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第1話 憧憬

街角 Episode:02

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◇The Girl

――困っちゃったな。

 家族みんなが手が放せなくて、あたしが預け物の引き取りに来たのだけど……店の場所が分からない。
 近くまで来てるのは間違いないけど、その先がさっぱり、だった。

 この町は古くからあるせいかとても道が入り組んでて、おかげで一本路地を間違えると、ぜんぜん違う方へ出てしまう。
 時計を見ると、もうかれこれ三十分くらい迷ってた。

 ぜったい、母さんには言えない。こんなこと知られたら、それこそ何を言われるか……。
 もう一度メモで番地を確かめて、顔を上げる。
目標物から見てもこの周辺、そう思いながらあたりを見まわした。

 首都のアヴァンシティに似て、落ち着いた石造りの街並み。
 立ち並ぶ建物はさほど高さはないけど、窓辺が色とりどりの花で彩られてとってもきれいだ。

――こんな街で、すごしてみたいな。

 なんとなくそう思った。

 あたしは今まで、ひとつの場所に落ち着いて住んだことがない。
長くても半年、短いと一週間そこら――もっとひどいと、毎日移動しながらだ。

 だからいつも、こんな普通の暮らしに憧れてた。
 普通に毎日を過ごして、みんなでテーブルを囲んで……それが出来たら、きっと楽しいだろう。

 でもそれがムリなことも、十分わかってた。
 一瞬泣きたくなって唇を噛む。
 誰が悪いわけじゃない。だから諦めるしかない。けど、けど……。

 その時あたしは視界の隅の、こっちへ来る男子に気がついた。
 慌てて涙をぬぐう。

 ダーティーブロンドの髪に、琥珀色の瞳。年はあたしと同じくらいか、もう少し年上だろう。
ただあたしが普通より小柄なせいもあって、けっこう身長差がある。

 まっすぐこっちを見てるのが印象に残った。
 畏怖も何もない、ストレートなまなざし。

――こんな風に、あたしを見る人がいたんだ。

 対等に、あたしを見てくれる人が……。
 その彼が目の前まで来て、あたしはまたうつむいた。

 どうしていいかわからない。
 けど、彼が先に声をかけてきてくれた。

「そんなに泣くほど――何困ってんだ?」

 その声がなぜか信じられないほど胸に染みて、また涙がこぼれた。
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