上 下
151 / 743
第6話 立ち上がる意思

海原 Episode:01

しおりを挟む
◇Imad

 ルーフェイアのめちゃめちゃ強烈な膝蹴りから回復するのに、けっこうかかった。
 なんせ手加減してるっても、きっちり急所に決められちゃ、キツいなんてもんじゃない。

 まぁこれに関しちゃ、口滑らせた俺が悪りぃんだけど……でもあいつ、体型ガキなのは事実なわけで。
 とりあえずどこへ行ったかと思って、歩きながらあたりを見まわしてみる。

 ――あ、いた。

 向こうも気が付いて、少し手を振る。

 それにしたってなにがどうしたんだか、「あの」タシュア先輩といっしょだ。

 俺にとっちゃ信じらんねぇ話だけど、ルーフェイアは海に落ちた一件以来、あの先輩になついている。
 タシュア先輩を「いい人」って言うのは、おそらくあいつだけだろう。
 しかもよく毒舌食らって泣かされてるってのに、性懲りもなくついてくんだからたいしたもんだ。

 なんでそうなったのかこないだ聞いてみたら、診療所で寝てた時に、「お見舞いに来てくれた」ってことらしい。
 話の内容総合すっとシルファ先輩のほうはともかく、タシュア先輩はお見舞いってのにはなんか程遠い気はすっけど、当人はともかくそういう判断だ。

 で、ともかくルーフェイアはとことん甘いやつだから、タシュア先輩の評価をあっさり「いい人」に評価変えたらしい。
 バトルとなったら容赦がないけど、それ以外はあいつ、あきれるくらいに優しいっつーかお人好しだ。

 ――ま、それがいいとこなんだけど。

 それにバトル自体もぜんぜん好きじゃなくて、否応なしに身体が動くだけって、本人は言ってるわけで。
 もしシュマーなんてワケわかんない家に生まれなかったら、普通にガッコ行ってダチと仲良くして、それで終わりだったろうに。

 でも今はとりあえず、先輩に泣かされないうちに引き取るのが先だ。

「ったく、もうちっと手加減しろよな。――って、また泣かされたのか?」

 近づいてみたら、また涙のあとがついてやがる。

「人聞きの悪いことを言わないで下さい。私が泣かしたわけではありませんよ」

 どうにもこの先輩の言うこのセリフは信用ねーから、ルーフェイアのほうを見る。
 でもこいつも、肯定の表情でこっくりうなずいた。
しおりを挟む

処理中です...