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次代
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あれから3年経った。 ロイアードの仕事は相談役兼話し相手兼ソウアイの目付け役だった。 仕事はなかなか楽しく忙しくはないが、報酬は減った。 金に頓着しないロイアードなのでそれはどうでも良かったが、ソウアイの教育方針に意見を求められるのは大変に困った。 意見を求めたのはミエリ、ローア、宮内庁長官である。 「今は子供でも、ロウアイとアイギルにロイアイやトミアイみたいな気性と性格、性癖を持ったら手が付けられなくなる」という主張だった。 「陛下を本気で怒らせば自ずと正す」と言ったのだが、ミエリは激怒したアイラムの恐ろしさは聞いているが見た事はない。 宮内庁長官とローアはもう一手欲しいと言う。 ロイアードから見ればソウアイにそんな気質は見られない。 子供同士で戯れていても殴る蹴るという事も無く、態度に問題ある訳でも無い。 彼女達が危惧しているのは格闘技に熱心である点だ。 それも、負けが確定しても反撃し、勝ちが決まっても攻撃するのだ。 一度闘いになると止められるまで止まらないというのはロイアードにはヤンチャ過ぎると思う程度だった。 軍人一筋だったロイアードには闘いというのは殺すか殺されるかである。 人柄は王族らしい振る舞いだがやはり大人達に甘える行為も見せて実に愛らしい童である。 王宮内の男達の目にはソウアイのその闘争心は国王候補として頼もしいと映った。 女達は血の気が多いと危惧している。 「アイミエ・アイラム国王陛下は負かした者には追撃しない」とソウアイに言うと、素直に聞き分けた。 これにより、ミエリと長官、ローアにはソウアイは、その様な者にはならないと確約した。 それに第二子である長女、アイミエ・アイラム・ミエルが誕生した事で兄としての振る舞いも見せる様になった。 実母ミエルの名を付けた事に、ミエルを知る者は「やはり陛下は恋しかったのか」と口々にそう言った。 生前アイラムは母思いの子で、病を得てからよく看病し、葬式では茫然としていた。 それまではソウアイの様によく遊び、よく笑う子だったがローアに出会うまでは誰とも話さず、自室に籠っていた。 これにロウアイも焦っていたのをロイアードはよく憶えている。 アイラム・ミエルはもう美人確定の顔立ちである。 ミエモは王族籍に復活し、義妹となった為にソウアイとアイラム・ミエルの伯母となったのは良いが、甥と姪の誕生を喜び、末っ子だった事と歳が近い事から弟と妹として可愛がる。 「第二子もお産まれになって、我が国も安泰ですな」「と言ってもソウアイとミエルだけじゃ不安だけどな。ソウアイは闘う事に夢中だし、ミエルもどうなるか分からんしな。もう1人欲しいとは思うんだが」「まあ、陛下。でしたらすぐにでも作らないといけませんわ」「そうか?」 ミエリも20後半となっている。 女は産める時に産まないと母体にも子供にもリスクがあるのは常識、女医としても承知しているし、子が授かれるなら健康なうちに授かりたいと思っている。 「はい。すぐにでも」「じゃあ、もう1人作ったら終わりな」「良い判断です。一時は王族は陛下だけで、存続も危ぶまれましたが、国も一族もよく立て直しました」「アイミエ一族はそうだけど、国はまだ目が離せん。子供達も出来たし、歳を重ねる毎に忙しくなってるぞ」「王とは多忙なものですよ」 そう言うソウカンも多忙なのだが、国の成長を伴った多忙であるので本人は全く苦に思っていない。 部下には心配されているが、ソウカンも実にタフである。 2月も経った頃、国民のマナー問題が浮上した。 「マナー?」「はい。エルストロウも成長を続けておりますが、国民にマナーを学ばせず放置していると、他国の者にエルストロウ人の振る舞いを指摘されて恥をかくという事態になるやも知れません。例えば、中国人がそうです。先進国となったにも拘らず、立ち振る舞いやマナーは後進国のそれでございます。我が国はまだ先進国とは言い難い程度ではありますが、マナーは一朝一夕で身につく物ではございません。そろそろ学ばせる必要があると愚考します」「…うーん」 この日、ソウカン宰相は若い30代程の部下数人を伴って御前に立った。 「ソウカン?ロイアード?」「私には分かりません。