上 下
464 / 743
第9話 至高の日常

不審 Episode:08

しおりを挟む
「ルーフェイア、何かいい本は――?」

 言いかけて、シルファ先輩がこの男の先輩に気づく。

「何か、あったのか?」
「その、踏み台から落ちたんですけど、こちらの先輩に助けてもらって……」
「なんだって?!」

 今度はシルファ先輩があたしの前に立って、上から下まで一通り眺めた。

「あの、ほんとに平気なんです」

 なんだか恥ずかしくなって、慌てて言う。

「そうか? それならいいんだが」

 それからシルファ先輩が、この男性の先輩に向き直った。

「――この子を助けてもらって、済まなかった」
「いや、俺も別にそういうわけじゃ……。
 とりあえず用事もあるし、これで失礼するよ」

 どういうわけか、あたしたちが止める間もなく、その先輩は立ち去ってしまう。

「なんだったんでしょう……?」
「私に訊かれても……」

 シルファ先輩と二人で首をかしげたけれど、理由は分からずじまいだ。

 ――あとでイマドに、訊いてみようかな?

 こういうことは、彼はよく知っている。

「それより本当に、大丈夫だったのか?」

 まだ心配みたいで、シルファ先輩が尋ねてきた。

「あ、はい、大丈夫です。
 その……落ちたときに、さっきの先輩の上に、あたし落ちて……」

「そうだったのか。運が良かったな」

 ――そういう問題なんだろうか?

 何かが微妙に違う気がするけど……。

 でも床に落ちていたらアザくらい作っただろうから、やっぱり運が良かったのかもしれない。

「それにしても……どうして落ちたんだ?」
「あの本、取ろうと思って……」

 棚の上を指差す。
 引き出しかけたさっきの本は、落ちたりしないでまだその場所だ。

「――これか?」

 シルファ先輩は背が高いから、片足を踏み台の上に乗せただけで手が届いた。

「なんだか、難しそうな本だな……」
「ずっと発売延期になってた、本なんです」
「そうなのか」

 本を見ながら、なぜかシルファ先輩が感心する。

「先輩も、何か見つけたんですか?」

 その手にやっぱり本があるのを見て、あたしは訊いてみた。

「ああ、これか? 一応、新刊なんだが……」

 先輩が本を見せてくれた。
 タイトルは「光と闇の氾濫」、内容は何かファンタジー系の小説みたいだ。
しおりを挟む

処理中です...