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七章、勇者の呪いと熱砂の誓い

150、これはおふざけ回ですね、殿下?(軽☆)

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 ――全身が重くて怠い。
 翌朝に覚えた倦怠感は、以前の行為の後よりも大きいように感じられた。

「すまない。昨夜は歯止めが効かなかった」
 
 やわやわと髪が撫でられる。ノウファムは僕を上に乗せるようにして抱き上げた。
 背中側に手を回される。
 腰から下に撫でさする手が昨夜の余韻を肌の内側に響かせるみたいで、僕は慌てた。
 
「だ、大丈夫です……あっ」
 脚の付け根から臀部の双丘を揉まれると、背中がぴくりと反応を示してしまう。
「あ……ん」
 ほわりと魔術のあたたかさを感じる。癒されている。
 気持ちいい。純粋な癒しの心地よさと、淫らな性感が入り混じって、僕の力を奪っていく。

「あ、ありがたいのですが」
 むくむくと首をもたげかける欲望を自制しようとしながら、僕は指先を丸めた。
「あまりなされると、その……気持ちよくなっちゃいます……」
「……」
 ノウファムが僕の下でぴくっと反応を返すのが、恥ずかしい。 
 
 ――また破廉恥なことを言ってしまった。
 
 でも、他になんと言えばいいのだろう。仕方ないではないか……?
 
「気持ちよくなっているのを見たい」
 僕の下からそんな声がして、くっついた部分から互いの熱と鼓動が伝わってゆらりと情欲の炎が燃え上がるようだった。
 脚に何かが当たっている。僕の状態も把握されているだろう。密着しているから、筒抜けだ――。
「口を開けよ」
 王様の声が求めるから、僕は餌をねだるひな鳥みたいに口を開けた。欲しがる舌が唇の外側に迎えにいくと、訪れた舌がぴちゃりと唾液を絡めて挨拶をしてくれる。
 
「ん、……」
 言葉に代わって気持ちを擦りこみあうように舌が触れ合って、ちう、と吸われる。ぞくぞくと腰と首の後ろ側が震えて、睫毛が濡れる。熱い。
 夜着の隙間から潜り込むような指先が後ろを暴いている。
 双丘のラインを愉しむみたいにゆっくりと窄みに潜り込んで秘部を探り、内側に先をわずかに埋めるようにして癒しの魔術を注いでくる。あったかい。それが、気持ちいい。中に魔力が流されて、蕩けてしまいそう。

 ――これは、なんだ。
 こんなのは、知らない……。
 
「ふぁ……」
 
 気持ちいい。
 すごく微妙な場所に、絶妙なことをされている。
 内側がじんじんする。
 身体の芯が蕩けてしまいそう。
 
「はぁっ……は……」
 僕がぎゅっと胸元にしがみつくと、ノウファムの喉が笑みの音を鳴らした。楽しそうだ。

「昨夜は悦かった」
「ん、……」
「久しぶりだったな」
「は、……」
 まともに返事ができない。
「気持ちいいか?」
「はう」
 返事をするみたいに腰が揺れる。互いの勃ちかけた膨らみが擦れて、気持ちよさが増えていく。欲が膨らむ気配がした。僕が獣めいて呻きながらそこを押し付けると、ノウファムも笑いながら擦ってくれる。
 互いにマーキングし合ってるみたいだ。おかしい。止まらない。もっと欲しい。もっと擦りたい。

「僕、おかしい……」
「お互いに」

 やがて行為はエスカレートして、濃厚な後朝を満喫した僕はくったりとシーツに沈んだのだった。
 気持ちよかった。しかし、はしゃぎすぎた感じもする――僕は自分の行為を振り返り、困惑した。聖杯だったときより性に奔放になっている気がする。おかしい。
 
 
「あとで食事を運ばせるから、そなたはゆっくり休むといい。俺はシーディク王と会談があるが」
 
 そう言って頭を撫でて、ノウファムが部屋を出ていく。とても機嫌がよさそうだ。
 僕はくたくたの頭でそれを見守って、眠りに落ちかけてふっと部屋の片隅にある箱に気を取られた。

「……」
 ノウファムが蓋を開けて微妙な顔をしていた箱だ。きっと、が入っているのだろう。
 そういうもの――つまり、大人のおもちゃだ。絶対、そうだ。

 のそのそと起き上がる僕は、箱に近づいた。

 動機は純粋な好奇心だ。
 気になるじゃないか。どんなものを使えと差し入れされたのか。
 僕だって過去に媚薬を差し入れしたりしていたのだ。
 
 ノウファムにもロザニイルにも罪悪感は感じているが、そのときは必要だったから。そうする必要があったから。

 ――それなら、今は?

