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第8話 言葉ではなく

知らせ Episode:20

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「ともかく一段落だな。ったく昨日から、大騒ぎだぜ」
「そうだね」

 コイツの相手しながら、さてどうしたもんかと考える。

 ただあのウィンってガキ、やり方によっちゃ役に立つかもしんない。
 なんせ出身がスラムだ。これ以上の案内役はいねぇだろう。

 と、ここに襲った連中の仲間が居ないかって訊かれた気がして、俺は答えた。

「あ、それはねぇと思うぜ。俺らが昼間とっ捕まえた連中で、全部だったからな」
「え?」

 ルーフェイアのヤツの、驚いた顔。

 ――やべぇ。

 久しぶりに、血の気が引いた。

 一部の家系には時々、念話が出来るヤツが出る。
 で、詳しい事は分かんねぇけど、俺の母親がこの家系だったらしい。

 それを継いじまったのか、俺も同じことが出来た。
 っても、相手もそういうヤツじゃなきゃ話できねぇし、ふだんも稀に、相手の考えてる事が聞こえるくらいだ。

 ただ、この手の能力はものすごく嫌われる。

 だからいつも、かなり気を付けてたワケだけど……ボケっとしてたせいでルーフェイアが「言ったこと」じゃなくて、「考えてる事」を聞いちまったっぽかった。

「いやその、なんとなくそう思っただけでよ……」
「――うそ」

 珍しく、こいつが間髪入れず言い切る。

「読んだ……よね?」

 ごまかそうかと思ったけど、こいつの瞳を見てムリだと悟った。何が起こったかコイツ、ちゃんと分かってる。
 なんか言おうと思ったけど、言葉が出て来なかった。

 と、ルーフェイアのヤツと瞳が合った。
 どっか怯えた、泣き出しそうな表情。

 ――そりゃそうだよな。

 こんな薄気味悪りぃこと、受け入れられるほうがおかしい。
 碧い瞳に涙が浮かんだ。

「その、イマド、ごめん……」
「だからなんでそこで、お前が謝って泣くんだよ」

 いつもの事とはいえ、こういう状況でってのは予想外だ。

「ごめんなさい……」

 聞こえてねぇし。

「いやだから、別にお前悪くねぇだろ」
「だって、あたし……イマドが、言われたくないこと……」
「はい?」

 意味不明にもホドがある。

 けど、表情見て気づいた。怯えてる理由は俺に読まれたことじゃなくて、「嫌われたかもしれない」ってほうだ。

 なんでそうなるかかなり謎だけど、俺が黙った事を、自分が悪かったと思い込んだらしい。

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