「そして俺も申そうか! ファーリズの『ラーシャの御子』とやら――俺はチェックメイトと申し上げる!」
その切っ先は達人の技量にて、竜鱗を削る。
恐るべき膂力と『妖精狩り』の鋭き刃が鱗を突破し、その下の筋肉を断つ。血飛沫をあげ、尋常ならざる竜の悲鳴をあげ、その翼を蹴って空中にて全身まるごと方向転換するようにくるりと廻るグリエルモが落下する竜の背に奔らせる刃が風を巻き直線軌道をひた走る。
――白竜の封印にまつわる噂通り、やはり竜とは斬れる生き物である!
「黒竜と『ラーシャの御子』の御命、このグリエルモが頂く!」
グリエルモは勝利を確信し、無防備な王甥に殺意を奔らせた。
刃が届く――手応えと共に、新たな人の血潮が空中に飛び散った。
「おっと!?」
手応えに喜びかけたグリエルモが、思い違いに舌打ちをする。
虚空から滑り出たように竜の背に跳び乗った黒ローブの呪術師が寸前で剣の切っ先に身を晒し、王甥を庇い守っていた。
耳を劈く痛々しい悲鳴をあげたまま、黒竜がその姿を背の人物ごと消して掻き消える。
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