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第9話 至高の日常

日常 Episode:19

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◇Tasha Side

「――すまない。
 そうしたらイマド、もらっていいか?」

「どうぞ」

 仔竜のカードを手に入れたシルファは、嬉しそうだった。

 普段は気丈にしているが、やはり女子ということなのだろう。
 時折こうやって見せる彼女の無邪気な姿は、決してタシュアは嫌いではなかった。

 テーブルの向こう側では、イマドがぞんざいな調子でルーフェイアの頭を撫でている。

(気付いていないのですかね?)

 どう見ても「相手をしている」というよりは「適当にあしらっている」といった感じなのだが、当人は満足しているようだ。

 もっともこの後輩がルーフェイアを泣かしているのは見たことがない――どうやったらそうなるのかは不思議だ――から、これで十分なのだろう。

 それにしてもイマドは、案外食わせ物だ。
 この間ルーフェイアから得た雪の女王のカードを、どうにか取り返そうとしているのは気付いていたが、まさかこういう手段で来るとは予想しなかった。

 見た目の好青年ぶりとはうらはらに、その性格はけっこうしたたかと言える。
 またそうでなければ、ここまで上手く交渉できないだろう。

(まあ、構いませんが)

 実を言えばタシュアは、別段雪の女王のカードに思い入れはない。
 たまたまルーフェイアが使ってきたカードがそれだったというだけで、コレクションするつもりなどさらさらなかった。

「カードは今持っていませんから、学院へ戻ってから渡します。
 それでかまいませんね?」

「ええ、ぜんぜん」

 そう答えながらこの後輩は、時々ルーフェイアの長い金髪を、撫でるついでに軽く引っ張っている。
 だがそれでも、ルーフェイアの方は嫌がる様子もなかった。

(――よく懐いたこと)

 状況を理解しているのかいないのか、ともかくこの子は素直過ぎる。

「先輩すみません、ありがとうございます……」

 何度言われようがこうやって、自ら墓穴を掘るのだ。

「言う相手が、違うと思いますがね」
「ご、ごめんなさいっ!」

 また少女が瞳に涙を浮かべて、べそをかきはじめる。

(学習能力がないのですかね?)

 確かにルーフェイアは学院の学年主席だが、全体的に応用力に欠けていた。

 その上、自主的な行動力も乏しい。
 同じ育ちかたをしているタシュアから見れば、よくこれで戦場を生き延びてきたとしか言いようがなかった。
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