竜と王冠のサクリファイス~乙女ゲームの攻略キャラたちがお互いを攻略して王都炎上?

浅草ゆうひ

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12、騎士王と雨月の冠

232、メインキャラクターディレクターは気分屋でさ

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 カビのような、苔のような、埃のような、古めかしい匂いがする。
 肌はじっとりとして、汗ばんでいた。
 古妖精レイスト・リアの魔法の水瓶に遠き地の戦乱を見る『勇者』ネヴァーフィールが、呻くように言葉を捻り出していた。
「じっとしてられないんだ」
 橙色の瞳は、現在時間と其処に居る自分という存在に縋るようだった。

「そう創られたから。……ちがう、それだけじゃ、ない」
 ネヴァーフィールは、聖女から聞いたという話――神々の話を語る教え子の声を思い出した。
「創造の神、メインキャラクターディレクターの荒木 椋って奴はさ、なんでもOKって言うんだよな。そんで、後からやっぱNGって言うんだ。ころころ気分が変わるのかね。ははっ、俺もレイストも、そんな同じ親を持つ……」
 変わるんだ、人間って生き物は。その心は。
(荒木 椋は、俺を人間として創った。人外じゃなく)
「生徒たちがいるんだ。俺は、ただの先生でも、いい。近くにいる奴を守りたい、一緒に戦いたい。できることをしたい、それだけなんだ」
 それは勇者の原点だった。
 ――ネヴァーフィールは、今それを思い出した。
「俺、確かにちょっと前までは『早くこんなクソゲー終わってくれ、解放されたい』なんて思ってたけど、今はクソゲーも悪くないって思ってるんだ」
 
 ふわりと微睡むような場違いに穏やかな声が空間に差し込まれたのは、その時だった。
「先生は、過去ではありません」
「あ……」
 口を挟んだのは、戦乱の空気におよそお呼びでないといった類の不思議なゆるさを醸し出すラーフルトンの娘だった。春妖精の、ワイストンの子孫だった。
(おお。ラーフルトン君……)
 澄んだ青い瞳が、初めて会った時より地に足がついた感じでレイスト・リアに向かい合っている。
「まだ、過去になりません」
 少女は、すこしだけ人間のお姉さんといった成長度合いを醸し出しつつ、春妖精の柔らかな気配と、不思議な迷子みたいな雰囲気を混ぜ合わせていた。
(ラーフルトン君は、不思議な子だなあ。先生、ワイストン関係なしに君を特別に感じる。そんな何かがあるんだねえ。何だろうなあ)
 魔法も使えるし。
 変なゴーレムも……ほんわかとネヴァーフィールが考えを巡らせていると、まさにそのゴーレムが唐突に呼ばれて飛び出てネヴァーフィールを抱え上げた。
「お、おおおっ!? 突然だな!?」
「お邪魔します」
 よじよじとダスティンがのぼってきて、ゴーレムの手のひらに座り込んだ。
「ダスティンがディドさんに話を通したと言ってくれましたわ。わたくしたちは、そろそろお暇します。また遊びにきますね」
 ラーフルトンの娘がそう言って、妖精の穴にゴーレムと共に飛び込む。レイスト・リアは特にそれを止めることなく見送って春の残滓にゆるりと首を傾げ、ディドを呼び出して話を聞くのだった。

 妖精界に降りたゴーレムは、ふわりと淡い光に全身を包まれた。
「おおっ。なんだ。進化でもするのかい」
 ネヴァーフィールがびっくりしてそれを見守る中、ゴーレムのゴレ男くんはサイズはそのまま、人間たちを手のひらに乗せたまま、人間の男によく似た姿に代わっていきながら、ずしんずしんと妖精界に歩を進めた。肌は黄色人種のもので、年齢は40付近だろうか。髪と目は黒く、ネヴァーフィールに親しみのある色だった。
「ゴレ男くん、人間みたいになったねえ……」
 ネヴァーフィールはふにゃふにゃした笑顔でうんうんと頷いた。ゴーレムもこのお嬢様も、もうなんかよくわからないが、要はネヴァーフィールを連れ出してくれたのだ。
「ありがとねえ。先生嬉しい。先生助かったよ」 
 
 ファーリズ地方の妖精界では、幻想馬車が幾つか人間界に移ろうとしていた。

「あれらにはアイザール兵が乗っています」
 ダスティンがそう告げて、挨拶代わりとばかりに爆弾を高く投げた。
 放物線を描いて落下するそれが爆発するのに合わせて、ネヴァーフィールが飛び降りて笑う。

「先生、武器がないや。ひのきの棒くらい欲しかったな! ――ああ、敵から奪えばいいのか」
 馬車からまろび出た兵たちが得物を手に隊列をつくり、妨害者に敵意を剥く。

「ここを防ぐのを、我々の仕事としましょうか……あの時、拾ってもらった命はすこしは役に立てたでしょうか」
 『お嬢様』を守るように傍に控えつつ、ダスティンがそっと呟いた。
「終わったら改めて自首しようと思います」
「……そうなの?」
 海色の髪が揺れる。
 青年は柔らかに微笑み、上空に眉を寄せた。同時にゴーレムが腕を上にあげ、何かを受け止めるようにしてその全身を揺らした。

「……あれは、幻想馬車を支援する古妖精でしょうか」
 オパールめいた遊色の燐光がちらちらと神秘的にその存在感を強めて、美しい小さな古妖精が上空からネヴァーフィールとゴーレムを狙い、光の槍を降らせている。
 ゴーレムの腕が砕けて、人膚を装っていた岩肌が露出する。
 人間ごっこが束の間の夢の如く、岩がぱらぱらと砕けて落ちていく。崩れていく。

「あ、ああ……」
 少女がゴーレムの手のひらにしがみついた。
「ぱ……パパ……」

 ダスティンが眉をあげる。
 お嬢様は、壊れゆく岩人、巨人が悲しくて堪らないといった様子で首を振った。春色の髪をゆらした。

「大丈夫だよ」
 ふんわりと少年の声が挟まれたのは、その時だった。

 少年はふわりふわりと上空を飛翔して、古妖精に体当たりするように光佩く剣を奮った。勇気に輝く、その剣を。
「俺が守るから、もう怖くないよ……っ!」
 尻尾がひょこりと揺れる。
 その様子には、奇妙な愛嬌があった。
「なにせ……俺はヒーローだもの!」
 特有のきらきらした様子で笑い、仮面を外してエリックが笑う。

「フェアグリン、ここは冬の妖精王の領域だ。遊びにきてくれるのは俺個人は歓迎なのだが、悪戯はそれくらいにして、帰ってもらおうか!」
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