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第8話 言葉ではなく

団欒 Episode:03

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「よろしければ、教えてもらえませんか?」
「ああ。さて、どこから話すかな……」

 快くゼロールさんが承諾してくれる。

「明日ここの連中が言う『祭り』――つまりは抗争なんだが、それがあるのは知ってるだろう?」
「はい」

 知らないわけがなかった。
 それがあるからこそ、シーモアたちもあたしたちもここへ来たのだから。

「俺はずっと、このスラムを取材してるんだ。
 なにせ同じシティに住んでながら、外の人間はここをないものとして扱ってるからね」

「そうなんですか……?」

 あたしはベルデナードには、時々ホテルを使って滞在した程度だから、そのあたりの事情は全く知らなかった。

「自分の汚いとこを見せつけられるみたいで、嫌なんだろうな。
 ともかく俺はそんなのがまた嫌で、ここをいろいろ取り上げてるんだ」

 そのせいで所属していた新聞社を辞めさせられて、今はフリーなんだという。

「だからこの抗争の話も、わりと早くから耳にはしてたんだ。
 で、すぐに聞き込んだりしてみてね」

 そこでゼロールさんは一回言葉を切った。

「そうしてるうちに、妙な話が聞こえてきたんだ」
「妙な話、ですか……?」

 わざわざこう言うからにはよほどなんだろうけど、見当がつかなかい。

「その、どんな……?」

「双方のチームの子供がそれぞれ殺されてるんだが、それをやったのが中年の男性だって話でね。
 でもどっちのチームにも、せいぜい二〇歳前後までしかいないんだよ」

「え?」

 どちらのチームにも該当者がいないのなら、その中年男性は全く関係ない人ということになる。

「それじゃ、さっき聞いた『縄張り争いの腹いせ』っていうのは……?」

「まぁシマ争い自体はあったんだろうけどね。
 ただ子供が――あ、すまない」

 話の途中でゼロールさんが立ち上がって、ここの子に席を譲った。

「お姉ちゃんも、ちょっといい?」
「ごめんね」

 慌ててあたしもソファから立ち上がる。

 どいた後へはここの子たち――あたしより年上の人もいる――が数人、教科書とノートを広げて座りこんで、話が打ち切りになった。

「宿題……?」
「ああ」

 後ろから見てみると、歴史だった。

 ――あ、この問題。

 シュマーの人間が絡んだ戦争だから、かなり詳しく聞かされるところだ。
 けどあたしよりは二つくらい上の男の子は、歴史が苦手みたいで考えこんでいる。
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