竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

文字の大きさ
239 / 260
12、騎士王と雨月の冠

231、敗者の血、易姓に誘われ

しおりを挟む
 アーサー王が鎮座する玉座を前に、王甥クレイが膝をつく。赤絨毯が血混じりの泥で汚れると、こんな状況なのに「汚してしまった」という後ろめたさみたいなものが湧くのを自覚しながら。
 アーサー王はエリックやシリル、あるいはラーシャとの血のつながりを濃く感じさせる白銀の髪をしている。
「卿は……血塗れのようだが、怪我はしていないのか」
 微妙に気の弱そうな風情で、王が呼びかける。無事を伝えれば、安心したようだった。
 玉座から立ち上がり、甥に近寄る気配は控えめな歩み寄りを見せていた。
「公子は……」
 線引きめいて言葉を零し、王はすぐ傍に膝をついた。
 顔を伏せたままの甥の胸中には、その一言で誘われるようにして殺意めいた情念が湧いた。

(線引きをなさいましたね、アーサー王陛下。僕は貴族だと、その身分を忘れるなと仰るのですね)
 ざわざわと足元からせり上がり、腰から腹から沸騰するような思いが全身に巡るようだった。握った手の指先が白くなる。
 
(思えば、思えば。ラーシャ姫だけではない。果たして過去にコルトリッセン覆らぬ白の臣の血でどれだけ、継承争いの種となった王族の血が封じられてきたことだろう。王族にとってなんと便利で都合の良い家だろう、我が公爵家は……)
 目の奥が熱くなる。

 ――この身に流れる血というのは、過去に封じられた無数の『敗者』、継承争いや権力争いにて犠牲となった王族たちの血なのではないか。
(全ての婚姻がそうとは思わぬが……)
 ふとこの瞬間に思い出すのは、黒竜の夢、あるいは春の夢に見かけたミハイであった。

(道理も何も、知ったものか。殺してしまえば、それで『ざまぁ』なのではない? やられる方が悪いんだ。勝負に敗れるほうが悪いんだ。勝った方が正義なんだ。情報なんて、いくらでも操作できる。歴史書に書く文言だって、いくらでも都合の良い事実を偽れるんだ)

 ――ああ、ここに誘惑がある。

 コルトリッセン覆らぬ白の臣の血は王を裏切るなと訴えかけるようで、同時に恨みを駆り立てるのだ。
 封じられた王族たちの血が騒ぐのだ。

(覆してやってはどうか。先祖代々、積もりし恨みの力にて、覆らぬ白の血を覆して、このクレイがコルトリッセンの謀叛を歴史に刻んではどうか。易姓革命と洒落込んではどうか)
 そんな誘惑が甘やかに胸に芽吹こうとするようで、ぞくぞくと背筋を駆け巡り殺意の衝動を呼び起こして止まらぬのだ。

 王はそんな内心を知らず、傍にしゃがみこんだ。
「我が甥、クレイは……黒竜の王子は、加護の行使は可能だろうか。黒竜は負傷したときくが」
 弾かれたように顔をあげるのは、驚いたからだ。すると、しゃがみこんだ王がまっすぐにその青い目を見せている。同じ視線の高さで、親戚の温度感で。
 勝手に顔をあげてぶしつけに目を合わせても咎める事はなく、エリックによく似た空気を纏って、自分から視線を低めて。
 ――この時王甥は間違いなく、意表を突かれたのだった。

(あっ……)
 この王が、僕を「甥」と呼んだ。
 王が、僕を「黒竜の王子」と呼んだ。

 新鮮な風が吹き抜けたような心地がして、クレイは瞬きをした。

 ――この王は、エリックに似ている。
 それがムカつくようでいて、不思議とどうしようもない親愛の情を招くのだ。
(だから、何。なんだというの)
 そんなのでこの殺意を流してなるものか。この憤りを、恨みを手放してなるものか。そうではないか、……そうではないのだろうか?
(けれど、この王を殺してどうするの)
 次はエリックを殺すのか。
 そして自分が王になるのか。
 ――そんな未来を望むというのだろうか。自分は。
(すっきりして、ざまぁして、気持ちよくなって――その先は? 僕は、その後の人生も生きるんだ。僕は、王になりたいわけではない……アーサー王に親愛を抱く臣下や王妃たち、その子ら、エリックやその恋人や友人たち……この治世に生きる民たちに、果たして何を語るの。どんな未来を描いて見せるというの)

「アーサー王陛下、恐れながら……アスライトは防衛のための加護を紡ぐ余力はないものと思われます。呪術とは、大がかりなものほど神経を使いますし、紡ぐ時間もかかるではありませんか……アスライトは、国境の長城の構築にもかなり苦心していたように思うのです。準備に時間をかけていました。あまり大きな声で申せませんが、偉大な奇跡を一朝一夕にとは、参らぬのです」
「そうか、そうだな。『君、呪術プログラミングが得意だね。ちょっと5分でさくっとやっちゃって』とは、なかなかいかんな」
 くだけた口調で言ってアーサー王は笑った。
「で、……ですが、ですが……、僕の呪術師、僕のレネンが、時間をかけて設置式の呪術罠を編みました」
 クレイは呪術編みを取り出して見せた。

「我が軍の防衛戦力は国境に多くを割き、この危機に引き返すには時間の制約が厳しいように思われます。ですが、王国の次代を担う若き太陽、陛下の第二王子エリック殿下には幸か不幸か魔王のちからがあるのです。殿下は前線からかなりの速度で引き返してこられるものと、僕は思うのです。また、当国と友好関係にある古妖精デミル・マジェスも今は離れていますが、異変に気付けば、自領域へ『光の』フェアグリンが他国勢を引き入れる悪戯について、妖精界側から対応してくれるのではないかと」
 言いながらちょっとだけ呼びかけに迷う。
 ――『叔父上』と呼んでも、今のこの気配なら咎められない気がするのだ。

「お……叔父上」
 そっと声を紡げば、叔父は頷いた。頷いてくれた。
 
「聞いた限り、城に向かう敵国の兵はそれほど多くありません。妖精界への帰還路を塞がれれば退路もなく、補給も何もない。『鮮血』の超人的な強さを頼みとした、迅速に短期間で決着を期す強引な電撃作戦と言えましょう。ならば叔父上……、この罠で『鮮血』を止めましょう。一騎当千の『鮮血』を抑え、第二王子エリック殿下にお戻り頂いてその超然とした能力を発揮して頂けば、あとはセト・バード卿の堅い防衛指揮にて急場をしのぎつつ、国境から引き返す戦力との挟撃にて浮いた攻め手を掃除して、終わりです」
 
 ――毒気が抜かれていく。
 ああ、安心するような悔しいような、この感覚はなんだろう。

 血だ。
 刷り込まれ、そうあれと叩き込まれた性質だ。
 性分ともいえるだろうか――、

(祖国の危機ではないか)
「『鮮血』を誘い込む役は、僕が最適と言えましょう。お任せくださいますよう」
 クレイは気を落ち着かせるよう息を紡いで、王に微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。 

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

処理中です...