上 下
429 / 743
第9話 至高の日常

日常 Episode:12

しおりを挟む

「支払うって、4人分をか?」

 なぜかシルファ先輩が慌てる。

「この様子ですと、いつもミルドレッドたちに支払わされているのでしょうね」
「え、でもみんなが、お金がある人が……払えばいいって……」

 ケンディクに自宅があるミルはともかく、シーモアやナティエスは学院からの支給だけだから、外食のお金まで毎回払っていたらとても持たない。

「まったく。人の言うことを疑わないのも、ここまで来ると困ったものですね」

 けどタシュア先輩の言い方だと、とても悪いことをしてしまったみたいだった。

「あの、あたし何か悪いこと……?」

 心配になって尋ねる。
 イマドとシルファ先輩とが顔を見合わせた。

「まるっきり悪い……とは言わないだろうが……」
「っつーか、あの連中に見事に言いくるめられたような……」

 二人は理由が分かっているみたいだけど、あたしにはさっぱりわからない。

「ねぇ、何が悪いの……?」
「えーと、どう説明すりゃ……って、後じゃダメか? 話が込み入っちまうし、腹減ったし」
「あ、ごめん!」

 なんの話をしていたのか思い出して、あたしは謝った。
 これじゃいつまで経ってもお昼にならない。

「まぁどちらにしても、ルーフェイアが払わされる気もしますがね。
 ――ともかく今日は私が出します。後輩に払わせるわけにはいきません」

「え、でも、大丈夫なんですか?」

 シルファ先輩が躊躇うようなところで四人分も支払ったら、かなりの金額になるんじゃないだろうか?

 と、タシュア先輩があたしに視線を向けた。
 思わずすくみ上がる。

「出来ないことを私は言いませんよ」
「でも……」

 確かに先輩は嘘は言わないけれど、高額になった場合が心配だ。
 けどそんなあたしへ、シルファ先輩が言葉をかけた。

「ルーフェイア、私もタシュアも上級だから、ちゃんと学院から給料をもらっているんだ。
 だから心配しなくていい」

「あ……」

 言われて思い出す。

「その顔だと、完全に忘れていたようですね」
「す、すみませんっ」

 見透かされたような言葉に、またあたしは小さくなった。
 泣きたくなる。

「――早くその店に行きません?」
「――そうだな」

 イマドとシルファ先輩とがそう言って歩き出して、あたしも慌てて後についていった。
しおりを挟む

処理中です...