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第8話 言葉ではなく

団欒 Episode:14

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「その、父さんをご存知なんですか?」
「お前の親父、顔広いな~」
「父さんって……まさか娘さん?!」
「お前、娘がいたのか。けど確かに似てるな」

 嘘みたいだけど、みんな父さんと面識があったみたいだ。

「娘のお前が知らねぇわけねぇけど、ダグさんとゼロールさんは、なんで知ってんです?」

 イマドが訊く。

「俺は戦場で。もう10年以上も前に、俺が取材で同行したとき、その部隊に彼がいてね。
 で、なんとなく気が合って、そのまま今まで付き合ってるんだ」

 ウィンを抱いたままゼロールさんが、そう答えた。見かけによらずこの人、すごい場所まで取材しているらしい。

「なる……。んじゃダグさんは?」
「俺らのチームの大先輩だよ、ディアスさんは」
「え……?」

 初耳だった。
 けどチームの先輩って言うことは……。
「父さん、このスラムの出身だったの?」

 びっくりして尋ねると、父さんがすました顔でうなずく。

「――それより、医者だろう」
「え? あ、うん」

 痛み止めのせいで、ウィンが痛がらないからうっかりしていたけれど、早く診てもらうにこしたことはない。

「えっと、ここからいちばん近い病院って……?」
「俺が連れて行こう。スタッフにも知り合いが多いから、何かと便利だろうし」

 悩んでいると、ゼロールさんが引き受けてくれた。

「二丁目の病院に行くから、この子の仲間にそう言ってやってくれ」
「はい、分かりました」

 イマドは、別のことに気を取られてた。

「こいつら調べりゃ、どこの誰が襲ったか分かりそうだな」

 相変わらず死体を覗きこみながら、イマドが面白そうに言う。

「生きてりゃもうちょっと、楽に分かんだけどな。けどまぁ、死体もどうにか……」
「イマド、下がって!」

 嫌な気配を感じて、あたしは叫んだ。
 同時にイマドに、防御魔法をかける。

「へ?
 ――っとやべぇ!」

 割合近くに倒れていた二つの遺体と、その周囲がいきなり燃え上がる。
 かなりの高熱だ。

 でも下がるのが早かったのと魔法が間に合ったのとで、イマドにはケガがなくて済んだ。

「ったく危ねぇなぁ。どういう仕掛けだよ!」

 炎が収まるのを待って、もう一度近づいた彼が毒づく。

「たぶん……誰か他に、仲間がいたんだと思う」

 あるいは、監視役か。

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