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第8話 言葉ではなく

交渉 Episode:10

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「そんなとこね。
 それよりあなた、彼を知ってるの?」

「知ってるもなにも。
 けどレニーサ、ディアスってばいいでしょ♪」

 とたんに店の中が、深夜の僻地みたいに静まり返る。
 そのあときっかり二呼吸は間を空けて、彼女がようやく声を出した。

「そりゃ、悪いとは言わないけど――。
 じゃなくて、あなたディアスとどういう関係?」

 レニーサの視線が、極地の雪原みたいに冷たい。

 ――うーん、また誤解されちゃったかしらね?

 とりあえずそのまま放っとくのもなんだから、説明することに。

「あたしね、いちおうディアスのダメ女房♪」

 彼女が目と口を丸くした。
 次いで、やおらグラスを磨きはじめる。

「ああもう! どうりで居着かないわけよねっ!!」

 ――あたし、なんか悪いこと言ったかしらね?

 ともかく彼女、親の敵みたいにグラスをこすってる。

「……そんなに力入れたら、グラス割れるわよ?」
「二つ三つ割らなきゃ気が済まないわ!」
「もったいないじゃない……」

 せっかくいいグラスなのに。

「ともかくやめなさいって。割るんだったらあたしが持って帰るわ」
「――あなた、意外とみみっちいのね」
「みみっちいって……」

 もったいないものは、もったいないと思うんだけど。
 それより。

「よかったらディアス、貸すわよ?」

「お金じゃあるまいし。
 だいいちいくらあたしだって、人様のものに手をつけるほど、あさましくないわよ」

「あ、気兼ねしなくていいのよ~。
 どうせあたしら、二人で好き勝手やってるんだもん♪」

「――どういう夫婦よ」

 これ、よく言われるけど……なんでかしらね?

「ま、気にしないで♪」

 それからあたし、ちょっと真剣になって彼女に訊いた。

「ねぇ、このスラムで近々、なにかあるの?」

 実はここへ来ることになったのは、ディアスが言い出したから。

 あの子がスラムに来るって話を訊いたロシュマーの連中が人を用意しようとしてたんだけど、そこに珍しく横槍入れて、彼ってば来たのよね。

 そりゃ、ルーフェイアが心配なのはわかる。
 でもロシュマー連中の洗い出したここの情報見て飛び出したから、それだけじゃないはず。
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