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第6話 立ち上がる意思

海原 Episode:05

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 思い切って、一歩海の中へ入ってみる。

 冷たい感覚。
 波が流れていく。

 無限の回数続く、潮騒の音。

 きっとあたしが産まれる前……ううん、シュマーという家が生まれるずっと以前から、同じ音だったんだろう。

 ――この碧い海に訊いたらきっと、人が忘れてしまった昔も分かるのかな。

 その時、ふわりとあたしの視界を、影がよぎった。
 驚いてその影を追いかける。

 視線が行きついた先には、投げられたタオルを鮮やかに受け取った女子の先輩。

 まとめあげた艶やかな長い黒髪、紫水晶を思わせる瞳――この間お世話になった、シルファ先輩だ。
 背が高い上にスタイルがいいから、黒のシンプルな水着がよく似合ってる。

 シルファ先輩、タオルを羽織るようにしながら海から上がってきて、向こうへと歩いていく。
 そして投げた人――もちろんタシュア先輩――と、話し始めた。

「なに見てるの?」

 不思議に思ったらしくて、ナティエスが訊いてくる。

「うん、ほら」
「あ、シルファ先輩じゃない。やっぱり素敵だなぁ……」
「あの先輩さぁ、いつ見てもカッコいいよね~♪ スタイルもすっごいいいし~♪♪」

 ミルも隣へ来てはしゃぎ始めた。

「しかもさ、いつも美男美女で並んでるんだもん。もぉサイコー!」
「いつも?」

 仲が良さそうなのは知ってたけど、そんなにだとは思わなかった。

「あれルーフェ知らないの? シルファ先輩、タシュア先輩のカノジョだよ」
「有名だよね、その話」

 二人が言うところを見ると、学院内じゃよく知られてるみたいだ。

「ケーキ、だけじゃないんだ」
「ケーキ?」

 ナティエスがなんのことか分からない、という顔をした。

 ――そういえば例の話、イマドとロア先輩しか知らないんだっけ。

 ナティエスたちには、なんだかタイミングを逃して、けっきょく言ってなかったはずだ。

「えっとね、その……前に診療所で寝てたとき、あの先輩がケーキ……持ってきてくれて」
「うそぉ、いいなぁ!」
「それ、羨ましすぎかも」

 二人が声を上げる。
 よく分からないけど「シルファ先輩のケーキ」は、特別なものみたいだった。

 でも確かに、なにが入っていたのかはいまだに分からないけれど、とてもおいしかったのは事実だ。

「あたし……ちょっと、行ってくる」

 もう一度きちんと、先輩にお礼が言いたい。

「なになに、ルーフェイアったらシルファ先輩のとこ行くの? んじゃあたしも~♪♪」
「あ、抜け駆けとかずるい。あたしも行く」

 結局三人で行くハメになった。

 ――あ。

 少し近づいてみたらタシュア先輩、感じがいつもとぜんぜん違う。
 なんと言ったらいいんだろう……そう、すごく穏やかな感じ。

 シルファ先輩がタシュア先輩にとってどういう人か、やっと分かってなぜか嬉しくなって、もっとそばまで行く。
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