上 下
311 / 743
第8話 言葉ではなく

団欒 Episode:13

しおりを挟む

 ――させないっ!

 大きく踏みこみながら、男の腕めがけて太刀を振り上げる。
 でも刃が達する前に、男がくずおれた。男が持っていた短剣が石畳に落ちて、乾いた音を立てる。

 背に、ナイフが突き立っていた。

 残る男たちも、ひとりは死の呪文で、もうひとりはあたしの小太刀で絶命している。
 あたし、また……。

「ルーフェイアっ!」

 そこへやっと――と言っても最初から数えてもほんのわずか――イマドが来る。

「大丈夫か?」

「うん。片付いたわ。
 ――ウィン、大丈夫?」

 たぶんさほどではないと思うけれど、心配だった。

「ちきしょ~、いてぇ……」

 痛がるウィンに急いで駆け寄って、傷を診る。
 ――よかった。

 逃げようとしていて、まともに切られなかったのがよかったのか、命に関わるような傷じゃない。

「ちょっと動かないでね」

 回復魔法を唱えると、流れていた血が止まった。
 ついでに持ち合わせの痛み止めを打ってあげて、応急手当の代わりにする。

「あとは魔法で治すより、病院へ行ったほうが……」

 魔法は便利だけど、本来の治癒能力を強引に高めているに過ぎない。
 戦場のような緊急事態ならともかく、普段はなるべく使わないほうが良かった。

「俺、もうダメ、息、あがった」

 ダグさんにさらに遅れて、ゼロールさんがここへ来る。

「あの、おふたりとも、大丈夫ですか?」
「あんたにそう訊かれちゃ、かたなしだよな……」

 ダグさんが苦笑いした。

「にしてもこのナイフ、誰が投げたんだ?」

 向こうではイマドが、倒れた男の人の背を見て、不思議がっている。

「かなりのウデだぜ、これ投げたの」
「そうだね」

 ウィンをゼロールさんに預けて、あたしも見てみた。
 投擲専用の物が、正確に背中から心臓を突き刺していて、男は即死だ。

 でも、このナイフ……?

 精緻な彫刻が刃の付け根に施されているけど、それに見覚えがある。
 もし記憶違いじゃなければ……。

「――私だ」

 路地の奥から声がした。
 予想通り聞き覚えがある声だ。

「――父さん?」

 そう呼ぶと、見慣れた姿が現れた。

「え、ディアスさん?!」
「誰かと思えばディアスじゃないか」
「あ、ルーフェイアの親父さん」

 他の三人からも一斉に声が上がって、思わずあたしたちは顔を見合わせた。

しおりを挟む

処理中です...