魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

文字の大きさ
22 / 158
二章、未熟な聖杯と終末の予言

21、恋愛ポエムをつづりなさい、ロザニイルは箒に乗って

しおりを挟む
「そうそう、カジャ陛下から例によって手紙が……」
 ひとしきり僕に癒しの時間を提供してから、ネイフェンが手紙を渡してくる。
「空腹ではいらっしゃいませんかな? お食事をお持ちしましょう」
 そう言っていそいそと部屋の外に出たネイフェンを見送り、僕はカサカサと手紙をひらいた。
 
「カジャ陛下は、暇なのかな」
 手紙にはありきたりな見舞いの文言が並んでいて、最後のほうに「これは命令ではないけれど、せっかくだから返答の手紙にはお兄様への恋愛ポエムをつづりなさい」などと酷いことが書かれていた。

「れ、れ、恋愛ポエム……?」
 羞恥プレイだ。
 カジャは絶対、楽しんでいる――僕は(あるいは、ノウファムも)カジャの玩具なのだ。

 手紙がもたらした憤りを持て余していると、コンコンと窓が叩かれる。

 視線を向けると、そこには場違いなほど陽気な笑顔を浮かべたロザニイルがいた。
 籠を片手にさげて、箒にまたがって飛んでいる。

「な、何をしてるんだ……」

 ロザニイルと僕は、別に親しい仲ではない。
 同じ魔女家で、従弟同士で、共に聖杯候補だった。僕が聖杯に選ばれて、ロザニイルは伸び伸びと発育し、体格も良い立派な青年となって魔術の天才ぶりを発揮している。
 僕は体調を崩しがちで寝込みがちなので、会う機会といえばこうしてたまーに相手がやってきてちょっかいを出してくる時くらいなものだ。
 
「よーう、エーテル。次期当主間違いなしのお兄様が見舞いにきてやったぞ! 天才のお兄様が会いにきてやったぞ! お土産もあるぞっ!」
 生命力旺盛な真夏の森みたいな緑の瞳をキラキラ輝かせて、溌剌とした声でロザニイルが笑う。
 ロザニイルはこんなタイプだったかな? 僕は夢と現実の狭間でちょっとだけ戸惑った。
 いや、こんなタイプだった。男らしくなって、自信に溢れていて、微妙に才能を鼻にかけているというか、お調子者って感じだ。
 
 ――僕は「こんなタイプだったかな?」なんて、どうして思ったんだろう。これがロザニイルだ。

 ……でも、「そうじゃなかった」という気持ちもなぜか頭のどこかにあるのが、不思議だ。
 
「窓からじゃなくて、扉から訪ねておいでよ……きてください、次期当主間違いなしの天才のロザニイル様」
「あぁっ、惜しいっ。そこはお兄様って呼んでくれないと」

 ニコニコしながら、ロザニイルは籠を差し出した。
 ブラックウィローの編み籠の中には、赤や紫の葡萄が入っている。
 メッセージカードが二枚入っていて、ぱらりと手に摘まんだ僕の心臓がどきりとなったのは、一枚がノウファムの文字で綴られていたからだ。

「あー、あいつも気にしてたぞ」
 さりげなく自分が書いたカードをつまんで「それよりオレのカード見て」と目の前でぷらぷらアピールしつつ、ロザニイルが教えてくれる。
「心配してた」
 
「……ありがとう、ロザニイル」
 あまり会うことのない僕よりも、ロザニイルのほうがノウファムと距離が近い。
 二人は、仲の良い友人なのだ。

 自分の指に填まった臣従の指輪を意識しながら、僕は葡萄をサイドテーブルに置いた。
 ふと目についた小瓶に、吸い寄せられるように手が伸びる。
 
「じゃ、届けてくれたお礼にこれをあげるよ」
 代わりに取ったのは、透明な小瓶。
 中に入っている薄紅の錠剤を一粒取って手のひらに置き、ロザニイルに差し出せば、ロザニイルはぎょっとした様子で目を丸くした。

「おいおい、そりゃ聖杯化の秘薬だろ。オレに寄こしてどうすんだ。オレに聖杯化しろってか?」
「ふふ……いらないならいいよ」
「……まあ、くれるっていうなら一粒もらっていくけどよ。成分とか気になってたし。とっておきの秘薬だもんな」

 ――ロザニイルならそう言うと思ってた。
 
 僕はどうしてかわからないけれど、心の中でそう呟いた。

「おっ、どした? 機嫌がよさそうな顔じゃねえか。さてはオレ様に会えて嬉しいんだろ。かーわいい奴め!」

 秘薬を懐にしまい込んだロザニイルが手を伸ばしてくる。
 僕が払いのけるより先に部屋の扉がひらいて、ネイフェンがロザニイルを睨みつけた。

「ロザニイル様!」
「ハアイ! オレよ!」
 
 ――ロザニイルは全く悪びれることなく明るく挨拶して、部屋の主みたいな顔をして騎士を出迎えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...