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第8話 言葉ではなく

追跡 Episode:07

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 ――割合簡単だったじゃん。

 もうちょっとややこしいことになるかと思ったけど、予想が当たったせいで簡単に片付いちまった。

 敷地を抜けて、また裏路地へ入る。
 この辺は同じスラムでもショッピングモールに近いせいで、雰囲気は歓楽街だ。

 問題のT字路までは、もう目と鼻の先だった。
 待機してるヤツや、ナティがいるのまで見える。

 けど、その時。

 後ろに気配を感じて、とっさに前へ身体を投げ出す。
 さっきまであたしがいた場所を、何かが薙いだ。

 もっともあたしだって、そうそう負けちゃいられない。なにせこっちは学院生だ。

 勢いを利用しながら手を付いて前転して、その反動で上手く起き上がる。ついでにその時には、愛用?の短銃が手にあるって寸法だ。

 そしてそのまま後ろは見ずに、カンで数発撃った。
 押し殺したみたいな悲鳴が上がる。

 ――殺ったか?

 特製の弾仕込んどいたのがよかったらしい。
 警戒したまま、あたしは初めて後ろを向いた。

 ここらじゃあんまり見かけない服装の男が、顔から胸にかけて弾を受けて倒れてやがる。
 バカとしか言いようがないけど、あたしが子供だと思って油断したんだろう。

 でもとどめを刺そうとしたその時、また気配を感じた。
 こんどはとっさに横に避ける。

 ――って、うそだろっ!

 飛び退いた先にもうひとり剣――というか、これは青龍刀って類か?――を構えてるなんざ、よほど運が悪いとしか言いようがない。

 さすがにケガは覚悟する。
 青龍刀が振り下ろされた。

 ――?

 刃が来ない。
 代わりに激しく金属がぶつかり合う音。

「いい大人が、子供相手になにやってんのかしらねぇ?」

 この状況じゃ呆れるしかないほど、のんびりした調子の声が降ってきた。
 目の前を金髪が踊る。

「ルーフェイアの……?」
「ケガないわね?」

 視線は連中から外さずに、この人が訊いてくる。

「あ、はい」
「よかったわ、間に合ったわけね」

 割って入ってくれたのは、ルーフェイアのお袋さんだった。

 そのうえウソみたいな話だけど、襲ってきたやつが持ってた青龍刀の刃が、すっぱり切り飛ばされてる。
 この人が持ってるのは、青龍刀なんかに比べたらオモチャみたいにしか見えない太刀だ。

――それで、あの分厚い刃を両断してみせたってのか?

 よほどの実力がなきゃ、こんなマネできっこない。
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