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第7話 力の行方

反撃 Episode:08

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「それにご存知のとおり、学院生のかなりの人数が、親と縁の薄い者ばかりです。
 あそこへ行くことがなかったら、もうとっくに死んでいたかもしれない。そんな人ばかりなんです」

「………」

 殿下が言葉に詰まる。きっとそんな世界は、想像を遥かに超えているんだろう。

 でも、事実だった。
 シルファ先輩も、エレニア先輩も、ロア先輩も、シーモアも、ナティエスも、みんな親なし子だ。

「これがいちばんいい……そうはあたしも言えません。けど、生きられただけ、衣食住に困らないだけでも十分なんです」
「だが……」

 殿下の言いたいことも分かった。けど学院生のほとんどは、ほかに選択肢を持たなかったのだ。

「……殿下」
「なんだ」

「もし殿下があたしたちをそのように思われるのなら……貧しさと戦争とを、なくしてください。
 それがなければこんな目に遭わずに済んだ、それが殆どなんです――孤児は」

 分かってる。これがそんな簡単に無くせないことなんて。
 ただそれでも、言わずにはいられなかった。

 たぶん……殿下に知ってほしかったのだ。

 今はもう権力を失ったとはいえ、神聖アヴァン帝国の末裔というだけで、そうとうの影響力がある。
 だからこそ分かってほしかった。

 自分ではどうすることもできずに、戦争の中や社会の底辺で潰されていく子供たちがいることを。
 明日の夢を、強引に断ち切られる命があることを。

 ――奇妙に長い、僅かな沈黙。

「……わかった。そうしよう」

 それが殿下の答えだった。

「実を言うと――」
「殿下、ルーフェイア!」

 なにか言いかけた殿下の言葉に重なったのは、エレニア先輩の声だ。

「先輩、ここです!」

 大声ではないけれど分かるように答えて、そっとドアを開ける。

「無事なのね?」
「はい」

 思っていたよりずっと早く、先輩とシーモアとが来てくれた。すぐに殿下を引き渡す。

「ルーフェイア、こっちからシルファ先輩たちがくるから、行って合流してくれるかしら?
 私たちは殿下と一緒に、もと来た道順で外へ出るわ。そうそう、これ、あなたの太刀よ」

 つまり、あたしに単独で陽動をやれと言うんだろう。
 もっとも屋内にいた敵のうち、かなりが出払ってるみたいだから、別にムチャを言っているわけじゃない。

「了解しました。できるだけ派手にいくようにします」

 使い慣れた太刀をうけとりながら、先輩に答える。
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