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二章、未熟な聖杯と終末の予言
34、ランゲのもてなし、対抗薬
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僕たちが宿泊させて頂く建物は、カンタータでも指折りの宿らしい。
ベージュ色の外壁をした長方形の窓が規則正しく並ぶ四階建ての建物で、部屋は広い。
「お前はお兄様たちと川になるんだぞ、エーテル」
「か、かわ?」
ロザニイルが奇妙なことを言いながら、僕を四階の部屋に引っ張り込む。当然のように同室のノウファムとロザニイルは、どうやら僕も混ぜてくれるらしい。
「ベッドをくっつけて寝るんだ。こういうの雑魚寝って言うんだぜ」
「雑魚……」
ロザニイルはテンションが高い。
ランゲ氏が招いてくれた夕食の席では、テーブルに並ぶご馳走をどんどん味見しては薦めてくる。
「エーテル、この牛肉入りシチューはとろとろだぜ! 麦酒が入ってるらしい。肉がすっげえ柔らかい」
シチューは野菜も入っているのに、ロザニイルはちゃっかり野菜をスプーンですくってノウファムの器に入れていた。
「……」
ノウファムは慣れた様子で野菜を口に運んでいる。
「この貝は小ぶりだがクリーミーだ! 癖になっちゃうぞ!」
ロザニイルが貝とスモークサーモンを一緒に薦める横で、ノウファムはグレイビーソースがけのラム肉のグリルを味わい、同じ料理を僕に薦めてくれた。
「俺が思うに、エーテルはもう少し栄養を取れば背が伸びる」
「おっ。兄貴風吹かすじゃねえかノウファム」
「俺と同じぐらい伸びる」
「それは今からじゃもう無理じゃねえか?」
仲の好さそうなやり取りを耳にしながら頂く料理は、表面がソースでつやつやした肉は柔らかくて、噛むとジューシーな肉汁がじゅわっと出る。
あつあつで、美味しい。
それに、パイみたいな料理もとても好みの味だ。肉といっしょに玉ねぎが炒めてあって、上にマッシュポテトがふわふわっと乗っている。
「このパイ、生地がほくほくしてる」
「エーテル様、そちらはプターティスをパイ生地の代わりに用いているのです」
「そうなんだ」
ランゲ氏は親戚のおじさんみたいな顔でニコニコしている。
「こちらのタルトは、トフィーソースを流しこんでバナナと生クリームを重ね、砕いたカカオ豆、くるみ、チョコレートをふりかけております。美味しいですよ」
デザートタルトは甘々で、一緒に出された白いあったかドリンクは飲むと体の内側からぽかぽか温まるようだった。
お酒が入っているらしい。
「そうだ、エーテル。これを飲んでみろ」
食事を終えると、ロザニイルが僕を温泉に引っ張っていきながら、透明な液体の入った小瓶を渡してくる。
「これはなに?」
小瓶を軽く揺らして蓋をあけると、無色透明の液体は薬草っぽい匂いがして、味は薄くてスッキリ系だ。
くいっと飲んでみると、薄荷みたいに爽やかな感覚が口の中や喉を通っていって、後味がいい。
「この前くれた魔女家の秘薬を調べて作ったんだ。対抗薬――聖杯器官の働きを抑える薬だよ」
ロザニイルが言った言葉を数秒かけて咀嚼して、僕はまじまじと小瓶を見つめた。
魔女家の秘薬によって肚につくられた、本来ないはずの器官。
その器官が働かなくできる――、
「それって、すごいじゃないか!!」
ロザニイルは天才だな! 僕は感動して、目を輝かせた。
ベージュ色の外壁をした長方形の窓が規則正しく並ぶ四階建ての建物で、部屋は広い。
「お前はお兄様たちと川になるんだぞ、エーテル」
「か、かわ?」
ロザニイルが奇妙なことを言いながら、僕を四階の部屋に引っ張り込む。当然のように同室のノウファムとロザニイルは、どうやら僕も混ぜてくれるらしい。
「ベッドをくっつけて寝るんだ。こういうの雑魚寝って言うんだぜ」
「雑魚……」
ロザニイルはテンションが高い。
ランゲ氏が招いてくれた夕食の席では、テーブルに並ぶご馳走をどんどん味見しては薦めてくる。
「エーテル、この牛肉入りシチューはとろとろだぜ! 麦酒が入ってるらしい。肉がすっげえ柔らかい」
シチューは野菜も入っているのに、ロザニイルはちゃっかり野菜をスプーンですくってノウファムの器に入れていた。
「……」
ノウファムは慣れた様子で野菜を口に運んでいる。
「この貝は小ぶりだがクリーミーだ! 癖になっちゃうぞ!」
ロザニイルが貝とスモークサーモンを一緒に薦める横で、ノウファムはグレイビーソースがけのラム肉のグリルを味わい、同じ料理を僕に薦めてくれた。
「俺が思うに、エーテルはもう少し栄養を取れば背が伸びる」
「おっ。兄貴風吹かすじゃねえかノウファム」
「俺と同じぐらい伸びる」
「それは今からじゃもう無理じゃねえか?」
仲の好さそうなやり取りを耳にしながら頂く料理は、表面がソースでつやつやした肉は柔らかくて、噛むとジューシーな肉汁がじゅわっと出る。
あつあつで、美味しい。
それに、パイみたいな料理もとても好みの味だ。肉といっしょに玉ねぎが炒めてあって、上にマッシュポテトがふわふわっと乗っている。
「このパイ、生地がほくほくしてる」
「エーテル様、そちらはプターティスをパイ生地の代わりに用いているのです」
「そうなんだ」
ランゲ氏は親戚のおじさんみたいな顔でニコニコしている。
「こちらのタルトは、トフィーソースを流しこんでバナナと生クリームを重ね、砕いたカカオ豆、くるみ、チョコレートをふりかけております。美味しいですよ」
デザートタルトは甘々で、一緒に出された白いあったかドリンクは飲むと体の内側からぽかぽか温まるようだった。
お酒が入っているらしい。
「そうだ、エーテル。これを飲んでみろ」
食事を終えると、ロザニイルが僕を温泉に引っ張っていきながら、透明な液体の入った小瓶を渡してくる。
「これはなに?」
小瓶を軽く揺らして蓋をあけると、無色透明の液体は薬草っぽい匂いがして、味は薄くてスッキリ系だ。
くいっと飲んでみると、薄荷みたいに爽やかな感覚が口の中や喉を通っていって、後味がいい。
「この前くれた魔女家の秘薬を調べて作ったんだ。対抗薬――聖杯器官の働きを抑える薬だよ」
ロザニイルが言った言葉を数秒かけて咀嚼して、僕はまじまじと小瓶を見つめた。
魔女家の秘薬によって肚につくられた、本来ないはずの器官。
その器官が働かなくできる――、
「それって、すごいじゃないか!!」
ロザニイルは天才だな! 僕は感動して、目を輝かせた。
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