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第3話 葛藤

誤解 Episode:10

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「なんでそんな、面倒なマネすんだ?」
「え? 持ち物って、放置……しないでしょ?」

 なんか激しくズレた答えが返ってきやがった。

「盗まれたり、攻撃で壊されたら、困るし」
「ここで攻撃はねぇだろ……」

 危機管理って意味じゃ間違ってねぇけど、ちと行きすぎだ。
 けど、それを言うつもりはなかった。

 なんせ状況が状況だから、このまんまにしといたほうが、ぜったい被害が少ねぇはずだ。
 なるたけ手を出されねぇ状態を保って、そのあいだにどうにかする。
 自分でもモヤモヤすっけど、こんくらいしかテが思いつかない。

「行くぞ」
「うん」

 俺自身も含めて、いろんなモンに腹立つのを押し隠して、部屋を移る。

「あのね、ここ……」

 移動するなり、ルーフェイアのヤツが訊いてきた。

「あーこれか。勘違いするヤツ多いからな」
「そう、なんだ」

 解法が複雑になってくっと、ルーフェイアは弱い。
 特に逆転の発想、みたいなヤツが苦手だ。

「あと、この計算……」
「おまえこのへん、根本的なとこ分かってねぇだろ。図にしてみろって」
「え? だってこれ、ただの計算……」

 首をかしげるこいつの目の前で、簡単に描いてやる。

「だからこいつを一辺に見立てて、こうやって面積で考えてみろよ。公式の意味分かっから」
「……あ!」

 まぁこのへん、こうやって教えねぇ教官も、しょうもねぇんだけど。
 ただ公式並べて覚えろ覚えろ言うだけなら、授業要らねぇし。

 ともかくそうやって、あれこれやって。
 一段落したとこで、かなりためらったけど、思い切って訊いてみた。

「おまえさ、平気か?」
「平気って……えっと、何が?」

 訊くだけムダだったかもしんない、そう一瞬思う。
 けど、このまま様子見ってのは、そろそろ限界ってヤツだろう。
 被害が出てねぇってだけで、もう直接手を出す段階に移ってやがるし。

「あー、ほら、あいつら女子の――」

 ルーフェイアがうつむいた。

「最初から……馴染めないと、思ってたから……」

 最後のほうは言葉にならない。

 学校へ行きたい。
 友達がほしい。

 こいつが望んでる、たったそれだけのことが壊れかけてんのに、なんもできねぇ自分に腹が立つ。

 ホント言うとあのバカ女子どもに、こいつがいままでどこで何してどんな思いだったか、ぶちまけてやりたかった。
 でも、ルーフェイアの場合はそれはぜったい、できねぇワケで。
 万が一そのへんから、シュマーの話にたどり着いたらヤバすぎる。

 かといって、ほかにどうしたらいいかも分かんねぇし。
 ルーフェイアとシーモアがガチでやりあえばそれで終わる気もすっけど、シーモアはともかく、ルーフェイアのヤツはぜったいンなことしねぇだろう。

「――ゴメンな」
「ううん、イマドは、違うから……」

 そう言うルーフェイアの瞳から、涙がこぼれる。
 なのに俺は、どうしようもなく非力だった。

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