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第7話 力の行方

帰還 Episode:02

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「教えてやるって。それよりなんか、アヴァンじゃ大変だったらしいな?」
「ううん、たいしたこと、ないの。ちょっと誘拐されただけ」

 言った途端、イマドが呆れ顔になる。

「おまえなぁ、誘拐をンな簡単に言うなって」
「え? でも、ホントにたいしたこと、なかったし……」

 閉じ込められたうちにも入らないような誘拐なんて、物の数にも入らないだろう。それよりもあたしとしては、爆弾テロのほうが許せなかった。

「もう、あんなこと……ないと、いいんだけど」
「ホントだな」

 そこへシーモアたちが来た。

「イマド、話してるとこ悪いね。ルーフェイア、ほらこれ」
「へぇ、似合ってるな」

 彼女が差し出したの、例のみんなでドレスを着た時の写影だ。

「シーモアも別人みたいだな。っててめぇ、危ねぇな、殴るなよ!」
「自分の言葉に責任くらい、持つんだね」

 シーモアに、なんだかちょっと腹が立つ。
 確かにイマドも口が悪かったけど、シーモアもシーモアだ。何もいきなり殴ったり、しなくていいのに……。

「ってこれ、シルファ先輩か? よくあの先輩が、こんなもん着たな~」

 幸いたいして痛くなかったみたいで、また写影を手にしたイマドが感心する。
 でも中央に写るシルファ先輩、ほんとにどこかの令嬢みたいに綺麗だ。

 ――そうだ。

 いいことを思いつく。

「ねぇ、これ……余ってる?」
「ん? ああ。知り合いの先輩に頼めば、何枚でも焼いてくれるよ」
「じゃぁ、ひとつ余計に……もらっても、いい?」

 そう訊くと、シーモアがうなずいた。

「でも、どうするのさ?」
「えっと……タシュア先輩に、あげようと思って」

 なんとなくだけどシルファ先輩、ドレスを着たなんて言わない気がする。

 ――こんなに綺麗なのに。

 透明な板――昔は球状だった――の中に浮かび上がる、ちょっと恥ずかしそうな先輩。
 いま見ても、薄紫のドレスはとっても似合ってる。

 それを手にして立ち上がった。

「泣かされんなよ」
「だいじょうぶ、先輩……いい人だから」

 突っ込むイマドにそう答えて、教室を出た。
 少し離れた、先輩の教室のところまで行く。

 ――いるといいんだけど。

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