上 下
356 / 743
第8話 言葉ではなく

追跡 Episode:05

しおりを挟む
「お~ふた~りさん♪」

 ひょいっとウィンが顔を出してきた。しかもにこにこしてやがる。

「兄ちゃん、すっかりだね♪」

 ――このませガキ。

「やったじゃん、こんな綺麗なねぇちゃん相手でさ」
「お前にはやらねぇからな」

 間じゃルーフェイアが、きょとんとしてる。
 なにをどうやっても鈍いこいつには、このやり取りの意味がわかってない。

 で、妙なことを言い出しやがった。

「……ウィン、何かいいことあったの?」
「いいことって……どうしてそうなるんだよ……」
「だって、なんかにこにこしてるから……」

 ウィンのやつが見事なくらいに沈黙する。
 もっともこんくらい鈍くなきゃ、あんなふうに俺にくっつけないだろう。

「そ、そう言う意味じゃなかったんだけどな……。
 とりあえず、武器」

 どうにもリアクションの取れなくなったウィンが、間を持たせようと武器を差し出した。
 さっき俺らが預けておいたやつだ。

「悪りぃな」
「ありがとう」
「別に~。オイラ、持ってただけだもん」

 口ではそう言いながら、ウィンのやつは嬉しそうだった。
 自分が役に立ったってのがよかったんだろう。

 それにしてもやっぱりこれがないと、今ひとつ落ちつかない。
 ルーフェイアもその辺は俺と同じかそれ以上らしくて、しっかり握ってやがった。

「今さ、みんながあいつ、尾けてるんだ。
 で、連絡あるまでオイラたち、レニーサさんのお店へ帰ってろって」

「そうか」

 確かに俺らじゃ、これ以上はなにも出来ないだろう。

「さっさと行こうよ。オイラ、冷えちゃった」
「んじゃ向こう着いたら、なんかあったまるもん作ってやるよ。何か欲しいもんあるか?」

 ウィンがいっちょ前に腕組みしながら考えこんだ。

「んと、なに頼もうかな……」
「イマド、あたし、さっきのスープ……」

 意外にも、ルーフェイアの方からリクエストが出る。

「さっきのって、ナティエスが作ってたやつか?」
「――うん」

 こいつがわざわざ言うなんざ、よほど気に入ったんだろう。

「よし分かった。
 レニーサさんのとこに材料あるかどうかわかんねぇけど、どうにかして作ってやるよ」

「え、じゃぁオイラのリクエストは?」
「後だな」
「ひっで~!」

 騒ぐこいつは放っておいて、俺らはレニーサさんの店へ向かった。
しおりを挟む

処理中です...