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第9話 至高の日常

そしてまた日常 Episode:02

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(――なによりですか)

 しばらくは怖い夢をみたりするかもしれないし、注意深く観察していく必要がはあるが、その程度で済むだろうとのことだった。

 意識を戻し、そのまま本を読み続ける。
 実を言えば自分でも狙っていた新刊だ。面白くないわけがない。

 そのまま夢中になって、しばらく時間が過ぎた。
 辺りが騒がしくなる。

 なんとなく顔を上げ時計に目をやって、タシュアはその理由を知った。

「もう、そんな時間でしたかね」

 既に時計が12時を過ぎを差している。だがまだ、ルーフェイアは眠ったままだった。

「――いつまで寝ることやら」

 言いながら立ち上がる。この病院では、動ける患者は食堂で食事を取る決まりだ。
 一度だけ少女のほうに視線を向け、変化がないことを確かめてから、タシュアは病室を出た。



 午後になってもルーフェイアは、目を覚まさなかった。
 あの精霊が言ったとおり、そうとう身体に負担がかかったらしい。

 学院からは予定通り午後に、シルファやイマドと一緒にムアカが出向いてきたが、容態を確かめただけで戻る羽目になっていた。

 そしてタシュアは、結局今夜もここへ泊まりだ。

 どこが悪いわけでもないので、いいかげん帰っていいはずなのだが、シルファが承知しなかった。
 加えて例の主任までシルファに同調してしまい、そのまま退院できずだ。

 とは言え入院した時と違い、シルファがここへ何冊も本を持ってきてくれている。
 また食料も自由に売店へ行って調達できるため、不自由せずに済んでいた。

 ルーフェイアのほうは相変わらず、ほとんど姿勢も変えずに眠っている。

 胎児のような姿勢だった。
 何かを恐れるかのように、自分の身を守るかのように、手足を縮め身体を丸めて……。

(何をそれほど、恐れるのでしょうかね)

 こういう形での恐れと言う感覚は、タシュアは持ち合わせていない。
 脅威が来たなら目を覚まして退ければ済むだけ、そう思っている。

 ――もっとも今のルーフェイアには、それも出来ないだろうが。
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