階級の高い家の出でありますので」「私もそれに近いので分かりませんな」 アイラムとソウカン、ロイアードは自然と教えられたし周りがマナーを身に付けた者ばかりで理解が出来ず、一般民の暮らしが分からないので想像が出来ない。 「この者達は全員一般民からのし上がった者達でありまして。そう言うのならそうなのだろうと思い、連れてきました」「そうか。例えばどんな事か?」 リーダー格の男らしき者が答える。 「地面に座るし唾を吐く、路上で排尿、所構わず飲み食いしてゴミを捨て、列に並びません。自分が悪くても相手を言い負かせば悪くなくなるとも思っています。最近は国外旅行が出来る余裕がある者も増えましたので対処する必要があると思います」「ソウカン?」「学校教育で子供達にはマナー等は学ばせております」「子供達が成人すればマシにはなるでしょうが、その前に国が先進国の部類に入ると評判は悪くなります。エルストロウ王国人はマナー知らずだと言われます」「…分かった。対処しろ」「かしこまりました。お前達は仕事に戻れ」 部下達が一礼して去った。 「まさか、そんな問題が出るとは思わなかなったな」「いつかは問題になったのでしょうが、こんなに早くとは…」 ソウカンも驚いている様子を見せる。 「ロウアイ様の統治では一般民は生きて働ければ良いという考えでしたからな」 ロイアードは感慨深そうに言った。 「視察では分からなかったな」「王族の前でそんな事は出来ますまい。いや、若い者が言わなければ分からず仕舞いでした」「そうだな。国民に徹底させろ」「かしこまりました」 マナーの改善という物は難しく、ロウアイの統治下に生まれ育った者達には息苦しさを感じたが、アイラムの命と国が恥を掻かない為に努力はしたのだが、教育を受けられなかった者達は覚えるのに難儀し、マナーを記した本を持ち歩いての外出し、浸透するには時間が掛かったのだがこれで街は清潔となった。 ミエリは30代となった為に子は作らないとし、側室を作る様に提案した。 「私にも子にも危険がございますので側室に産ませるのが良うございます」「側室か。別に俺はソウアイとミエルだけでも良いぞ?」「ソウアイは格闘技に夢中、ミエルもどうなるか分かりません。もう1人お作りください」「…お前がそれで良いならそうしよう」「是非にでも」 側室は王宮内のメイドから選んだ。 これは人柄も知っていたし、本人も立場を弁えていてミエリのお気に入りでもあった。 これは1年も持たずに出産に至った。 次男アイシルである。 難産を極め、産んで2日後に亡くなった側室の遺族に5億エルスもの賠償金と国葬で弔った。 アイラムも落ち込んでしまったがミエリ、ミエノ、ローアに励まされて何とか回復したのだが、死ぬまで後悔した。 「到着しました」「分かった」 海を挟んで西にある国、クロイアノの軍がクーデターを起こし、軍事政権となった。 クロイアノは民主国家であったが元々が治安は悪く乏しい経済にくわえて反政府勢力が蠢いていた国である。 軍はその勢力と結託し、クーデターを起こしたのは良いが慣れない政治と稚拙な統治に国民は混乱。 国民はデモを起こして抗議する。 しかし軍は暴力的な鎮圧を繰り返し、夜間外出禁止令の発令や国内での移動にも許可が必要になる。 治安は最悪となり、見切りつけた者達があらゆる国に逃亡した。 隣のエルストロウには大量の難民が押し寄せた。 しかし、エルストロウにもそんな余裕がある訳でも無く、エルストロウ経由で各国に亡命や移民の為の移動が開始された。 各国からの受け入れの為の飛行機や船がようやく到着した。 クロイアノ政府は突然のクーデターにも拘らず、逃亡出来た政府高官は多く、ここエルストロウに政府を置いた。 飛行機や船の到着に合わせて呼び出した。 「各国の飛行機や船が到着したようですね」「はい。我々も聞いております」 大統領は拘束されたが、このムラガベ副大統領とボスネル財務大臣と他数名は脱出できたようだ。 「貴方方はどうするおつもりですか」「我々はここに残り、来るべき日に向けて備えたく思っております」「来るべき日?クロイアノへの帰還ですか?」「そうです。我々はその為に国を脱出しました。各国が協力して反政府勢力と手を結んだ軍事政権などという民主主義にあるまじき政府を打倒して」「お待ちください。エルストロウは協力はしませんよ」「なっ…!何故です!?」「協力する理由が見当たりません。クロイアノとエルストロウは友好的に付き合ってまいりましたが同盟は結んでおりません。協力は今の様に押し寄せた難民の世話と駐留までと考えています」「そんな…!