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第9話 至高の日常

掌握 Episode:11

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「でもあの子たち、何も食べてないから心配で……」
「それでしたら、お菓子とミルク程度ですが、けっこくな量が渡ってるはずです」

 これも病棟違いのせいで、伝わらなかったらしい。

 まぁあれだけ犯人たちが見張っていたら、お互いに話すこともできないだろう。
 それを考えると、仕方がないと言えた。

「それにしてもシエラの方は、すごいですねぇ。そんな小さい子まで、犯人と対等に渡り合うんですから。
 おかげであの子たちに、食べ物が渡せて良かったですよ」

「あ、はい……」

 同じ学院生でも、ルーフェイアは間違いなく例外なのだが、それを説明しても分からないだろう。

「それですみません、こちらの病棟の様子を……教えて、いただけませんか?」

 だいたいのことは例の主任から聞いているが、あくまでも間接情報だ。ここの担当から直接聞くのに、勝るものはない。

「病棟の様子……でしたらいっそ、私と一緒に回りますか?」
「え、できるんですか?」

 驚いて聞き返すと、この人がニコニコと笑って言った。

「だいじょうぶですよ。私ね、騒ぎになってから何度も、病棟の見回りしてますから。
 だってほら、患者さんが心配でしょう?」

 患者思いといえばそれまでだが、この状況下で見回りが出来る精神力に舌を巻く。

「そうしたら……お願い、できますか?」
「はいはい、喜んで。じゃぁ行きましょうか」

 連れられて、病室を出る。

 この人はもう慣れているらしく、犯人に会釈しながら、手早く病棟を回っていった。
 その後ろから歩きながら、敵の配置を確認する。

――言っていた、とおりだな。

 向こうの病棟の主任から聞いてはいたが、ほぼそのままだ。

 廊下に4人、昇降台前にそれぞれ1人づつ。加えて両方のナースステーションに3人づつと、子供たちを見張っている3人。
 これに交代要員も加えると、そうとうな数になるはずさ。

 考えながら歩くうち、気づけば元の場所に戻ってきていた。

「じゃぁあなた、悪いけどあの患者さん、いつ急変するか分からないから頼みますね。
 なにしろ、持病のある方だそうだから」

「え?」

 戸惑う私に、この看護師がいたずらっぽくウインクする。
 瞬間気がついて、私は言葉を返した。

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