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第9話 至高の日常

掌握 Episode:10

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「それなら、いいんだが」

 もっともイマドの言うとおり、心配はないのかもしれない。あれでルーフェイアは、小さい子の面倒を見るのは上手だ。
 それからふと、不安になる。

「――読んだのか?」

「あ、すいません。気に障ったんなら謝ります。
 けど俺、その辺の人の会話が聞こえる感じで、漠然と聞こえちまうことあって……」

「いや、いい」

 わざとやったのでなければ、私も追及するつもりはなかった。
 聞こうとしなくても、聞こえてしまうことがある。それと同じレベルなのだろう。

 それに今回は彼のこの能力?に、だいぶ助けられている。
もし早い時点で外と連絡が取れていなければ、人質の子供たちは、かなり危険な状態に追い込まれたはずだ。

 またちらりと、時計に目をやる。
 早くその時間になって欲しいのか、それとももっと時間が欲しいのか、自分でも分からなかった。

 ともかく今のうちにと、髪を結い上げる。

「ここの病棟の人と、顔を繋いだほうがいいな……」

 長丁場にならないことは分かっているが、まったく面識がないのも問題だ。

「呼びます?」
「ああ」

 私の答えに、後輩が呼び鈴を押した

「どうしました?」

 ベッドに据え付けられた、院内用の通話石から、応答がある。

「すみません、誰か応援を」
「……え? あ、8号室ね、分かりました」

 少しして、中年の看護士が入ってきた。ここの責任者のようだ。

「お呼びして、すみません。私たちが出て行くより……問題がなさそうな、気がしたので」
「大丈夫、分かってますよ」

 芯が強そうな物言い。
だが見かけは小柄で少し太めで、子供たちに好かれそうな人だった。

 私が何か言うより早く、この人が再び口を開く。

「子ども達、どうなってます?」
「すみません、倉庫の中の細かいことは、私たちにも……」

 間違いなく今いちばん心配な事なのだが、私も正確に答えることは出来ない。
 それでも分かる範囲で、特にルーフェイアのことを教えると、この人がほっとした表情になった。

「先ほど何か騒いでたと思ったら、そういうことだったんですね」
「ええ」

 向こうの病棟で起こったことだったせいで、こちらには何があったか伝わっていなかったようだ。

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