あんな軍による統治を見過ごすおつもりですか!」 ムラガベとボスネルは声を荒らげる。 「軍だろうが王だろうが民主だろうが、エルストロウは国と認めます。こちらも民主国家ではありません」「しかし、このまま暴走を許すと貴国にも害を及ぼすかもしれませんよ!」「その時は対話をします。対話による決着が着かないのであれば軍事行動を起こします。害を及ぼさないのなら国と判断します」「そんな…」「そもそも各国は非難声明と難民の受け入れはしておりますが、軍事協力の申し出はあるんですか?」「そ…それはこれからの話し合いで…」「そうですか。では同盟国からの要請、もしくは軍政権の行動次第で我がエルストロウも協力します。話し合いが済むまではどうぞ滞在してください」「…ありがとうございます」 用件を伝えると直ぐ様臨時政府ホテルに帰っていった。 「実際に要請は来てるか?」「民主国家達は非難はしておりますが、今の処は助ける気は無いようです。政治腐敗もかなり酷く、成る可くして成ったとの見方が強いですな」「そうか。さっき言ったら通り、同盟国の協力要請か向こうからの行動が無い限りは現状維持な」「かしこまりました」 やはり各国は軍事行動は起こさず、難民の受け入れ程度しか起こさず、エルストロウに駐留する政府は難民の送り先を決める為の組織となっている。 2ヶ月後、エルストロウ領海で違法操業する船が増えた。 沿岸警備隊や海上警察が追い返す出来事が頻発した。 苦情を伝えるも、「国民が勝手にやった事である」と謝罪もしないどころか、軍所属の艦を差し向ける始末である。 これは管轄の組織では手に負えず、引き下がっていたのだが、とうとう事件が起きた。 付近にいた漁船に帰れと脅しかけた。 付近にいた漁船数隻が集結して引き下がらない。 通報を受けた沿岸警備隊は現地に赴くも処理出来ず、政府に直ぐ様報告を上げる。 ソウカンはアイラムの指示も無く独断で海軍の艦を数隻向かわせる。 直ぐに攻撃を受けた報せが届く。 海軍の間が着いた頃には敵艦と漁船は居なくなった後で、代わりに付近から人の身体の一部や燃えている船の破片を発見した。 逃げ帰った沿岸警備隊の船も大破して煙を上げながらほうほうの体で沖合に戻る。 結局は港に辿り着く事は不可能だと判断し、艦長もゴムボートに移り、船は沈んだ。 この報せは部屋で家族と過ごしていたアイラムに届いた。 家族達は初めてアイラムの激怒を見て血の気が引く。 ミエリは身体が硬直し、思考が停止した。 子供達が怯えて泣き叫ぶとアイラムは激情を抑えた。 「ミエリ、ローア。悪いが子供達を見ててくれ」「あまり子供の前で怒りません様に」 ローアにチクリと釘を差されたアイラムは退出し、ドアを閉めると抑えていた激情を再度噴出させる。 ミエリは夫の変容には驚いた。 赤子のアイシルまでも泣き叫び、あやすのに時間が掛かった。 「アイラム陛下は怒った時はああも変わるの?」「はい。父君様の激しさと母君様の冷酷さが現れます。ロイアード様さえも凍りつく程の恐ろしさが出ます。暴れる事はありませんよ」「そう…」 誰にでも優しい夫の恐ろしい一面は聞いていたが、聞いた以上の恐ろしさがある。 身体が震え、寒気を感じたミエリはアイシルを抱きしめた。 ソウアイもアイラム・ミエルも父は絶対に怒らせてはいけない相手だと強く認識した。 ソウアイは最近は父の機嫌が芳しくないのは知っているものの、自分にしてやれる事は無いので武道に励んでいた。 父が用意してくれた講師の下に習い、年上の者達と対戦する。 「いや、もう3歳程度上では負けなくなりますな」 ロイアードはよくソウアイの相手をしていた。 「強い者には苦戦するよ?」「王子ぐらいの歳の3歳の違いは大きいのですよ。それで苦戦とは、ロウアイ様の血が濃く出ておりますな」「よく言われる。そんなに凄かったのか?」「背も2m近い全身筋肉で出来た方でしたな。ロウアイ様もお強い方でしたよ。若い頃はよく素手で殴り殺すは絞め殺すは大変でした」「お祖父様はそんな怖い方なのか…。父上は優しい人だが」「ロウアイ様は身内には手を出さない方でしたよ。案外生きておられたら孫馬鹿になっていたかも知れませんな!」 愉快に笑うロイアードだが、若い頃はよく組手の相手をさせられた。 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「でも、どうして私の名前はお祖母様と同じなんですか?」「私もよく知らないけど、とても好きだったそうよ。