『世継ぎを作るため必要だからと言って、僕はノウファムに女性の妃を迎えるようにと言えるだろうか?』

 ……それがどうも、想像しただけで嫌な感じなのだ。
 心の真ん中がどんよりとして、重たく暗くねとねとしたような、嫌な感じになってしまうのだ。

「い、嫌なことを考えるのはやめよう」
 自分に言い聞かせて気分転換するようにパカっと蓋を開けると、箱の中はカラフルだった。明るい色をした魔導具が揃っている。ピンク色が多い。ファンシーだ。でも、いやらしい感じもする。形からしてそんなアイテムだなとわかるグッズだから、いやらしいと感じさせるのだろう。

「うわぁ……モイセス……」
 僕はモイセスにじゃっかん引きつつ、箱の中身をつまんだり持ち上げたりして並べて置いた。
  
「これと比べたら僕の媚薬なんて可愛いもんじゃないかな」
  
 形や大きさは様々で、用途がわかりやすいものもあれば、一見使い方のよくわからないものもある。
 共通して言えるのは、箱の中の品々が夜の営みに楽しみを添えるものだということだろうか。
 あと、恐ろしいことにほとんどのものが起動するとプルプルと振動する。性感帯に取り付けたり挿入したりして振動させるわけだ。そうするとどうなるかというと、気持ちいいわけだ。
 僕はそれぞれのブツがどこでどう働くのか想像を巡らせ、人という生き物の罪深さに身震いした。こんな道具を作ってしまうなんて。……人類のえっち――――、

 かちゃりと部屋の扉が開いたのはそのときだった。
「エーテル、食事を運ばせたから……」
「あっ」
 部屋の扉から顔を覗かせたのはノウファムだった。

 その瞬間のノウファムの顔を、僕は生涯忘れまい。
 
「エーテル……そなた……」
「……っ!!」
 
 ――あっ、あっ、そんな目で僕を見ないで!
 
 ノウファムは青々とした視線を下に下げた。
 無言が部屋の空気をピンと張り詰めさせて、気まずい。
 視線が僕の手元に固定される。おもちゃだ。可愛いピンク色のおもちゃがそこにある。
 周辺には、箱から取り出したあんなおもちゃやこんなおもちゃが転がっている……。

「ふ、ふう。点検完了」
 僕は沈黙を明るい声で破って、箱におもちゃを入れた。いかにもな雄茎型のピンクも、紐付きの小さなピンクも、銀色の細いやつも、輪っかみたいなやつも。
 とりあえず出したものを仕舞ってパコッと蓋をすると、僕の目の前には箱しかなくなった。
 
 ……箱しかない。
 あやしいものは、何もない!

「おーるくりあーです、殿下っ」 
 ――あやしいものは、何もなかった。
 そんな顔で僕は額の汗を拭って笑った。たまにノウファムがやるみたいに、不自然なくらい爽やかな笑顔を目指して、きらきらと笑った。
 
「お食事をありがとうございます、ノウファム殿下。ちなみに僕は危険物がないかチェックしていただけなのです。殿下のために。殿下の為に! ……安全でした!」

「……そうか、それはなによりだ」
 ノウファムが笑顔を返してくれる。あちらも爽やかなお兄さんスマイルだ。僕よりよっぽど作り慣れた綺麗な笑顔だ。さすがノウファム。慣れている。

「殿下のためですから。モイセス卿は、たまにほら……ぬいぐるみが大きくなって暴れたりした前科もありますし。安全第一ですからね!」
「そうだな。そなたを心配させてすまない」
 
 よかった! ノウファムは僕に調子を合わせて「何も変なことはなかった」ってことにしてくれそうだ!
 僕はただ、箱の中の安全チェックをしただけなんだ! 箱の中には何も変なモノはなかったんだ……!

「それで、そなたが気に入るおもちゃはあったか、エーテル」
 
「!!」

 僕の淡い希望は一瞬で打ち崩された。
 なんで。どうして。
 僕は愕然として笑顔を凍らせた。
 
 これはひどい裏切りだ。
 今、そういう流れじゃなかったじゃないですか、殿下。
 どうしてそっちに話を戻してしまうんです、殿下。
 
「き、気に入るだなんて。僕、こういうおもちゃで遊びたいなんて、ぜんぜん」
 僕は哀しいっ! そんな表情で首を振ると、ノウファムは沈痛な表情になった。
 
 ――そ、その顔は、ずるいっ!?

「そなた……夜も朝も俺が愛したのに、俺がいなくなった途端におもちゃを……」
「っ!?」
 
 あれだけ俺が尽くしても足りないのかというようなノウファムの視線が痛い。
 えっ、なんですかその悲痛なオーラ。
 僕がひどい裏切りをしたみたいな顔をなさるじゃないですか。
 違うよ、違いますよ、ただ気になって中身を見てみただけですよ。
 
 視線は肌に刺さる。僕は今、それを実感していた。

「遊ぶなら夜に俺が視ているときにせよ。ひとりで楽しんではならない」
「違うんです、違うんですよ殿下……おにいさま、おにいさま」
「俺は努力していたつもりだったが、そなたを満足させられていなかったようだな。すまなかった」
「違いますよぉぉぉっ!?」
 
 ノウファムの中でどんどん僕が破廉恥な好き者になっている気がする。
 僕は危機感を覚えて、今後は清楚に振る舞おうと心に誓うのであった。

 
 ――僕は上品で、清楚な自分になる。絶対。絶対だ……!!

 
 それぞれの様々な誓いと共に、僕たちの砂漠の国での日々は幕を降ろしたのであった。
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