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第9話 至高の日常

動揺 Episode:07

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「その、だから……あたし、その……」

 上手く言えなくてまた困っていると、今度は彼女が慌てた表情になった。

「も、申し訳ございません、何かお気に――」
「あの、そうじゃなくて……」

 どうにもならなくて困り果てる。
 ドワルディがそれを見て、少し笑いながら間に入ってくれた。

「グレイス様は、そんなに恐縮せずとも良いと仰っているのですよ」
「こんな私どもに、そんなお言葉を――!」

 説明を聞いた彼女の表情がもう一度驚きへ変わって、それからこの人がまた深く頭を下げた。

「どうぞ、なんなりとお申し付けください。
 このケイカ、命もグレイス様に捧げてお仕え申しております故」

「あの、それはいいから……」

 だいいち、そこまでしてもらっても……。
 そんなやりとりが可笑しかったのか、またドワルディが笑った。

「グレイス様がお優しい方だと、これで分かりましたか?」
「はい」

 優しいかどうかはともかく、あたしはどうやら「怖い」と思われていたらしい。

 ――姉さんなら、分かるけど。

 従姉のサリーア姉さんはシュマーの男性陣さえ震え上がらせる辣腕家だけど、あたしにはとても真似できない。

 あたしもああなら、いいのに……。
 姉さんならあたしと違って、シュマー家総領としての実力は十分だ。

「それでグレイス様、連絡をいつお取りになりますか?」

 ため息をついているあたしへ、ドワルディがもとの話を持ちかけた。

「えっと……すぐ、できるの?」

 彼の視線がちらりと、呼ばれた女性へ向く。

「問題ございません」

 彼女がはっきりと答えた。

「そうしたら、やってみて……もらえる?」
「了解しました」

 ケイカが目を閉じた。
 時間だけが過ぎる。

「ダメ、なの……?」
「いえ、接続はできています。ただ応答が――今、ありました」
「ほんとに?!」

 聞きたい。
 無事なのかどうか、今どうしているのか――。

「ねぇどうなの? イマド、大丈夫なの?」

「今訊ねますので、少々お待ちいただけますか。
 ――無事で、先輩方と一緒の部屋にいらっしゃるとのことですが」

「そう、なんだ……」

 ケイカの答えに、座り込みたくなるほどほっとした。
 とりあえずはみんな無事で……。

 彼女の視線が宙をさまよって、また何かをイマドに伝えているのが分かる。
 その様子に、なぜかちくりと、胸が痛くなった。

 あたしはイマドとこんなふうに話せない。
 でも、彼女は――。
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