貴女がお腹にいる時に女の子だって分かった時からミエルにすると言ってたの」「でも、アイミエ・アイラム・ミエルなんて言いにくいです。母様ももう少しどうにか説得してくれたら良かったのに」「それもそうね。でもラミエル様と呼ばれてるから良いじゃない。それに貴女は歴代最高の王と呼ばれる方の名前が付いているのよ。誇りに思いなさい」「それはそうですけど。最近は兄様もあまり遊んでくれませんし」「ソウアイは勉学と闘いに夢中だものね。でもアイシルがいるでしょう?」「はい。アイシルがいるので寂しくはありません」「そうでしょう。ところで、好きな子は出来た?」「気になってる男の子はおります」「誰?教えて」「嫌です。お祖母様こそどうなのですか?」「私は好きな男の子いるわよ」 古今東西女は恋は好きで、2人してミエノのロウアイとの想い出やメイド達の恋の話しをよく聞いていた。 アイラム・ミエルは行儀作法の手習いとアイシルの相手に勤しみ、それにお菓子作りや花を育てる事が好きな女の子らしい性格になっている。 将来国中の男達からの熱烈なプロポーズを受ける。 クロイアノとの抗争は一方的な強さを見せつけた。 軍の施設、兵器、軍人達をジワジワと破壊と殺害を繰り返す。 クロイアノ軍事政権は交渉を提案したが黙殺され、降伏の打診をしても黙殺された。 ほとんどの兵器と施設の破壊。 それに軍人を殺害と反政府勢力の殲滅で溜飲を下げたアイラムはエルストロウ駐留臨時政府と話し合いの場を持った。 「1兆3000億エルス相当を賠償金として払うなら貴方方を国の首脳とする事、民主主義に戻る事を条件に降伏を勧告します」「2兆3000億エルスですか…それは少し法外では?」 臨時政府は渋る。 「確かに軍は壊滅状態で立て直しには金が掛かるでしょうが、街の被害もあまり出していません。それに、反政府勢力を殲滅した報酬も兼ねているので安いのでは?二度と我々の間に諍いが起らぬように同盟もお頼みしたいと思っております」「…少々お待ちください」 席を立った者達が集まり、小声で話し始める。 「どうなると思う?」「払えたとしても、完済は数年は先です。国民もどれ程戻るかも未知数でしょうし。難しいのでは」「では、2兆エルスに下げて警察機能が回復するまで駐留させてやるか」「それでもどうでしょうな」 小声の会議場終えたようで、各自着席した。 「アイミエ国王陛下。やはりその条件は難しく…」「では、我が陸軍を警察機能が回復するまでお使いください」「…」「もちろん、貴国の法律に沿った警邏をさせましょう。犯罪者は捕らえ次第警察に引き渡します。軍が機能するまでは反政府勢力が発生した場合も対処させましょう」「…分かりました。要求を呑みましょう」「では、早速同盟締結を致しましょう」 その場で同盟を締結し、降伏勧告を行った。 軍事政権は降伏し、新政権が樹立された。 ムラガベは肥え太った身体と高級なスーツや時計、指輪から欲に塗れた男でまた賄賂天国となると予想したが、意外にもまともに国の立て直しを図った。 3度反政府勢力が結成され、攻撃に遭ったが軍は3年で警備の任を解かれた。 アイシルも7歳になった。 大人しく素直な性格をしているものの、少し甘えん坊な性格である。 背は小さく、礼儀正しい面もあって多くの者に愛されている。 アイラムに似て背は低く女顔であり、体力も低い。 ミエリ、ミエモ、アイラム・ミエルに溺愛されている。 本人はローアが一番好きなようで、ローアによく懐いている。 ソウカン、ロイアード、宮内庁長官、ローアはアイラムの血だと確信する。 アイラム、ミエリ、ローア、ミエモ、ミエノ、ソウカン、ロイアード、宮内庁長官の面々で庭でお茶会をしていた時だ。 「お待ちください…!お待ちを…!」「父上。母上」 アイシルが庭に出てきた。 侍従の女が血相を変えたというか、慌てに慌てている顔でいる。 不審に思った。 「どうした?」「実の母がいる事を何故黙っていたのですか?」 場が凍りついた。 「申し訳ございません!家族アルバムを見て気付いたようで…!」「見て実の母だと直ぐに気付きましたよ」 その場にいた者は親子の絆によるものかと驚いた。 「アイシル!それは…」「言おうとは思っていた」 ミエリの言葉を遮る。 「しかし、まだ幼いお前に言うべきかどうか迷っていた。母は、それでお前が傷付くと言うしな」「別に傷付きはしませんよ?」 涼しい顔で答えた。 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