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第8話 言葉ではなく

追跡 Episode:06

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 ◇Seamore

「イマドってさ、よくわかんないよね」
「それだけ食わせモンってことさ」

 イマドのヤツがうまいことやって、売り上げ持って走るヤク売りを、あたしらはつけてた。

 っても普通の尾行じゃない。

 こっちもそうだけど、向こうだってこの辺にはそれなりに詳しい。だからちょい、変わった方法をとった。
 うちらのチームと向こうのチーム、総勢60人近くを二人組みで、要所要所の街角に立たせるって方法だ。

 最初の組が顔を確認したら二手に分かれてひとりが尾行、もうひとりは裏道を通って、次に行きそうな場所へ待機してる組へ知らせる。あとはこの繰り返しだ。

 この方法だったら次々尾行が変わるから気付かれにくいし、見失う確率もかなり低い。
 万が一予想と違う方向へ行ったとしても、尾行してるほうが次の連中に知らせるだけだ。

 それに手の空いた連中を使って、関係ない方向に待機してる連中を集めることもできる。
 大人数ならではのやり方だ。

 ――ま、学院で教わったやり方だったりするんだけどね。

 そう言や学院の規定になんか、「学院内で習ったことを学外では~」とか言う項目があった気もするかな?
 まぁどっちにしたってバレやしないだろうから、今回は無視だ。

「ナティ、あいつ五丁目へ行くんじゃないか?」
「そんな感じだね」

 あいつが妙なところへ入ったのを見て、うちらはすぐに感づいた。
 他の場所なら、この敷地内をわざわざ突っ切ったりしない。

「そしたらナティ、先回りして知らせてくれ。
 あたしはこのままつける」

「わかった。気をつけてね?」

 ふわっとナティが駆け出した。

 ――やっぱこいつ、度胸あるな。

 つけてる相手を追い越すなんざ、そうそうできる芸当じゃない。

 けどナティのヤツは「ちょっと急いでる」ふうで駆けてって、あっさり追い越してみせやがった。
 その姿が、敷地の向こうへ消える。

 あたしはそのまま後をつけた。

 ずっと昔に「なんとか開発計画」で建てられたって言う、二棟づづ向かい合わせに並んだ古アパートの間は、やけに見通しがいい。いちばん見つかりやすい場所だろう。

 もっともここは抜け道になってるせいで、それなりに人通りがある。
 やたら近づきさえしなけりゃ、あたしもただの通行人だ。

 案の定ガキのヤク売りは、五丁目の方へ抜けた。
 あとはここを抜けた先のT字路をどっちへ行くかだけど、当然そこは要所だから仲間が居る。
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