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第4話 温もり

遠出 Episode:01

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 ◇Rufeir

「シーモア!」

 かけた声に、彼女が顔を上げる。

「遅いよ……って、なんだよそのカッコ」
「?」

 あたしは首をかしげた。

 別にいつもと同じで、どこか変わっていないはずだけど……。
 だけどシーモアの目には、そう映らなかったみたいだ。

「もうちょっとなんか、可愛げのある格好してくると思ってたのにさ。
 それじゃまるで、男子じゃないか」

「あたし一度も、男子に間違えられたこと、ないけど……?」
「そーゆー話じゃないって」

 シーモアが呆れた顔をした。

「――少し期待してたんだけどな。損した」

 損したって……なんだろう?

「まったく、シエラNo.1の呼び声も高い美少女が、なんだってそんなカッコ……」
「いつも、こうだけど……?」

 ショートパンツにジャケットにロングブーツ。
 あと最近はさすがに寒くなってきたから、中に薄手のハイネックのセーター。

 ほんとだったら冬の戦闘用を着てたいとこ――軽いし、動きやすいし、あったかいし――だけど、そうもいかなくて、たいていこんなふうだ。
 でも他にも、似たような格好をしてる女子は多い。

「もういい、分かった。あんたに期待したあたしが、バカだったよ」
「?」

 やっぱりよくわからない。
 けどシーモアのほうはなんだか、自己解決したようだ。

「さ、行こうか?」
「うん」

 行くというのは、ケンディクの街のことだ。
 ナティエスたちに誘われて、これからひとまわりすることになってる。
 ただちょっと時間の都合がつかなくて、あたしとシーモアはあとから二人で行って、合流することになった。

「ほら早く、船が出ちまうよ?」
「あ!」

 慌てて、出る寸前の連絡船に飛び乗る。
 すぐに綱が解かれて、船がすべるように動き出した。

 学院のある島は冬だというのに緑色で、その向こうに広がる海との対比が、とてもきれいだ。
 温暖なことで知られる、ケンディクならではの光景なんだろう。

 そういえば前にこの連絡船に乗ったのは、真夏だった。
 シエラへ入学する時に乗って以来、まだ二度目だ。
 そして気がついた。

 ――もう半年も、過ぎたんだ。

 なんだかとても、不思議な気がする。

 たったそれだけしか経っていないのに、あたしの生活は激変した。
 戦場にいたことが夢だったようにも思える。

 身内と離れたのも初めてだ。
 もっとも他のシュマー家の子供は、たいてい生まれた直後から親と別に暮らしてるから、あたしはかなり甘いのだけど。
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