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第5話 表と裏

遭遇 Episode:05

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 ――ともかくここを離れないと。

 シュマーの内部に入られでもしたら、大変なことになる。

 急いで交信記録を消しながら、別の通信ポイントへと移る。
 なんだかひとつ飛んだだけじゃ安心できなくて、二つ、三つと移動した。

 けど。

 ――警告が消えない?!

 その「誰か」は、あたしの後をぴったりとついてきていた。
 まるで頭から、冷水をかけられたような気がする。

 でも、どうにか逃げないといけない。相手が誰にせよ、捕まったら大変なことになる。
 なるべく自分が知っているポイントを経由するようにしながら、必死で逃げ回った。

 なのに、捲けない。

 向こうのスピードが速すぎて、太刀打ちができない。
 足跡を消さなければ逃げられるかもしれないけど、それをやってしまったら終わりだ。

 逃げ道がないかと、ざっと通信網を見渡す。
 幸いすぐ近くに、使われていないルートがあった。
 ここを使えば、そう思って通ろうとして。

 ――しまった!

 ブロックされてる。こっちの手を読まれて、先回りされてる。
 逃げられない、そう思ったとき不意に、魔視鏡に伝言が現れた。

『意外にやりますね。楽しかったですよ。――では、またいずれ』

 わざわざこんなふうに危険を侵してメッセージを送るなんて、よほど自信がある証拠だ。

 急いでメッセージから逆探知しようとしたけど、当然そんなことをさせてくれる相手じゃなかった。やっと分かったのは、学内からアクセスしているってことだけ。
 そして警告表示が消える。

 思わず倒れそうになったけれど、どうにかこらえてきちんと、手順を踏んで交信を終えた。
 身体が汗でびっしょりだ。
 息が苦しい。
 戦場で太刀を振り回している方が、よほど楽だ。

「ただいま、遅くなっちゃってさ~。あれ、ルーフェ?」

 ロア先輩が戻ってきたけれど、立ち上がる気力もない。

「どしたの!」
「交信してて……誰かに、追いかけられて……」

 やっとそれだけ言うと、すぐ先輩は事情を飲み込んでくれた。

「わかった。キミの端末どこ通ったか記録するようにしておいたから、あたしが足跡みてあげるよ。
 ――だから心配しないで?」
「はい……」

 少し安心して、立ち上がる。

「ルーフェはもういいから、寝るんだよ? かなり顔色悪いから」
「……すみません」
 ロア先輩が見てくれるのだからだいじょうぶ、そう自分を無理やり納得させて、あたしはベッドにもぐりこんだ。
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