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第2話 抱えきれぬ想い

慟哭、そして哀悼 Episode:05

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 ◇Rufeir

 あたしたち――シュマーのせいで家族が全員死んだ、そう、先輩が叫んだ。
 どう答えたらいいのかわからなくて、一瞬動きが止まる。

 その隙を、先輩は逃さなかった。
 たちまち組み敷かれる。
 先輩の手が、あたしの首にかかった。

「せんぱ……どうして……」

 思わずそう言ったけれど、先輩は聞いてなんかいない。
 そのまますごい力で締め上げてくる。
 振りほどこうとしたけれど、片腕がやられていてどうにもならなかった。
 息が詰まる。

 ――母さんの言ったこと、正しかった。

 心配そうだった、母さんの姿を思い出す。
 シュマーはどこで恨みを買っているかわからない、別れ際にそう言われた。

 もちろんそれはあたしも承知している。
 うちは代々人殺しをしてきたのだから。

 先輩の家族も、誰かシュマーの人間が絡んだ話で死んだんだろう。
 もちろんあたしじゃない。

 けど、外の人間から見たら同じことだ。
 それにあたしの手だって、今でも十分血に染まっている。

 結局、あたしがバカだったのだ。

 亡霊たちの言うとおり、あたしの生きる場所はあの地獄しかない。
 それなのに、のこのこ出てきたのだから。
 だいいちあたしさえいなければ、シュマーの人間でも、死なずに済んだ者がかなりいる。

 ――あたしさえいなければ。

 もう、抵抗する気もなかった。


 ◇Loa side

「これでひとつ、貸しを返してもらう!」

 叫ぶロアの身体の下、すでにルーフェイアは声も出せない。
 さらに腕に力を込める。
 骨を砕こうかという勢いで。
 が、その時。

 ――お姉ちゃん、やめて!

(え?)

 懐かしい声を聞いたと思った。
 同時に、ブレスレットにして身に着けていた、妹の形見が光りだす。

 そして唐突に、周囲の情景が変わった。
 音はなく、映像だけ。

(なにこれ……?!)

 どうやら戦場のようだった。
 だがロアが知る故郷の街ではない。
 どこかもっと別の、森の中だ。
 そこに、青年と少女がいた。

 青年のほうに見覚えはない。
 だが、少女のほうは――。

(ルーフェイア?)

 間違いない。

(なんなの?!)

 ロアが戸惑っているうちにも、状況は変わっていく。

 青年が何事か叫んで、ルーフェイアのほうへ走り寄った。
 少女もその声に振り向き、ぱっと身を伏せる。

 高位の炎魔法が炸裂した。

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