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第8話 言葉ではなく

交渉 Episode:09

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◇Caleana

 レードがあたしを連れてったのは、確かに感じのいいバーだった。
 入り口はちょっと分かりにくいけど、中へ入っちゃうと案外広いし落ちついてるし。

 で、ここに放り出されてから、かれこれ2時間ちょっと。

 ――ったく、いつまでかかるのよ。

 いくら飲み代がタダったって、退屈ったらありゃしない。
 しょうがないからここの女主人と喋って、時間つぶしてる。

 ちなみに彼女、薄い茶色の髪に透き通った若葉色の瞳。
 しかもバーの女主人ってのがしっくりくる雰囲気。

「でさ、その偉いさんときたらね~」
「うんうん」

 あたしの話ってどういうわけか、どこ行ってもウケるのよね。
 今もこの人、けっこう面白がって聞いてるし。

「それにしても、その年で現役の傭兵なんて凄いじゃない?」
「そんなことないわよ。うちじゃあたりまえだもの」

 だいたいがうちの一族の食いぶちは、これと研究成果の専売とで稼ぎだしてる。

 けどこの人――名前はレニーサって言うそう――ほんと話してて楽しい。
 もっとも見かけはけっこう大人しそうだけど中身は……ってやつね。そんなのは見てれば分かる。

 ま、その手の人間ときたら、うちのサリーアにかなうのは、いないだろうけど。

「それにしても、レードったらいったい誰を探してるの?」
「あたしの娘」

 一瞬店の中が静まり返る。

「娘……??」
「言っとくけど、すっごい美少女なんだから」

 再び沈黙。
 いつものこととは言え、どうしてあたしがこう言うと、毎度周囲が沈黙するのかしらね?

「ま、まぁ、あなたが言うんだからそうなんだろうけど……」

「あ、信用してないでしょ。
 ともかく嘘じゃないわよ。あれを美少女といわずして――」

 信じてくれないもんだから、思わず力が入っちゃう。

「わかった、わかったわ。
 けど今日は、人探しが流行る日ね」

「はい?」

 彼女が言った言葉が一瞬飲み込めなくて、思考停止する。
 ちょっと待ってね、ちゃんと考えるから……。

「もしかして他にも、誰か尋ね人してたわけ?」

「ディアスが――って、久しぶりに来た昔馴染みだけど、彼も女の子を捜してたわね。
 会えたかどうかは分からないけど」

 えーと、彼がわざわざここへ顔を出したって言うことは。

「ここって、ディアスのねぐらだったんだ」

 確かにこういう感じのとこ、彼ったら好みだし。
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