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第9話 至高の日常

動揺 Episode:10

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「えっと……上級傭兵の先輩たちは、そのうち来るのよね?」
「さようでございます」

 だとすれば今できることは、たぶんひとつだ。

「――先輩たちがここへ来るまで、あたし、待つことにする」

「了解しました。
 ではその間に、着替え等をお持ちしましょうか?」

「ありがと。
 それと……予備の精霊、持ってこられる?」

 可能なら、イマドに届けるつもりだった。

 タシュア先輩やシルファ先輩は自分の精霊を持っているだろうけど、イマドはそうじゃない。
 けどこういう現場では、精霊があるかないかでは、助かる率が大きく変わるのが普通だった。

「どのような精霊をお持ちしましょうか」
「えっと……」

 起こりそうな状況を考えてみる。

 ふつうなら威力が高い精霊を選ぶけど――今回は場所が病院だ。ヘタなものを使ったら、丸ごと巻き添えになる。
 このあたりを思うと、破壊力に頼る場面は少なそうだ。

 だとすれば……。

「防御関係に強いのって、ある?
 物理攻撃と、あとできれば魔法も防げるのが……」

「ございますよ」
「うそ……」

 自分の家のことながら、改めて驚いてしまった。

 ――まさかこのケンディクにまで持ち込めるほど、数があるなんて。

 意外だけどこういう小回りが利く精霊は、種類が少ない。
 なのにそれを、こんな遠いケンディクまで持ってきているのだから、実家には間違いなく複数あるはずだ。

「シュマーって、そんなに凄かったんだ……」

「グレイス様がそれを仰られては、少々困りますが。
 いずれにせよ時間をいただけますか? すぐにこちらへ持ってこさせますので」

「うん」

 ドワルディが目配せして、ケイカがうなずく。

 僅かな時間彼女の瞳が何も映さなくなって、今度はケンディクにいるロシュマーの誰かに連絡しているのだと分かった。
 それからまた、あたしのほうへ視線が向く。

「申し訳ありません、グレイス様。揃えてここへお持ちするのに、15分ほどかかるそうです」
「大丈夫。時間、あるもの」

 何しろ今は、待つしかない。

「恐れ入ります。
 それとひとつ、新しい情報が入りました。人質の開放交渉が始まったそうです」

「ほんと?!」

 これはいちばん気にかかる情報だ。

「どんな感じなの?」
「食料と引き換えに一部の開放を要求したものの、かなり難航しているようです」
「そう……」

 あたしは病院を見上げた。
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