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第8話 言葉ではなく

知らせ Episode:21

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「言われたくねぇってか、要するに俺の不注意だし。
 てかおまえ、なんですぐ分かった? 普通じゃこれ、ヘンだとは思っても、何が起こったかはわかんねぇぞ」

 これも不思議だった。

 じつ言えば、今みたいなうっかりは、何度かやったことある。
 ただ考えを読まれてるとか、たいていは考えつかねぇから、テキトーな言い訳で話はいつも終わってた。

「まさかおまえ、出来るとか言わねぇよな?」

 さすがにないだろうと思いつつ、言うだけ言ってみる。
 ただルーフェイアのヤツ、すぐ気がついただけあって、答えがもっと度外れてた。

「ううん、あたしは出来ないけど、母さんも姉さんもそうだから……」
「――はい?」

 さすがに聞き返すと、ルーフェイアのヤツがたどたどしく、説明始めた。

「えっと、だからその、うちって……アレでしょ。そのせいか、一族のかなりが、そういう人で……」
「……お前の家が並みじゃねぇの、忘れてたぜ」

 考えてみりゃ、あのシュマーだ。そんなもんが人並みなほうがおかしい。
 お袋の家系以上に、変わった連中が居てもいいくらいだ。

「要するにお前にしてみりゃ、当たり前ってことか」
「うん」

 なんか力が抜けた。
 気ぃ遣ってた自分が、妙に情けなくなる。

「ねぇ……やっぱりイマドも、母さんみたいに分かるの?」
「お前のお袋よく知らねぇから、なんとも言えねぇけど。
 ――けどなぁ」

 なんとなく頭を掻きながら、続ける。

「最初からそうと分かってりゃ、こんなに気なんか使わなかったぜ」
「ご、ごめん……」
「そこで泣くなって」

 また泣き出したコイツに苦笑する。ホントに甘ったれで泣き虫だ。

「ま、俺の場合そゆこと。
 なるたけ使わないようには気をつけてんだけどよ、隣の席の話が聞こえるのと一緒で……けっこう聞こえちまう時あってさ。
 悪りぃな。もしヤな時は、はっきり言ってくれていいぜ」

 肩の荷が下りた気分で言う。やっぱ隠さないで済むってのは、楽だ。
 ただ、返ってきた答えは予想外だった。

「あのね、いいよ。平気」
「何がだ?」

 一瞬だけ戸惑ったけど、すぐ理解する。
 こいつは最初から、考えてる事を隠す気なんて、なかったんだろう。

「サンキュな」
「ううん。
 だって知られて困ること――ないもの」

 何の気負いもなく微笑むこいつの頭を、俺はつい撫でた。
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