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第8話 言葉ではなく

交渉 Episode:11

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「ちびちゃんたちの抗争があるのは、あたしも一応聞いてる。
 けど、それだけじゃないんでしょ?」

 こう言うとレニーサが躊躇った。

「ちょっと部外者に言うわけにはね……」

「お願い、教えて。
 うちの娘と、その友達が絡んでるのよ」

「娘さんが?」

 一瞬だけ、レニーサが間をあけた。
 そしておもむろに口を開く。

「まぁ、あたしもそれほど細かいこと、知ってるわけじゃないのよね」
「それでいいわ」

 なんにも状況がわかんないのに比べれば、ずっとマシだろうし。
 わかった、と言ってレニーサが話し始める。

「祭りがあるのは知ってるって言ったわよね。そうしたら――原因、聞いてる?」
「ぜ~んぜん」

 ――やぁね、そんな呆れた顔しなくたっていいじゃない。

 ともかくレニーサったらひとつ溜息ついてから、気を取りなおしたみたいに話を続ける。

「双方のチームのちっちゃい子を、互いに殺っちゃったのが原因なのよね」
「ちっちゃい子って、まさかよちよち歩きの子?」
「もうちょっと大きいけど、どっちも5歳くらいじゃないかしら」

 気が滅入るような話。
 世の中何がイヤって、子供が死ぬのくらい嫌なものってないもの。

「――ここもシビアなのね」

「そう言うのかしら?
 でももともと、このスラムじゃこういうことはご法度だし、だいいち普段はちゃんとしてるあの子たちがどうしてそんなことしたのか、まるっきり見当つかないんだけど……」

「じゃぁ何? なんの怨みか知らないけど、双方でご法度破ってやりあってるわけ?」
「そうなっちゃうわね」

 なんてことかしら。
 そりゃ怨みが嵩じてやりあうっていうのは、古今東西ありきたりなパターンだろうけど……。

「自分たちだけにしておけないのかしらね?」
「そこ、あたしも腑に落ちないのよ。それでいろいろ、探ってみたんだけど……やっぱり裏がありそうなのよね」

 どうやら、思ってたより状況が複雑みたい。

「ただあの子たち、もともと仲は良くないのよ。というか、『悪い』って言ったほうが正解ね」
「なるほどね……まんまと乗せられたんだ」

 確かに最初からチーム同士が仲が悪かった場合は、そこにいる人間はどうしたって無条件で相手を嫌うようになる。
 で、みごとにそこを突かれた、ってことみたい。
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