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一章、狂王子と魔女家の公子(オープニング)
2、魔女家の坊ちゃんと塔の結界
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数日をベッドで過ごした僕は、体調を様子見しつつ部屋の外を歩けることになった。
僕の住む家は、大きい。
壁には繊細な文様細工がされていて、大きなポインテッドアーチ形状の窓がたくさん並んでいる。柱は豪華な装飾柱で、天井はヴォールト形状。
お城みたいだ。
ここ数日で、僕は自分のことを少しだけ理解した。
まず、僕はエーテルという名前だ。爵位のあるお家の子供らしい。家名は、スゥーム家。通称【魔女家】とも呼ばれる魔術の名家なのだとか。
「エーテル坊ちゃん、ご覧ください。四方に聳え立つ魔塔はスゥーム家の管理下にあり、あの内部では大勢の魔術師が魔術を研鑽しているのですぞ」
そう言って僕の手を引いてくれる二足歩行のネコの姿をした護衛騎士は、渋くて低い声をしている。名前はネイフェンという名前だ。
「わぁ……、囲まれてるね」
ぐるりと見渡せば、なるほど遠くに高い塔が立っているのが視える。
「各塔を術式の起点として魔女家の領地に結界を張っていますから、ここは世界で一番安全な領地なのですぞ」
ネコヒゲをしごいて肩をそびやかすネイフェンを見上げて、僕はちょっと眉を寄せた。
「それ、フラグみたい」
「フラグとは?」
「うーん。なんとなく思いついた言葉だから、わかんない」
「エーテル坊ちゃん、怖れることはありませんぞ。魔女家の領地は世界で一番安全なのですから」
ネイフェンは安心させるよう、力強い声で繰り返した。
「けれど僕、それがフラグに思えて仕方ない。嫌な予感がするんだ」
つないだ手をゆらゆら揺らしていると、金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。剣と剣を戦わせる音だと僕は思った。
「あっちは、修練場なんだ。そうだよね、ネイフェン?」
僕は自然とそちらに足を向けた。
「思い出されたのですかな、エーテル坊ちゃん?」
「うーん。よくわかんない。ただ、音がするからあっちで修練してるんだなって思っただけかもしれない」
ネイフェンがぶつぶつ嘆く声が頭上から聞こえる。
「狂王子め、坊ちゃんの魔術の才能に嫉妬して潰そうとなさったに違いない」
――狂王子。
僕の記憶がない原因らしき第二王子カジャ殿下は、あまり敬われている様子がない。呼ばれ方からして呼び捨てだったり「狂」王子なんて呼ばれ方だし。
「あ、ノウファム兄さんがいるよ」
修練場が視えて、そこに見知った姿がいたから、僕は嬉しくなった。
ノウファムは黒い鎧の強そうな騎士相手に、重そうな剣を振り回して汗だくで奮闘していた。
「怪我をしたりはしないの?」
「修練用の剣は、刃を潰してあるのです。まあ、痣をつくることはあるでしょうが」
ネイフェンが手をしっかり握って「邪魔してはいけませんよ」と僕を抑えている。
しかし、黒騎士はこちらに気付いた様子で、ノウファムとの打ち合いをすぐに中止してしまった。
「部屋の外を歩いて平気なのか?」
ノウファムが黒騎士と近くにやってきて、目の前にしゃがみこむ。
息がちょっと荒い。肩と胸が呼吸に合わせて上下している。
僕に目線を合わせるフリをして、実はこっそり体を休めてるんじゃないだろうか。
僕はウンウンと頷いて、ポケットからハンカチを取り出した。
真っ白な絹に光沢のある糸で魔女家の紋章である【竜の鼻先に口付けする妖精】が描かれているハンカチだ。
ハンカチでノウファムの顔の汗をぽんぽんと拭いてあげると、青い瞳が細くなる。
気持ちよさそうな、嬉しそうな表情だ。
その表情を見て、僕の心はふわふわとした。
僕の住む家は、大きい。
壁には繊細な文様細工がされていて、大きなポインテッドアーチ形状の窓がたくさん並んでいる。柱は豪華な装飾柱で、天井はヴォールト形状。
お城みたいだ。
ここ数日で、僕は自分のことを少しだけ理解した。
まず、僕はエーテルという名前だ。爵位のあるお家の子供らしい。家名は、スゥーム家。通称【魔女家】とも呼ばれる魔術の名家なのだとか。
「エーテル坊ちゃん、ご覧ください。四方に聳え立つ魔塔はスゥーム家の管理下にあり、あの内部では大勢の魔術師が魔術を研鑽しているのですぞ」
そう言って僕の手を引いてくれる二足歩行のネコの姿をした護衛騎士は、渋くて低い声をしている。名前はネイフェンという名前だ。
「わぁ……、囲まれてるね」
ぐるりと見渡せば、なるほど遠くに高い塔が立っているのが視える。
「各塔を術式の起点として魔女家の領地に結界を張っていますから、ここは世界で一番安全な領地なのですぞ」
ネコヒゲをしごいて肩をそびやかすネイフェンを見上げて、僕はちょっと眉を寄せた。
「それ、フラグみたい」
「フラグとは?」
「うーん。なんとなく思いついた言葉だから、わかんない」
「エーテル坊ちゃん、怖れることはありませんぞ。魔女家の領地は世界で一番安全なのですから」
ネイフェンは安心させるよう、力強い声で繰り返した。
「けれど僕、それがフラグに思えて仕方ない。嫌な予感がするんだ」
つないだ手をゆらゆら揺らしていると、金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。剣と剣を戦わせる音だと僕は思った。
「あっちは、修練場なんだ。そうだよね、ネイフェン?」
僕は自然とそちらに足を向けた。
「思い出されたのですかな、エーテル坊ちゃん?」
「うーん。よくわかんない。ただ、音がするからあっちで修練してるんだなって思っただけかもしれない」
ネイフェンがぶつぶつ嘆く声が頭上から聞こえる。
「狂王子め、坊ちゃんの魔術の才能に嫉妬して潰そうとなさったに違いない」
――狂王子。
僕の記憶がない原因らしき第二王子カジャ殿下は、あまり敬われている様子がない。呼ばれ方からして呼び捨てだったり「狂」王子なんて呼ばれ方だし。
「あ、ノウファム兄さんがいるよ」
修練場が視えて、そこに見知った姿がいたから、僕は嬉しくなった。
ノウファムは黒い鎧の強そうな騎士相手に、重そうな剣を振り回して汗だくで奮闘していた。
「怪我をしたりはしないの?」
「修練用の剣は、刃を潰してあるのです。まあ、痣をつくることはあるでしょうが」
ネイフェンが手をしっかり握って「邪魔してはいけませんよ」と僕を抑えている。
しかし、黒騎士はこちらに気付いた様子で、ノウファムとの打ち合いをすぐに中止してしまった。
「部屋の外を歩いて平気なのか?」
ノウファムが黒騎士と近くにやってきて、目の前にしゃがみこむ。
息がちょっと荒い。肩と胸が呼吸に合わせて上下している。
僕に目線を合わせるフリをして、実はこっそり体を休めてるんじゃないだろうか。
僕はウンウンと頷いて、ポケットからハンカチを取り出した。
真っ白な絹に光沢のある糸で魔女家の紋章である【竜の鼻先に口付けする妖精】が描かれているハンカチだ。
ハンカチでノウファムの顔の汗をぽんぽんと拭いてあげると、青い瞳が細くなる。
気持ちよさそうな、嬉しそうな表情だ。
その表情を見て、僕の心はふわふわとした。
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