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第9話 至高の日常

掌握 Episode:12

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「すみません、何かあったら……応援を呼びます。みなさんは、控え室の中で」
「ええ」

 もう一度微笑んで、看護師は病室を出て行った。

「俺、もしかして重病人ってヤツですか?」
「そうらしいな。おとなしく寝てると、いいんじゃないか?」

 さっきタシュアにいろいろ言われたのが、どこかで引っかかっていたらしい。
 後輩につい、そんなキツいことを言う。

 だがこの後輩、私の八つ当たりなどまったく効かなかった。

「んじゃ俺寝ますんで、あとお願いします」
「いや、それは違うだろう……」

 自分でも少々情けないのだが、思わずそんな否定の言葉になってしまった。
 しかもそれ以上、反論の言葉が見当たらない。

 こんな格好をするハメになったり、後輩に言い負かされてしまったり、なんだか今回は散々だ。
 疲れてため息をつきながら、イマドに言う。

「――カーテンを、閉めてくれないか?」
「へ? いいですけど」

 イマドにカーテンを閉めてもらったところで、タシュアから借りた短剣を手にした。
 鞘を外す。

「先輩、まだちょい早いんじゃ……」
「いや、そうじゃない」

 ベッドの傍らへ降りて、借りた白衣を見た。

「先輩?」

 イマドが怪訝な顔をする。

 それには答えず、私は短剣を裾に当てた。
 一気に切り裂く。

「せ、先輩!」
「こうしないと……動けない」

 借りたものにこんなことをするのは気が引けるが、そのままでは間違いなく、動きが制限されてしまう。
 それでもなんとなく気落ちしながら、私はベッドに腰掛けた。

 ――後で、謝らないと。

 状況が状況だし、あとで新しいものを返せるのは分かっているが、他人の物にこんなことをするのはやはり楽しくない。
 その私へ、おそるおそるといった調子でイマドが声をかけた。

「あの~」
「――なんだ」

 自分の声が、少し尖っているのを感じる。

「いや、その……なんつーか、えーと……」

 後輩の言葉は、妙に歯切れが悪かった。

「はっきり言ってくれないか」
「『はっきり』っつわれても……」

 まだ言おうとしない彼に、少々呆れる。

 ――これから、突入があるというのに。

 だが、すぐに思い直した。
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