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第7話 力の行方

反撃 Episode:07

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「殿下、下がってていただけますか?」

 重厚な作りの木製のドア。
 実は外からカギがかけられていて、見張りが合言葉を言った時だけ、開けてもらえるようになってた。

 つまり今は開かない、ということだ。

 普段だったら簡単に魔法で破壊するところだけれど、今は殿下を巻き込めないから、その方法はムリだった。

 ――とすると。

 ドアの前で呼吸を整えて集中する。憑依させっぱなしの精霊に意識を向けて、その力を呼び出していく。
 限界まで集中して狙いを定めて……。

「哈っ!」

 一点めがけて蹴りを入れると、思惑通り中央部が割れた。あとは2、3回蹴飛ばしただけで、脱出口が出来あがる。

 ――これで本当に、閉じ込めた気でいるんだもの。

 いつでも出ていけるの、気が付かなかったんだろうか?

 周囲の気配に気を配りながら、あたしが先に出る。
 幸い辺りには、廊下を曲がった先も含めて、気配はなかった。

「殿下、どうぞ。今なら大丈夫です」
「あ、ああ……」

 なんだか呆然としている殿下を、部屋の外へと促す。いつまでもこの部屋に留まっていたら、よけいに危ない。

「で、どっちへ行くんだ?」
「どこにも行きません」

 そう言いながら、あたしは隣の部屋のドアを開けた。

 勝手知ったる場所ならともかく、これだけ広い他人の家をウロウロしたら、迷うのがオチだ。
 何より救出に来るはずの先輩たちと、行き違ってしまうだろう。

 だから隣の部屋辺りに潜んでいるのが、この場合は妥当だ。
 他に手段がないならまだともかく、殿下を危険にさらすわけにはいかない。

 部屋の中へ入って、鍵はかけずに扉だけ閉める。それからそっと窓へ忍び寄って、外を覗き見た。

 ここからは建物の陰になってしまってるみたいで、外の様子はよくわからない。
 でも時々爆発音まで聞こえるから、陽動部隊はそうとう派手にやってるらしい。

 この調子なら救出隊――きっと二手に分かれてるはず――は、じきに来るはずだ。

「あ、殿下。えっと……掛けて、待っててください。 あたしはこれから、外へ行ってきます」

 けど、答えがない。

「殿下?」
「お前たちはいつも、こんなことをしているのか」

 厳しい声。

「こうやって人を殺すことばかり覚えて……学院というのは、いったいなんなんだ!」
「――そのシエラ学院の傭兵隊を、アヴァンは頼りにしています」

 そう言い返せたのはたぶん、学院をそんな風に言ってほしくなかったからだろう。
 あたしにとって学院は――夢、そのものだ。
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